勘違い…
「……つまり、ヒューイの『風刃』を見て魔法を纏わせるのではなく、剣ごと身体強化をしてみようと思ったと…。マサト、本当にぬしは突拍子もない発想をするな…」
「……ありえん…」
ラバートが心底呆れた様に呟くと、ヒューイも頷きながら追従する。
「これって皆やってる事なんじゃ無いのか?魔法を纏わせる事を考えつく位なんだからもっと一般的だと思ってたんだが…」
「はぁ……、一応魔力を流し込んで強化位はする。だが…物に対して、身体強化同様に魔力を循環させようとは考えもつくまい…」
俺の問いに、ラバートが深く溜息を吐きながら説明してくれる。
「へぇ…そういうもんなのか…」
「で?次は何をするつもりだ?」
俺が納得していると、ヒューイが話しかけてくる。
「ん?次?」
俺は突然告げられたヒューイの言葉に、意味が分からず尋ね返す。
ヒューイはやれやれとばかりに頭を振って、質問の意味を説明してくれる。
「剣を抜く時に、先ずはと言っていただろう?まだ何か試したい事があるんじゃないのか?」
「あぁ…そうだったな。すっかり忘れていたが、今回はこっちが本命だった…」
「「!!!??」」
ラバートとヒューイが、俺の言葉にビクッと大きく反応しながら驚く。
「2人共…何でそんなに驚いてるんだ?」
「あ、あれだけの事をしておいて、あれが本命では無い…だと…。…ぬしは一体何をしでかす気だ…止めるのだ」
「わ、悪い事は言わん…止めておけ…な?」
俺のあっけらかんとした言葉に、ラバートとヒューイは慌てながら俺を制止しようとする。
「いや、だって…この天気で森の中がこんな状況だろ?今日試さないでいつ試すんだよ」
今の森の中は俺の試したい魔法にとっては、正にうってつけの状況だ。
是非この機会に試しておきたい。
「「!!!??」」
俺の言葉にラバート達は揃って驚愕の表情を浮かべると、
「馬鹿者!物事にはやって良い事と、悪い事がある。その位ぬしにも分かっているだろう!!」
「そうだ、森の中でやるべき事では無い…」
ラバートは俺に詰め寄りながら怒鳴るように警告をし、ヒューイも俺の両肩を抑えて、止めてくる。
2人の中で俺のやろうとしている事に思い当たったらしい、物凄い剣幕で俺に食って掛かってくる…。
「あ、あぁ…分かった…」
俺は2人の勢いに押され、ついつい返事をしてしまったが……。
???…何だ?俺は、一体何を怒られているんだろうか?
と、頭の中は疑問符で一杯だった…。
「分かれば良い…全く、幾らじきに雨が降るからといって、森を焼き払おう等とは…」
「全くだな…」
ラバートとヒューイから、とんでもない言葉が漏れる……。
森を…焼く…?…誰が?……俺か!?
「……違うわ!!!!!いくら俺でも森を焼くなんて発想浮かぶわけ無いだろ!!大体、焼く意味も理由もないわ!!」
「「!!?……違うのか?」」
2人の拍子抜けしたかの様なその言葉に、どこかで「プチッ」と音がした様な気がした。
俺の怒気を感じたのか、周囲の木々から一斉に鳥達が飛び立ち、茂みを揺らしながら、小動物が逃げてゆく。
俺は久しぶりに満面の笑みを浮かべ、ラバートとヒューイを見据える。
「「???……ひぃっ!!!??」」
ラバート達はいきなり飛び立つ鳥達や、逃げ始める小動物達に困惑していた様だったが、俺の笑みを見て悲鳴を上げながら怯え始め、俺から距離を取る様に覚束ない足取りで後ずさる。
だが…後ろを確認もせずに下がったため、2人共もつれる様に倒れ込んでしまう。
「……失礼だな…2人共…人の顔を見て怯えるなんて…なぁ?」
俺が倒れ込んだ2人にゆっくりと歩み寄ると、
「「……ひぃっ!!!???」」
更に短く悲鳴を上げながら、ズリズリと身を捩って後ろに逃げようとしている。
「……ところで、ラバート達の眼には、俺が森に火を放とうとするほど常識知らずな人間に映ってたんだな…いやはや、とても残念だよ…」
ゆっくり歩み寄って告げられた俺の言葉に観念したのか、2人は「ババッ!!」と居住まいを正すと、
「「す、すいませんでしたーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」」
と土下座をする。
鬱蒼と生い茂る森に、2人の言葉が響き渡るのだった………。




