03
やってきた姿をみて、ボビー、ぎょっとした。
暗闇から湧いて出たような、というか。「出たな~」みたいな。
「来てくれないかと思った」言うことも情けない。
「……何? そのカッコウは」
一応、白っぽい開襟シャツに黒っぽいスラックスだが、何となくくたびれた感じ。
手にはどこかのショッピングバッグを三つも提げているし、髪もボサボサだし、なんとなく、何というか、そのー
「どこで寝泊まりしてるの?」今はチームを組んでないので、シゴトの内容については全然聞いていなかったボビー、本気で心配している。
「いや……」本部からの依頼で、あるホームレスの捜索をしている、と手短に語る。
「あなたもホームレスやってんの? いつから?」
「かれこれ二ヶ月かな……」シャツの襟元から手を突っ込んで胸元を掻いている。
「いいよ、車には乗らないから」よく手入れされたクリーム色のワーゲンに触らないように少し離れている。
「なんでそんなシゴト受けたの?」仕方ないのでボビーも車から降りた。
いくら愛するリーダーでも、タンデムシートには、今日はちょっと向いてないかも。
「それよかさ」ちらりと店内に目を走らせ、彼が言いにくそうに
「おむすび、買ってきてくんないかな?」
スラックスのポケットから小さな財布を出して二本の指で不器用に中をあさっている。
「たまには拾ったモンじゃない物食いたい」
そこまでやってるんだ。ボビーは横からおそるおそる財布から小銭を出している手元をのぞく。手が何となく震えてない? この人。
十円玉が7個、五円玉が3個、一円玉が4個、
「……一番安いヤツでいくらするかなぁ?」
「いいわよ、ワタシがおごる」ボビーはバッグから小銭入れを出した。
「リーダー、オカカとコンブだっけ? 飲み物は?」
「お茶もいいか? 冷たいやつ」
「わかった」店内に入って、おむすびを二つとついでにサラダ、お茶とコーヒー、レジでからあげチキンを買ってから外に出る。
「はいこれ」
彼は子どものように顔をかがやかせている。
「いいのか? こんなに」
「ワタシからの差し入れ」
「あとで金返すから」
「いいのよ、水くさいわね」すぐ食べたそうにみえたので、
「車で食べましょうよ、話もきかせて」助手席を開けた。
「オレ……ちょっと匂わない?」ボビーは鼻をうごめかせ、眉をあげた。
「そんなには」実際は少し気になったが、リーダーと話ができるうれしさが勝った。
「とにかく乗って」
言いつつも、消臭スプレーを彼に吹きつけ、窓は開けさせていただいた。
しばらくは、サンライズががつがつと食事を頬張る音だけが深夜の駐車場に響いた。
ボビー、話を聞くにつれてだんだんと眉が上がってきた。
「まあ」最初は同情的だった相槌が途切れ、最後には低いトーンで
「信じられない」
本気で怒っている。
「誰か、キサラギとかそのヨン、て男はこっちに寄らないの? たまに」
「連絡があったら来ることになってるが、その連絡ができないからね」
サンライズはそう言いながらも、満足げに腹をさすっている。
「久々にまともな物食ったなあ」
「緊急連絡は? 一般電話はしたの?」
「したさ。コレクトコールは受けてもらえなかった」
「支部も?」
「ああ」
ボビーは、指を口元にあててじっと考え込んでいる。しばらく考えていたが、急に顔をあげて彼を見た。
「分かった、ワタシが行ってみるわ。まず支部に」
サンライズはえっ? と彼を見た。
ボビーは今、資料課付けになっている。しかしオフなのでカイシャには入られるはずだが他人の任務内容についての確認は難しいだろう。
「だいじょうぶ、いくらでも探る方法はあるわ」にっこりと彼に微笑みかけた。
「リーダー、それより私のアパートメントに来る? シャワー浴びたいでしょ?」
一瞬、救われたという表情を浮かべたがサンライズ、それでも
「いいや、急にきれいになると逆にアイツらに怪しまれるから、このまま帰る」
礼を言って、車から降りた。あたりをきょろきょろしながら誰もいないのを確認して
「本当にありがとう、助かったよ」ショッピングバッグを持ち上げた。
「あ、父親参観の件だけど」ボビーがあわてて声をかける。
「ああ……」サンライズが口だけで笑った。
「あれはもういいや、すまなかった心配かけて」
家族の問題だから自分で解決するよ、と言うところを
「ワタシ、行くから」意外な返事に、サンライズはまじまじとボビーをみた。
「時間と場所、教えて。ただし子どもたちには直接話しかけないし、近づかないから。遠くから見てあちらに気づかせてからすぐ帰る、いいわよね」
「ホントか?」
手短に時間と場所、彼らのクラスを伝える。
「報告を兼ねて、金曜の11時半にまたここで」ボビーが言うと彼はうなずいた。
「この御礼は後からたっぷりさせてもらうよ」ちょうど車が二台、続いて入ってきたのをよけながら、彼は来た時と同じように、また闇へと消えていった。