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狐塚喫茶店2

作者: 沖裏

「おはようございます」

前を行きかう人々に挨拶を交わした。

まだ朝方の為、行き交う人は少なく、ジョギングしている人や犬の散歩をしている人を

見かけその度に警察官の向山 塔真(むかいやま とうま)は挨拶をしていく。

挨拶を返してくれる人もいれば、返さずそのまま過ぎ去っていく人もいる。

それでも通る人々に挨拶をするのを心がけている。

「当直お疲れ様」

上司が当直終了を伝えに来た。

交番の中に戻り、捜査書類がいくつか残っていたので、それを片づけ

「お疲れ様です」

上司に挨拶をして帰路に就いた。

当直(24時間勤務)の後の為疲れてはいるが、家にそのまま帰り夕方まで寝て過ごすのも

もったいないかと思い、商店街をぶらつくことにした。

ぐうぅぅ…と腹の虫が鳴き、どこかで朝食を取るかと思い周りを見渡すと、


『狐塚喫茶店』


その看板と店前に展示されているメニューを見て、

とりあえずここで朝食を取りながら今日どうするか考えるか

―カランカラン

「いらっしゃいませっ!」

扉を開けると、まるで来るのが分かっていたかのようなタイミングで

ウェイトレスが入ってすぐに出迎えた。

ウェイトレスの蜜原 幹(みつはら みき)は元気な声と笑顔でいつも交番前で道行く人と挨拶を交わしているが、この元気の良さは珍しくその様に関心をした。

周りを見渡すと年を召された男性が一人おり、ふと目が合うと

「おやっ、お巡りさんじゃないですか。 どうもおはようございます」

席を立ちこちらに挨拶をしてきたので、

「おはようございます」

挨拶を返し、そのままウェイトレスに案内され、カウンターに案内された。

男性は挨拶した足でそのまま伝票を持って、再び頭を下げて店を去って行った。

ウェイトレスは男性を見送った後、メニューを持ってきて、

「ご注文お決まりになりましたら、お呼び下さい」

それからメニューを見ていると、お腹が空いているので、どれもおいしそうに感じ

迷っていると、

「お客さん。注文決まったかい?」

ふと声のした方を見ると、カウンターに肘をつきながら、女性が聞いてきた。

狐塚 紗江(きぬはた さえ)、この店のマスターで、普段パトロールをしていると、

たまに店の前で姿を見かけ挨拶を交わす。

「いえ、 まだどれにしようか迷っていましてね」

「そうかい。 よかったらモーニングセットはどうだい?」

カウンター横にある黒板を指さしており、そちらに目を向けると


“モーニングセットA ホットケーキ+コーヒーor紅茶”


チョークでホイップクリームが乗ったホットケーキとコーヒーが描かれていた。

徹夜明けなので、甘いものが食べたい気分であり、またコーヒーで頭をスッキリさせたいと思い

「じゃあそれを1つお願いします」

注文すると、女性はニカッと笑い、

「ご注文ありがとうございます」

そう言い、マスターは厨房に向かい、厨房の中で料理の準備をしながら、

「お客さん。 コーヒーは食事と一緒に?それとも食後でいいかい?」

「食事と一緒にお願いします」

「ご注文ありがとうございます。 幹ちゃん伝票よろしく」

そうウェイトレスに告げると、料理にかかった。

ウェイトレスは私が注文取るのに…とぼやきながら、レジ横の伝票に書き込んだ。

そんなやりとりを横目に、ふと窓の外に目を向けてみると、

子供が走っていき、その後ろをお父さんお母さんが元気に走りまわる姿に微笑みながら一緒に歩いており、その近くではクラブに向かうのであろうテニスラケットを背負った学生達が仲間同士とはしゃぎながら歩いていた。

そんな外の光景を眺めていると、

「ホットケーキとコーヒーお待たせしました」

ホットケーキの甘みとコーヒー独特の香りに心を躍らせながら、

ナイフとフォークを持ち食べようとすると、

「お客さん。こちらもよかったらかけて食べてください」

コトンッと小瓶が置かれ、中をのぞいてみると蜂蜜が入っていた。

せっかくなのでホットケーキにかけて食べると、

ホットケーキのふわっとした食感と蜂蜜の甘みが口の中に広がり、

またコーヒーのほろ苦さが染み渡り、眠りかけていた頭が冴え渡っていくのが分かる。

気が付くともう食べ終わり、コーヒーを飲もうと思ったが、

カップを持つと中が空だということに気が付き、

「よかったらもう一杯いかがですか?」

ちょうどいいタイミングでウェイトレスが笑顔で尋ねてきた。

カップを掲げ、

「ではもう一杯お願いします」

「ご注文ありがとうございます! 紗江さんコーヒー一杯お願いします」

マスターは片手を揚げ、コーヒーの準備に取り掛かった。

ウェイトレスが食器類を片付けながら、

「そういえばお客様ってお巡りさんなんですね」

「ええ、そうですね」

急に自分の職業を当てられ驚いたが、入ってきた時にいた男性と挨拶した時に

聞かれていたのかと思いだした。

「いつもお疲れ様です!」

右手をかざし敬礼してきたので、それに合わせこちらも敬礼し、

「そちらこそお疲れ様です」

返事をすると、ウェイトレスはにこやかに笑い、

「お巡りさんのおかげで平和な町で助かってます」

「いえいえ、私なんてそんな大したことしていませんから…」

「そんなご謙遜をしなくてもいいじゃないですか。」

「だから私は大したことができていないんですよ!」

バンッと机を叩き立ちあがり答えていた。

「あっ…、お客様失礼致しました」

ウェイトレスが慌ててお辞儀をした。

「いえ、こちらこそ急に怒鳴ったりして、悪かったよ」

苦笑いしながら席に座り、ため息をついていると、

「お客さん。うちのスタッフが迷惑をかけて申し訳ないね」

続けざまにマスターから謝罪され、ははっ…と苦笑して逃れようとしていると、

「しかし、お客さん。なんか悩み事があるのかい?」

「さっきの様子だと、普通素直に受け取ったりしそうだけど、

 あんな過敏に反応するってことは現状に満足してないのかい?」

普段溜め続けていたのが、つい漏れ出てしまい、その上核心を突かれたが、一呼吸し

「いえ、別に大丈夫ですよ」

笑顔を作り受け答えをするが、

「まぁ一般市民に警官が仕事に対して不満があるってぶちまけるわけにはいかないもんね」

そう私は現状の仕事に対して不満があるが、こんなところでぶちまけるわけには…と考えていると、

「だけど今は私が喫茶店(ここ)のマスターであなたはお客さんだ。お客さんがくつろげるなら、貯め込んでいるものを出して、それを聞くだけならできるよ。」

ニカッと笑いながら言ってきた。

確かに貯め込み過ぎて、先程みたいに漏れ出てしまうくらいなら、

「すみませんが、お言葉に甘えさせていただこうと思います。」

そして語り始めた…



――私の幼い頃の話になる…

一緒に母と買い物をしていた帰り道に、母の横を原付が通り過ぎていったと思ったら、

母が叫び、その原付を見てみると、二人乗りをしている少年達で、

その後ろの少年が母のバッグを持っていた。

そう、ひったくりをされたのだった。

周囲にいた人は可哀そうにとういう人や、危ないもんだと傍観しているだけの人達がいるが、こちらを助けてくれる人はいなかった。そして母はひどく狼狽しており、こうなったらと思い、私はその原付に向かって追いかけていった。

当然原付に走って、まして子供の足では追いつけるはずがなかった。

それでも、捕まえてやるという意気込みで走り続けていると、

「そこの原付待ちなさいっ!!」

と横から声がして、そちらを振り向くとお巡りさんが自転車で必死に追いかけていた。

そのままお巡りさんは私の横を通り過ぎて行き、原付に乗った二人組のひったくり犯を追いかけていった。

その後私も走っていったが姿が見えなくなり、とぼとぼと母の元に戻っていくと、

母はまだ盗られた場所で狼狽しており、母をなだめた後、

「ごめんね。頼りないお母さんで」

私に対して謝ってきたが、犯人を捕まえられず謝罪も素直に受け取れずにいると、

「よかった。まだ居て頂いて」

ふと見上げると、先程通り過ぎていったお巡りさんが息をきらしながら、

「奥さん。この度は大変でしたね。ただ…」

そう言い、横にずれると先ほど居たひったくり犯二人と盗っていった鞄を掲げ、母に手渡した。

息を整え、笑顔で母に伝え、またひったくり犯二人に向き直り、

「さぁ君たちこの人に言う事は?」

少年たちは目を伏せながら、

「「すみませんっした」」

母に向かって頭を下げ謝った。

「こうして返ってきましたから……」

少年達の行動にどう対応していいのか困惑していると、

「奥さん。中に入っている物の確認をお願い致します。」

母は中を確認すると、胸をなでおろし、

「ありがとうございます。中はそのまま大丈夫でした。」

母はお巡りさんに向かいお辞儀をした。

お巡りさんは謙遜しながら、今度は私の方に向かってしゃがみ、

「僕が走ってくれたおかげで、犯人を捕まえることができたよ。協力ありがとう。」

そう言いながら、私の頭を撫でてくれた。先程まで何もできなかったと落ち込んでいたが、

お巡りさんに向かってそう言われると達成感が沸き嬉しくなった。

母となんらかのやりとりをしながら、

「僕も元気で。」

と手を振り少年達を連れて去って行った。



――そんな姿を見て、私は将来には誰かを救う警官になるんだと決意して、

必死に努力してきた。

そして念願の警官になり、町のパトロール等しておりますが、

私は一向に誰かを救うということができず、

警官になったというのに私は何もできていないのでは、と最近悩むようになりまして……

そう語り終えると、隣で聞いていたウェイトレスはどう声をかけていいのか、

言葉を考えているようだった。

やはりこんな話をするべきではなかったかと考えていると

「確かにお客さんは何もしていないね」

挽いた豆をドリップしながら答えていた。

「ははっ…やっぱりそうですよね」

他人からそう言われると分かっていても来るものがある。ため息をついた。

「あぁ悪いねぇ。さっきのは言い間違いだよ」

マスターはこちらの様子を見て、ふと気が付きそう言い、

「お客さんは何もしていないんじゃなくて、何もさせてないんだよ」

「えっ…! それはどういう?」

ため息から驚きに変わり、マスターの顔を見上げる問いかけると、

マスターはニカッと笑いながら、

「だってお客さんはいつもうちの前を通る度に挨拶をかけてくれるだろ。

 その後も見かける人に声をかけていってるの見かけるから、人と会う度に挨拶を交わしているんだろう?」

「あ、そういえば私もこの前公園前の交番を通った時に挨拶をしてくれてましたね。」

横からウェイトレスがにこやかに言ってきた。

「やっぱりどこでもそういう風に声をかけているんだね」

「まぁただ立っているだけでなく、挨拶くらいはと考えておりますが…」

「その挨拶が大切なんだよ。お客さんが入ってきた時にもう一人いたお客さんが

 あなたに気が付いたじゃないか。きっとそういう風にお巡りさんの存在が、ちらほらと

 この辺りに根付いているんだよ」

マスターはドリップし終わったコーヒーをカップに注ぎ、

「お客さんの存在があるから、 下手に悪さが出来ない。つまり、 そういう悪さを何もさせないてないんだよ」

注いだカップを私の前に置き、

「だから自信を持って、 胸を張り、 これからもこの町の為に今まで通り変わらず、

 やっていってもいいんじゃないかい。これでも飲んでゆっくり考えてみるといいよ。」

香ばしいコーヒーと一緒に胸を打つ言葉にしみじみしつつ、

置かれたコーヒーに口を付けた。

確かに今まではなにか悪いことを捕まえるということに執着しすぎていたのかもしれない。

昔のお巡りさんのように格好良くないかもしれないが、

未然に防ぐことにより、誰かを救うことができるのなら、

私のやっていることにも意味があるのだろうな……


コーヒーを飲み終え、会計を済まし、

「今日はありがとうございました」

マスターに向かいお辞儀をすると、

「いえいえ、お客さんもこれからこの町の為によろしく頼みます」

ニカッと笑いながら、

「ありがとうございました」

ウェイトレスとマスターは告げ、

私は出て行った。


昼前となり、商店街を行きかう人が増え、皆笑いながら、過ごしている。

「よしっ、頑張るかっ!」


2話目投稿させていただきました。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

1話目もこちらと同様に完結になっておりますので、

そちらもご一読いただければ幸いです。

また3話目後日アップしたいと考えておりますので、

宜しくお願い致します。

では、ご来店ありがとうございました。

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