01
簡単な役割分担だけは決めた。ヨンはすでに他のチームに編成されていたので、どうにも動きが取れない。なのでキサラギが本部技術部内の動きについて中から探る係、やや自由のきくボビーがサンライズとの連絡係ということになった。
社内メールでは暗号を使うことになった。
ようやく夜中になった。
ボビー、はやる気持ちを抑えながら指定のコンビニに向かう。
約束の11時半が過ぎた、が暗闇から湧き出る人影はない。
ボビー、今日はもう一台の中古のミニでやって来た。これらなば少しくらいの汚れは気にならない、しかも色も目立たない黒だし。
ハンドルの上をイライラと指で叩きながら待つ。コンビニの中も念のためにのぞいたが、彼がいる様子はない。
とうとう日付が変わった。彼、忘れたのかしら? どこかに移動した?
それとも、来られない事情ができたとか?
彼は車をロックして、少し通りの先まで目をこらしてみた。
ワタシが離れると、彼、この車は見たことないだろうから行き違いになる可能性もある。どうしよう。
ふと思い立って、首に巻いていたスカーフをドアミラーに軽く結わえる。多分、これならば少しは何か気がつくだろう。
今日は服装も身軽にしてよかった。黒のランニングに黒のパンツ、白いジャケットを羽織っている。靴はパンプス。もしかしたら、動かねばならないかも、と少しだけ覚悟もしてきたし。
まず、彼が普段住んでいるという公園の方に向かっていった。前回もその方向から現れたのだ。
暗い路地に、シャッターの曲がったような事務所や商店が並んでいる。すでに主を失った建物には一面に落書きがされている。
割れたガラス瓶や空き缶などが散乱している場所もあるし、ハンドルやサドルがもぎ取られた放置自転車が列になって倒れていたり、あまり治安がいい感じではない。
公園の入り口にさしかかったが、照明はほとんど消されており、あたりは町なかとは思えないほどの原始的な闇に閉ざされていた。どこか少し離れたところで、押し殺したような話し声が聴こえたような気がしたが、そのまま耳を澄ませても続きは聞かれなかった。
そっときびすを返し、あたりを用心しながらまた車のところまで戻る。
車のドアミラーにかけてあったはずのスカーフが失くなっていた。
代わりに、何かワイヤのような細くて黒いものがひっかけてある。近づいてみると、ひしゃげた眼鏡のフレームだった。ガラスは外れていた。
彼が来たんだ、ボビーは暗闇に目をこらした。声をひそめ、
「リーダー」と、何度か呼んでみる。
店の左わきに並んでいる背の高いダストボックス、その向こうの外壁との隙間の暗がりで何かが動いたような気がした。ペンライトをいったん消して、足音をしのばせながら近づいていった。
彼は、ダストボックスの影に身を投げ出していた。足を引きつけるように抱いて、横倒しになっている。
「リーダー」そっと呼びかけると、声は出さずにひじをついて身を起こしかけた。
「だいじょうぶ?」ここまで来て、かなりの異臭に気づく。
それでもボビーは彼のもとにかがみこんで、ペンライトを近づけた。
顔はあちこち切れて、血と汚物がこびりついていた。全身も汚物にまみれている。
服は先日と同じだったが、元の色が判らないほどだった。それにあちこち裂けてぶら下がっていた。靴もなく、素足はどろだらけだった。
「立てそう?」サンライズが、ようやく目を合わせた。
「ボビー?」ささやくような一言。
「そうよ、車に乗って」