金の種類と価値
「メイ……そろそろ手を放してやってくれ。さっぱり話が進まん」
ラバートが告げると、メイは不承不承に頷き、俺の頬から手を放してくれる。
「お兄ちゃん……もう、へんなことかんがえちゃだめなの」
と、釘を刺すことも忘れない。
というか……本気で痛かったぁ。
ラバートの言い付け通りに身体強化を切らしていないのだろう……身体強化が掛かった俺にしっかりと痛みがある辺り、もしかすると感情の起伏と同調して、無意識に出力を上げる事が出来る様になっているのかもしれない……。
だとすると……メイを本気で怒らせたらヤバイな……軽く死ねる気がする。
俺は両頬をさすりながらメイを怒らせない様にしようと心に決める。
「……そろそろ始めて良いか?」
頬をさすりながらぼんやりとしていた俺を見兼ねたのか、ラバートが声を掛けてくる。
「あ、あぁ……問題ない。始めてくれ」
俺は頬をさする手を止め、居住まいを正してラバートに向き直る。
「さて、では金の種類と価値について説明する。種類については銅貨・大銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・白金貨の6種類がある。それぞれの価値だが、銅貨が10枚で大銅貨、大銅貨が10枚で銀貨、銀貨が10枚で大銀貨、大銀貨が10枚で金貨と基本10枚ごとに価値が上がっていく。ただし、白金貨だけは別で金貨100枚分の価値がある。では、それぞれの硬貨を実際に見せよう『闇箱』」
ラバートは闇箱を展開し、腕を突っ込んでそれぞれの硬貨を1枚ずつ取り出すと、テーブルの上に並べていく。
無造作に並べる様子を見て、ヒューイが何故か面食らった様に、アワアワしている……。
何だろうと疑問に思いつつも、それぞれの硬貨を手に取って眺めてみる。
全て円形で厚みはおよそ3mm程で統一されている。
大きさはそれぞれ一回り位ずつ異なっているが、大体直径1cm~3cm位だろう。
裏面にはそれぞれ異なる図柄の繊細な彫刻が施されている。
なお、表面には数字が彫られているので、価値の違いが一目で判かる。
硬貨のサイズを不等号で順に表すと
白金貨<金貨<銀貨<銅貨<大銀貨<大銅貨
といったところだろうか。
「へぇ……すごい繊細な彫刻だな。やっぱりこの彫刻で偽造を防止してるのか」
「うむ、これらは国のお抱えドワーフが作った原版に、硬貨毎の金属を流し入れて作られているらしい。ちなみに、国毎に図柄が違ったりはしているが、どの国でも同じ価値として使える。硬貨の側面に国の名前が入っていて、どの国で作られた硬貨か一目で分かる。5年に1度、各国の硬貨の品評会が行われており、それぞれの国の威信を賭けて彫刻の技術向上に励んでいる。その時にほとんどの国で図柄が一新される。国の顔とも言える硬貨だからな……それぞれの国の名所・名物等国の代名詞とも言える物が彫り込まれることが多い。ちなみに、以前渡した勇者の物語……あの舞台となった国では白金貨には必ず勇者が携えていたとされる武器が彫り込まれている。今は持っていないが、実に見事な意匠の武器だった……」
「へぇ……ところで、表面の数字の後ろに書いてある文字は何なんだ?」
「ふむ、それは金の単位の名称だな。オムと書いてある。この単位の名称は全国共通で、銅貨1枚で1オムだ」
「なるほど……それと、硬貨の種類やそれぞれの交換比率は分かったけど、それぞれの硬貨でどの位の価値……というか、どの程度の物が買えるのかを聞いて良いか?はっきり言って今迄の説明だけじゃ、金銭感覚が掴めない……」
この世界の人間なら、それぞれの硬貨がどの程度の価値なのか判るのだろうが、生憎この世界の人間ではない俺には全然理解出来ない。
聞いておかないと後々困ったことになるだろう。
「そうか……マサトには馴染みのないものだから、理解出来ないのも無理はない……。よし、ではそれぞれの価値が理解出来る様に説明しよう。そうだな……一般的な飯屋で定食を頼むと8~10オム、宿で1泊すると50~100オム。まぁ、客層によってはもっと高い場合があるが、一般の人が立ち寄る位の店では大体その位だろうな……。それと、一般的な家庭での1月の生活費は大体1500~2000オム位だろう」
ふむふむ……とすると、1オムは日本円に換算すると、大体100円位の価値だと判断するのが妥当だろうか。
つまり、
銅貨(1オム)……100円(百円)
大銅貨(10オム)……1,000円(千円)
銀貨(100オム)……10,000円(一万円)
大銀貨(1,000オム)……100,000円(十万円)
金貨(10,000オム)……1,000,000円(百万円)
白金貨(1,000,000オム)……100,000,000円(一億円)
おいおい……本気かよ!白金貨1枚で1億だと!?
というか、ラバートは何故全種類の硬貨を持ってるんだ!!?
何でも無い事の様に無造作に机に並べてたけど、とんでも無いぞ……。
先程ヒューイの様子がおかしかったのはこれが原因か……。
「時にラバート……白金貨は複数枚持っているのか?」
俺は気になっている事を恐る恐る聞いてみる。
ヒューイやメイも気になったらしい……身を乗り出し、固唾を呑んでラバートの返答を待っている。
というか、メイ……金の話が始まってから初めて反応したな……。
膝の上に居るから俺からは表情が見えないが、ヒューイ同様ずっと驚いてたのかもしれないな……。
「む?まぁ、ざっと30枚位はあるかもしれんが……やらんぞ?」
さ、30億……。
俺は思わず眩暈がしてしまう。
ヒューイは意識がどっかに飛んでいる様だ……口をポカンと開けて目が虚ろになっている。
メイは余りに衝撃だったのか、俺にもたれかかる様に倒れてくる。
「ラバート……この前ある程度の金はあるって言ってたが、どう考えても持ち過ぎだろう!!小金持ちどころか大富豪じゃねぇか!!!?」
俺の魂の叫びが食堂中に響き渡る。
見るからに光り物が好きそうなサーラがこの場に居なくて本当に良かった……。
俺は荒い呼吸を整えながら、そんな事を考えてしまうのだった。




