変質者さんと家出少女1
僕が少女に恋をしたのはちょうど一年位前の話だったかな?
当時の僕は高校を卒業して定職にもつかずにふらふらとしていたっけな。親父がいい加減就職しろってうるさく怒鳴るもんだから家を飛び出して一人暮らしを始めたばっかりの頃だ。
まあ生きていくには金が必要で、僕はしょうがないからバイトをしていたわけなんだけど。その帰り道だったな。確か時間は十二時を回っていたと思う。真夜中の公園で一人ブランコに乗っている女の子を見つけたんだ。
一瞬幽霊かと思ったね。こんな時間に制服の女の子が一人でブランコに乗っているなんておかしいし、またその女の子が長い黒髪だったのも幽霊と勘違いした要因だったね。
そこで何を思ったか僕、その子に話しかけたんだよね。普段ならもちろん素通りする場面だけど。それが当たり前の行動だよね。知らない人に話しかけるなんてそれだけでリスキーな行為なのに、ましてや相手は女子高生だ。これはご近所さんに通報されても文句は言えない場面だったね。でもそれ以上に僕はこの少女に、この場面に惹かれていたんだろうな。退屈な日々に新しい刺激がほしかったみたいな。そんな感じだったと思う。
僕は少女に近づいてこんな時間に何してるんだいって尋ねたんだ。はたから見たら女子高生をナンパしているようにしか見えなかっただろうけどね。実際やっていることはナンパとそんなに変わりないわけだけど。
その子はけだるげにこっちを向いて
「帰る家がないんです」
って答えたっけ。印象的だったのが大きな目だったな。普段ならそういった子には可愛いなんて印象があるんだろうけど、この子の目は死んだように濁っていたんだ。何かをあきらめたような、何にも期待していないようなそんな目をしていたのが印象的だったよ。
「家出でもしてきたの?」
「違います。家に帰りたくないだけです」
「それを世間的には家出っていうんじゃないのかな?」
少女の隣のブランコに腰かけるとあの死んだような目で僕のことを見てきたっけな。僕はどうにもその視線が気に入ってしまって彼女に聞いてみたんだ。
「よかったら僕の家に来ない?部屋は一つしかないけどこの公園のブランコよりはよほどよく眠れると思うよ」
少女は顔を前に向けて僕から視線をはなす。
「別にいいですけど私の体が目当てなら非常に残念な思いをすると思いますよ」
まあ完全に下心がないなんて言ったらうそになっちゃうけどさ、僕もまだこの段階ではそんなこと微塵も思って無かったんだけどね。
「別にそんなこと思ってないよ。ただの興味本位っていうか、一回こんな場面に出くわしたら聞いてみたいことがあったんだ。なんでこんなことしてるのかってね」
少女は再びこっちを向き僕の目見つめた。二十秒くらいそうしてたかな?
僕から視線を外してまた前に戻すとぽつぽつと語り始めたっけ。
「私の家は正直言ってあまり家庭環境というものがよくないんです。父親は定職に就かずにずっとふらふらしてお酒ばかり飲んでいます。母親は私が五歳の時に私と姉を置いて家を出ていきました。姉はあまり素行のよくない人たちと絡んでいて家に帰ってくることなんてまれです」
少女はいったんそこで話を切ると僕のほうに向きなおった。
「さすがに春先といっても少し寒くなってきました。この話の続きはあなたの家についてからにしましょう」
そういってブランコから立ち上がるとてくてくと歩いていってしまう。
「何しているんですか?早くいきますよ変質者さん」
まあ確かに今の僕の行動は変質者といわれても仕方ないものだけどさ。
それから僕たちは二人並んで僕の家まで歩いていった。二人とも一言もしゃべらなかったけど不思議とその沈黙は気まずくなかったな。確か空にはまん丸いお月様が出てたっけ。彼女も僕もまるでその満月を目指すように歩いた。僕の家がそっちの方向だって理由なんだけどね。