変質者さんと家出少女4
僕たちはひたすらに車を走らせ続けて気が付けば田んぼと山しかない田舎道に来ていた。少女は時々僕が流す曲について話したり、鼻歌を口ずさんだり眠ったりしていた。僕も少女の話にあいづちをうったり一緒に鼻歌を歌ったりした。
気が付けばあたりは暗くなってきていた。僕は当てもないドライブの終わりに目的地を定めてそこに向かって車を運転した。
少女は夜が近づくにつれて元から憂鬱そうな顔をさらに暗くしていった。
「今日は中々に楽しい一日でした。もしかしたら人生で一番楽しかったかもしれません」
「連れまわした本人からしたらありがたいお言葉だね」
「本当ですよ。だから今日が終わってしまうのがたまらなく憂鬱なんです」
「今日はまだ終わらないでしょ?」
「それでも必ず終わります。始まったら必ず終わるんです。ずっと続くものなんてないんですから」
「ずいぶんと難しいことをいうんだね」
「普通のことです。楽しい時もつらい時も苦しい時も必ず終わりは来るんです。そう考えていないとつらいので。もっとも楽しい時なんて私にはなかったんですけどね」
確かに少女の生活を考えるとそうなのだろう。いつだって辛い時間を過ごしたに違いない。だからこそもう報われてもいいだろうって僕は思ったんだ。家庭の事情とか、学校での生活とか僕にはどうすることもできないけど、それ以外の時間の過ごし方なら僕にだって手伝えるって思ったんだ。だから僕は彼女にこう言ったんだ。
「もし君が家庭での生活や学校生活が嫌になったときはいつでもあのアパートに来るといい。君の大事な十代の一日を台無しにする。酒を飲んで二日酔いの頭で当てもないドライブに連れ出す。だからいつでも来ていい」
少女は驚いた顔で僕の顔をみる。それから少し下を向いたと思ったら小さく嗚咽するような声が聞こえたんだ。
目に涙を浮かべながら呼吸を整えて少女は震える声で言った。
「ありがとうございます。変質者さんは優しいんですね」
暗いし運転中なのでよく見えなかったけど、それきっといい笑顔だったに違いない。なんでかな、僕にはそう思えたんだ。
一通り持っているCDをかけ終わった後に少女の希望でStarting Overを流した。僕もこの曲は嫌いじゃなかった。少女も好きみたいで僕たちは一緒に口ずさんだ。