03
徒歩原が良知に詰め寄った。
「オマエが何で、こんな場所に来ているんだ」
「失礼ですが、アナタは」急に脇から声をかけられ、徒歩原はつい習慣で胸のポケットから名刺を出し、相手に渡す。
「MIROC本部の長を務めます、カチハラ、と申しますがおたくは」
まじまじと見てから
「テレビか何かで、拝見しましたかな?」
と聞くと相手もやはり名刺を出し、
「申し遅れましたが、経済産業省のワクイ・トクミツです」
良知の方をちらっと見て
「良知君と、少々面識がありまして……しかし本部長と言いますと彼の上司、ということですね」
「さようですが」
「上司の許可なく、この場にいる、ということですかな」良知は答えない。
徒歩原が代わりに答える。
「そのようですね。明日本部に戻ってゆっくり話を聞きたいと思います……」
ラチが急に、外に飛び出した。「あっ、逃げた!」
サンライズ、同時に彼を追って外に飛び出した。
「兄さん」
辰之進が、兄に歩みよった。
「条件が少し高いよ、値段交渉したいけど……今から時間空いてる?」
兄が汗を拭きながらにこやかに応じた。
「ワンショットがいいな」
弟が笑った。
「じゃあ、まずもう少し厚着しないとね」二人は肩を組んで外へと向かった。
料亭の裏出口、坂の突き当たり。ラチは芸者を人質にサンライズと向かい合っていた。
「一言でも口をきいたら、このオンナを殺す」
ラチの目は血走っていた。
「知ってるぞ、オマエが口をきくと、ロクなことはない。ヤツらにもそう教えといた。末松町のオマエの仲間たちにね。痛めつける時には、絶対に口をきかせるな、とね」
ラチはすでに捨て身のようだった。ネクタイが曲がって、靴下に料亭のサンダル、という不思議な姿でそれでも前の男を威嚇している。
「どうやって逃げるのか、不思議に思ってるだろうな」
ラチは低く笑った。
「だいじょうぶ、ボクはずっと一人でやってきたからね、いくらでも逃げる方法は考えられる。
とりあえず、コイツをしばらく道連れに使わせてもらうよ、オマエも裸じゃあ寒いだろうから、さっさとここからいなくなることにする、復讐は、また次の機会だ」
喉元にナイフを突き付けた女に、とりあえず上を脱いで、肌襦袢姿になれ、と命じた。
代わりにオンナがこう言った。
「そのナイフを捨てて、手を挙げなさい」
一瞬ひるんだ彼に、ボビーの肘がまともに入った。ラチは、音もなく崩れ落ちた。
中川が息を切らして走ってくる。
「ケガはないか? ラチは?」
「捕まえました」
ボビーが腰ひもをひとつほどき、ラチの手足を固く縛った。
「会話も録音しました、今お聞きになりますか?」
ちょうどかけつけた徒歩原が、やはりぜいぜいしながら言った。
「後でいい、お手柄だった」
「サンライズ・リーダー」ようやく追いついた支部長が、彼にコートをかけてくれた。
「ありがとうございます」
サンライズ、急に恥ずかしさがこみあげる。
「すみません、見苦しいものをお見せして」
それから、型どおりに本部長に告げる。本来ならば、任務を直接命じた本部技術部長に宣言するものだが、残念ながらケンちゃんは昏倒しているし。
「サンライズ・チーム、ミッション完了しました」
徒歩原は、脇に立つ中川の方を向いた。
少し間があったが、次に中川がサンライズに向かい、敬礼を返す。
「ご苦労だった、サンライズ・リーダー」
徒歩原がしみじみと言った。
「私ね、名倉クンの大ファンなんだよ……あの番組もよく見たが、それでも今夜のキミらの方が、格段に良かったな」
サンライズはひとつ、大きなくしゃみをした。