【閑話】腹黒ヒューイ?
今回試験的にヒューイ目線での話を入れます。
~~~~~~side on ヒューイ~~~~~~
マサトとラバートがメイの今後について話し合っている最中、俺は今日の出来事を振り返っていた……。
今日は本当に色々あった…朝一番から異常に魔力の込められた攻撃魔法を撃たれそうになったり、やたら上機嫌なサーラにマサト用の服選びに連れまわされたり、余計な調味料を買い込もうとするサーラを押し止めたり……今考えると碌な目に遭っていないな……。
そして……今日一番の出来事と言えばやはり、メイを見つけたことだろう…。
俺達は予定通りに買い物や、諸々の用事を済ませ、帰り道を急いでいた。
「浮かれるのは構わないが…気は抜くなよ…」
帰り道の途中でも変わらず上機嫌な様子で浮かれるサーラに注意を促す。
「分かってるわよ♪大体、この森に私達を脅かすような魔獣なんていないじゃない。最悪、霊体のまま帰ったって良いんだし♪」
「マサトやラバートが心配するだろうが…無駄に2人を心配させたいのか?」
お気楽な様子で答えるサーラを窘める。
「うっ…わ、分かったわよ。気は抜かないようにする!」
「そうしてくれ…」
マサトが来て以降、サーラが格段に扱いやすくなった。
マサトの名前を出すだけで、言う事を聞きやすくなったのだ…。
今まで数多くの男達に言い寄られ…その全てを蹴ってきたサーラが、特段見栄えの良いわけでは無いマサトを気にする理由はいまいち分からないが、これで少しは大人しくなってくれるだろう。
そんな事を考えていた時だ…わき目もふらずに地面の匂いを嗅ぎながら、何かを追いかける事に夢中になっているスターヴドッグが視界に入る。
俺達は直ぐに足を止め、茂みに身体を隠しながら様子を窺う。
コイツは野犬が魔獣に進化したもので、標的になると匂いを辿ってどこまでも追いかけてくる厄介な魔獣だ。
俺達が見つかって、城にまで追ってこられても面倒だ…気付かれていないうちに始末するか…。
サーラも同じ事を考えたのだろう…スターヴドッグが背を向けているのを良いことに、魔法で先制するつもりの様だ。
「凍り付きなさい!!『氷弾』」
!?
俺は、サーラの詠唱に驚く。
昨日マサトが俺達に使ったものと一緒だったからだ…。
結果はマサトには遠く及ばなかったが、確かに氷弾だった…。
「いつの間に使えるようになったんだ…」
「昨日、皆揃ってマサトから話を聞いたでしょ?あの後、どんなものを、どういう風に飛ばしているのかってところを、更に詳しく聞いたの♪原理については分からなかったけど、弾の形と、回転させながら飛ばすってのをイメージして、夜の間に練習してたのよ♪まぁ…マサトの魔法に比べたら、威力もスピードもまだまだだけど…今まで使ってた氷球なんかに比べたら格段に上ね♪」
サーラは本当に嬉しそうに話してくれた。
マサトを気に入っている理由もそこにあるのかもな…。
俺がそんな事を考えている間に、サーラが仕留めたスターヴドッグに近付いていく。
「コイツは何を追っていたのかしらね……ん?血の跡……ヒューイ!!ちょっと来て!」
サーラに呼ばれ一旦考えを打ち切ると、サーラの方に走り寄る。
「…どうした?」
サーラはスターヴドッグが向かおうとしていた先を見据えていたが、俺が声を掛けるとこちらに振り向き、話し始める。
「コイツ、この血の跡を辿ってたみたいなのよ…ちょっと様子を見てくるから、コイツを闇箱にしまっといてくれる?」
「あぁ…構わないが…気をつけろよ」
「えぇ♪」
そう言うと、サーラは慎重に血の跡を辿っていく。
サーラの姿が見えなくなるまで確認し、闇箱の詠唱を開始する。
『闇箱』
獲物を収納し、サーラのところに向かおうかと思ったところで、慌てた様子のサーラが飛び込んでくる。
「ヒューイ!!大変なの!!兎に角来て!!」
「…何があった!!?」
再度走り出すサーラを追う。
5分程走っただろうか…一本の大きな木の根元に今にも死にそうな獣人の女の子が横たわっていた。
「サーラ、応急処置だけ済ませたらラバートとマサトを呼びに行け!俺達の手には負えん…!!」
「ヒューイ、アンタが呼びに行った方が…」
「この娘の血の匂いで直に魔獣が集まってくる!サーラでは接近戦でこの娘を護り切れん!!」
俺はサーラの反論を遮り、応急処置を始める。
俺もサーラも簡単な回復魔法しか使えない。
ここまで損傷が酷いとラバート位にしか対処できないだろう…俺達はひとまずの応急処置を終え、簡単な打ち合わせをする。
「目印代わりに光球を浮かべておく、お前達の目ならかなり遠くからでも追えるだろう?」
「えぇ…じゃあ、頼んだわよ!!」
そう言い残すと、サーラは全力で城に向かって行った。
結局、助けることは出来なかったが…今マサトに抱えられて、幸せそうに笑うメイを見れてホッとしている…。
しかし、随分と懐かれたものだ…アイツは天然の誑し体質なのかもしれんな…。
俺が考えに耽っている間に、メイに魔法と文字を教えることに決まったようだ…。
メイが眠たそうに欠伸をし、マサトに抱かれて部屋を出て行こうとしていた。
俺は挨拶を交わし部屋を出るマサト達を見送っていたが……!?
部屋を出る瞬間…メイが先程と同様に勝ち誇るかのような笑みを浮かべていた…。
いや、目の錯覚だろう…そうに違いない…。
俺がしばし固まっている間に、サーラとラバートはメイやマサトについて話し合っていた。
「しかし、わずかの時間であれだけ懐くとは…」
「本当よね…村の人達に冷遇されていたって聞いたから、普通もっと警戒するものだと思ってたんだけど…」
「ふむ…だから、かもしれん…」
「どういうこと?」
「我の仮説だが、冷遇されていたからこそ…自身に害意があるか、本能的に理解しているのかもしれん…ということだ」
「まぁ…確かにあり得るわね。…でも、どうしてそう思ったの?」
「ふむ…我を初めて見た時、あの娘は確かに怯えてはいた。が、どこか遠くに走って逃げるでもなく、近くの木に隠れただけだったであろう?帰り道で魔獣を見た時は怯えながら、逃げ出そうと暴れまわったことを考えれば実に不可解だ」
「そう言われてみればそうね…マサトが近付いた時も、もっと警戒していてもおかしくはなかった…」
「マサトに懐いているのも、契約の影響か、本能的に何かを感じとているから…かもしれんな」
「なるほどね…」
ラバートの説明に、俺もなるほどと頷く。
契約ね…ん?契約?
「…なぁ、1つ聞いて良いか?」
「ふむ…ヒューイが質問など珍しいな…どうしたのだ?」
「あぁ…いや、今のメイは1度死んで、蘇生と契約で蘇ったアンデッドだったよな?」
「ふむ、その通りだが?」
「何よ…何か気になる事でもあるわけ?」
俺の疑問の声に2人それぞれ反応する。
「あぁ…いや、今気付いたんだが…アンデッドのメイが眠くなる事はあるのか?少なくとも、俺やサーラは一度も眠くなった事は無い筈なんだが…」
俺がそこまで話したところで2人が顔を見合わせる…。
ガタタッ!!
2人同時に立ち上がると、
「ちぃっ…なまじ身体があるから失念していた!!」
「ガキんちょだと思って、甘く見てたわ!!」
と、吐き出す様に文句を言いながら走って食堂を出て行く。
俺は、走っていく2人を見ながら、メイがマサトに懐いた最大の理由を悟る。
なるほど…マサトが来てからというもの、この城の生活はマサトが中心になっている。
最近では、ラバートもサーラも常にマサトを気に掛けながら行動している様に思う。
つまり、マサトを押さえればこの城での生活は安泰となるのだ。
本能的にそれを悟ったからこそ、城の主であるラバートでは無く、マサトに懐いているのだろう。
末恐ろしいことだな…まぁ、見ている分には楽しめそうだ。
巻き込まれないように注意しながら、安全なところで高みの見物をさせてもらおう。
…ククク…頑張れよ…マサト♪
俺は心の中で、マサトにエールを送るのだった。




