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第一章:骨の傘

ゆっくり書いてました。

 誰もそれが君だという事は証明できない。

 それでも君は僕の前に時には急に…時には優しく現れてあの頃の思い出の、優しさの、浅はかさの隣に座り込んであの頃と変わらずにひひと笑ってくれるんだ。

 僕はそれが堪らなく好きで、哀しくなるほど大好きで…どうにも覚えていない時だってあるのに無理やり思い出そうとしてしまうほどだった。たとえ君がそれを沈めて殺してしまっていたのを知っていても。

 ただあの時新しい世界の扉を一緒に開いてくれたのは君だって思い込んでる。僕がこんな呪いにかけられてしまったのはいつからだろう、阿婆擦れな呪いめ、何百年何千年も僕に付きまとう気だ。

 君は何を目指しているのだろうか。

 あの瞬間永遠のお別れを終えたと思っていた君の体温を感じられるのが、幸せなのだろうか。

 違う。

 だから僕はこの呪いをくれた奴らを殺し続ける。

 似ている二人を僕はどうしたら良い?








「先生、これで今回の荷物は終いですァ!」

「ありがとうございます」

 ぽけぇとおっさんに礼を言う先生を眺めていた。

 あぁ、季節も無くなったくせに風だけはずぅっと涼しくなり退屈に溜まった泥のような感情を吹き飛ばそうとしてくれる……なんてつまらない詞を思い浮かべながら、隣のちょっと高い木箱に腰を下ろしているナナの髪を撫でる。

 ナナもぽっくりとした果物のような瞳で先生を見つめていた。

 どうも昔から言われるが血のつながった兄弟でもないのに良く似ていると言われる。各々感情表現が苦手だから同じように見えてしまうだけだと思っていたが、一度自分で意識してみるとそうは思えないようになってくる。

 …今は部屋を散らかした罰で運搬はすべてモリが引き受けている。つまりはとっても暇なのだ、とっても。だからと言って手伝いはしない、彼の罰の邪魔は無礼というものだから。

「ぁぁぁぁ…畜生ゥ…」

 呪詛か後悔かそれとも両方か、モリは喉の奥からがらがらと揺れる気分の悪い声を吐き出しながら木箱を必死に肩に乗せている。かわいそうだが、あれもこれもどれも全ての重量が彼の責任なのだ。憐れモリ。

 ただ、コイツは心内ホッとしているのだろう。なんせ真の目標はバレないままこの罰までやって来て、そして無断利用する気マンマンの資材を少しばかり拡張され始めた大きな金属製に見える建物に詰め込んでいるのだから。

 最後の木箱を担ぎ上げた背中に先生が「終わったらアトリエへ、昼にしますよ」と声をかけ去っていく。ナナもその背中を追おうとし、俺はそのナナを肩に乗せる。

「腰がァ……背中のォォ…中央当りがァァァ…」

 それからモリは二日ほどベッドから出ることがかなわなかったらしい。







 ナナとちょっと出かけることになった。どうもトマトを使った料理が良いとナナが小さく駄々をこね、それに便乗したモリのせいで買い足すことになったのだ。しかしナナに好きな食べ物があるのは驚きだった。空中構造体では有り合わせのブレッドと缶詰…そういえば持ってきた缶詰は先生に没収されたっけ…それらを黙々と食べていた思い出しかない、まだ知らないことがある…そう思うしかない。

 すっかり夕焼けの赤を塗られた市場をナナをおぶって歩く。

「あっらぁ先生のトコのぉ」

 すっかり俺らは先生の所の居候とイメージを持たれているようだった。この地区ならどこへ行ってもそう呼ばれる、ナナも簡単な挨拶ならしてくれるようになり世間話も少し盛り上がれるようになった。

 話題は最近のちょっとした出来事だったり、外の地区のお話だったりするが結局は話が長すぎてどうもならない。ナナも少しおっきくなってきた、体が、いつまでもおぶされるわけじゃないと聞き流す心の中で溜息を吐いた。

 買ったトマトを楽しそうに持つナナを頭の傍に感じながら今日の料理をどうしようか悩む。結局は何もかも忘れてしまえれば僥倖なのだ、そう呟いた。

 アトリエに帰るまでのちょっと長い道のり、もう少しで夜が来るというのが明かりを失っていく景色でわかるようだ。トマト料理なんてそう作らなかったがきっと何処かで味見でもさせてもらったんだろう、この地区が作っている野菜は種類が豊富で降りてこなければ見ることもない野菜がいくつもあった。

 俺は足を止めた。

「…どうしたの」

 ナナは不思議そうにトマトをいじくる手を止め問いかけてきた。うす暗くなった場所の影に俺はくっきりと人を見つけていた、影は見えないがこんなところに隠れているなんて普通じゃない。一定の距離を置いて回り込みながらアトリエへ抜けようとすると、その影は声をかけてきた。

「脅かす気はないんだ」

 彼はそう言って姿を現した、見たことのない男だった。

 陰から出てきた男は埃のついた服をぱふぱふと払い、少しせきごんだ。ナナは首を傾げながら器用に俺の後ろ髪を引っ張り耳を傾けさせる。

「……怖い」

「大丈夫だ、大丈夫」

 男はふらふらと動いて柵に腰を掛けると話を始めた。

「お前、先生のトコのやつだよな?」

 またそれか、心の中で関係ないと吐き捨てる。

 無言で頷くと頭に露骨なナナの重みがかかった。もう少ししたら手をつないで歩くぐらいにするか。

「話がある、時間はあるか?」

「先生は運ばれてきた機械の修復で忙しい」

 そんなことは無い、そう言われたらこう言えと教えられたのだ。まぁ先生の目を盗めているかはわからないが最近のモリは忙しそうに作業をしている、見つかってるのに一票だが。

「そうか…そうか。良いんだ、良いんだ」

 おかしなやつだな、そうナナにだけ聞こえるように呟いた。ナナはこくりと頷くとおでこを俺の髪へぶつけた。

 それから彼は別れの挨拶を告げるとまた陰へ消えて見えなくなった。こっちもせっかくのトマトがどうにかなってしまう前にアトリエへ戻りナナの好きな料理を作ることにした。

 僕らはまだ何も知らないのだと言い聞かせながら。







 それからまた時間が経った。こっちに来てからというもの随分と時間そのものが漠然としたものに感じられるようになったのかもしれない。それは広がる大草原や暖かい人のぬくもりの仕業かもしれないが、事実ゆっくりと流れているように見えて時間は相も変わらず俺の傍らを走り抜けていっているようだった。

 部屋も少し散らかってきた。

 お土産代わりに持ち帰ったガラクタや、もらい受けた書籍を積み重ね部屋を彩る。

 少しずつ変わっていっているのだろうか? 先生に聞いてもきっと答えを出してはくれないだろう。

 また俺は何処かにひっそりと浮かんでいる天を仰いだ。

 アトリエのドアについたベルがガラガラと鳴った。来客だ、モリはまた隠れて作業…先生とナナはまた何処かへ行ってしまったのだろうか、仕方なく上から降りて客のお相手をしようとする。

「お前だけか?」

 そこにはユウさんがどっさりと座り込み空のティーカップをくるくると回していた。

「先生ならお出かけしてますよ」

「そっか、なぁ遺跡探検に興味は出たか?」

「探索になら」

 空のティーカップに作り置きであろうお茶を淹れてあげよう。トレジャーハントをしている彼は普段何処に住んでいるのか。先生の旧友らしいというのはあの時に知ったが、どうもこの人もはっきりしないな。

「暇あるか?」


 携帯食料をほんのちょっぴりポーチに詰めてユウさんの背中を追う事になった。

 地区の集落を出て畑を横切り草原に足跡をつける。小さな丘を越えたところに小川があったがユウさんは「浸かるなよ」と言って飛び越えていった。

 小川を飛び越えるのに慣れるのも遺跡探索に関係あるのだろうか。一息吸い込んでなんとか小川を飛び越えたその先には初めて落ちてきたときのような廃墟群がそこには広がっているだけだった。

 見慣れたようで、見慣れない景色。

 くぼんでいるらしくどうやら見てくれよりも広いらしいその廃墟の先には話に聴いていた塔形の遺跡があり、それに向けて続いているようにも見えた。

 古く錆びついたフェンスが残っているらしく乗り越えようと手をかけると少し離れた場所へ向かったユウさんが「こっちだ」とだけ喋るとそこのフェンスに空いているらしい穴に入り込んでいく。

 納得できないが付いて行くしかない。そうなんとか心をなだめすかしながら足を動かす。

 最後にたどり着いたのは子供が遊べそうな空地だった。

 壁に使われる漆喰のようなものでできた大きな管がそこらに散らばっていて、それぞれひび割れていたり砕け散って灰のように壊れてしまっているようなものばかりだったけど…。

 彼はその管に座り込むとぼぅっと遺跡を見つめながら言う。

「デカイよな」

 それは力ないうわ言のように聞こえ、返事をすることさえ躊躇わせてくれる。

「人が作ったんだぜ」

 大きさはよくわからないが、先生が教えてもらった数字と単位でいうなら600メートルもくだらないと言ったところだろうか。それがおそらくキノコやパラソルのような形だったのだろうが、今はもう上は骨組程度しか残ってはいない。

 素人目にもわかるぐらい無茶苦茶な構造をしている。

「わかるんですか?」

「知らないね」

 理不尽に話を切りユウさんはぼぅとその遺跡を眺めつづけている。傍から見ても何か思い入れがあるのだとわかってしまう。

「意外と…詩人なんですか?」

「空から飛び降りる奴に言われたくないね」

「………」

「軽食にするか」

 軽鍋に水を入れユウさんが着火器具をカチカチといじり始める。その間に固形スープを鍋に入れておいて乾燥肉や野菜を鍋に放り込む。時間は食事をとるような時間じゃないのだが、ユウさんは食べたいと思った時に喰う主義だと言うのでそれに付き合うことにした。

 遺跡が赤い空に残った影みたいに薄暗くなる。

 雑草などをかき集めた火の種に火が灯る。

「なぁ、お前の故郷とやらの話を聞かせてくれよ」

「いいですけど、そんな長くなりませんよ」

「飯が出来るまでで良い」

 まだ鍋は煮えていないようだ。

 手始めに空中構造体と呼んでいる場所がどういう場所なのかを簡単に説明する。原因や理由なんて聞かれたら困るけどもおそらくただ浮いているだけなんだと思う。勿論、空中だから土や水は貴重だが高層にある雲からなんとか水を採取する術などを得ている。

「…地面は土じゃないのか」

「はい。建築には発見された煉瓦やその硬い地面をブロック状に切り取った物を使うんです」

「じゃあアスファルトだな。そんなもんが浮いてるのか」

 周りには似たような小さなガラクタも浮いていて、それを無理やり回収するような仕事もある。危険なだけ配給は奮発されるけど、それでいなくなったっていう人を俺は知っている。

 構造体自体はどうやら一か所にとどまっているらしい、それを確かめた人はいないが。直下に広がる広い広い青と大きな雲では判断できないが、落ちてきたからといってもわかることはなかった。

 人以外の生き物は少々いるが、普通目にすることは無い。専門に管理する人がいるからだ。

「あー…、今、どこらへんって指させたりするのか?」

「難しいですね…あてずっぽうになっちゃうと思います」

「ふーん。じゃあ何処にあるか分からないのか」

 目印のような物がないわけではない。あの大烏は一定の周期で構造体の下に現れる。ほとんどが雲の足元に黒い影が浮かぶのはその周期で見れるのだが、全貌を見た人は今やいない。ただ、羽ばたきもしなければ嘶きもしない、おそらく生き物じゃないのだろう。

 ただ雲の隙間からその羽の先ぐらいは見えたりする…はずなのだが距離も距離でまじまじと見ようと思ったなら空中に身を出さなければならない。そんな理由からしっかりと見た物はおらず、見た見たと言っても変わり者にされるのだろう。つまりそこにあるとわかっていながらおとぎ話のような扱いを受けているのだ。

「面白そうなのがあるんだな」

「上じゃ我関せずですけどね」

「それじゃぁプランは出来たわけだ」

「は?」

 ユウさんが鍋の様子を見て味見をする。

 からんと蓋を置いてまだ相当熱いだろうスープをすすると首を傾げて蓋を閉めた。

「だってお前、モリが飛行機を作ろうとしてんの知ってんだろ」

「飛行機? まぁ何かに没入してるのは知ってますけど…飛行機?」

「お前とあの娘が帰れるとしたら、それしかないって奴だな」

 なんでこうトレジャーハンターとか名乗ってる人は博識なのだろう。いや、特にこの人なのだろうけど。

 上を指さしてくるくると指を回しているユウさんを不思議に眺めながら軽食の準備を続ける。

「それで…帰れるんですか」

「上手くいけば行き来できちゃう、でもモリ一人じゃ無理だろうね」

「………言いたい事はわかりました」

「そうか。じゃぁ、そろそろ鍋にしようか」

 スープをいただきながらこれからやるべきことについて考えていた。彼が言いたいのは先生の協力…それはもっと必要だということなのだろう。確かに先生がついてくれたらモリの飛行機作成は飛躍的に進む事だろう、だが彼一人では情報も材料も0に等しいスタートだ、答えはわかっているはずなのにぼかしのかかった心が決めるのに邪魔をしていた。

 俺は、帰りたいわけじゃない。

 何のためにここに降りてきたんだ、さっさと帰るためなんかじゃないはずだ。

 でも一度来れたならまた来れるんじゃないか。

 そうやって何度も何度もぼかしを重ねて、答えなんて見えなくなるほどに遠く遠くへと逃げていく。

「だからよ」

「えっ」

「多分だけど、そう考えたら、あぁなっちまうぞ」

 指さした先に目をやると、それは遺跡だった。

 ボロボロになった骨の傘、でも誰かの傘になるために作られたんじゃないのだろう。目的なんてとうに忘れてしまっている。

「まずはさ、やる事があるはずだ」

「………」

「お前が行った難民集落、覚えてるか? あそこがそろそろマズい」

「なんでユウさんが」

「ここからも結構な距離があって援助は難しいが、近くの集落は受け入れれるほどデカくもない」

 無視して話を続ける。ユウさんが俺とナナの道を示したがっているのはわかった。

「多分だけど、近々お鉢が回ってくるぜ」

 だが、俺には彼の考えなどわからなかった。

 ただただ作ったスープの味を確かめながら彼の何処か遠くを見るような目線の先を追うだけが、後の静寂に残された出来事だった。

 まさにゆっくり書いてました。

 もうここまで空けるとここに何を書いていいものか、解りませんね。

 では、また次章お会いしましょう。卯月木目丸でした。

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