02
話を聞くうちに、サンライズの表情は凍りついていった。
脇で聞いていたアズマも、厳しい表情になっている。
「ひどい話だ」水割りをぐい、と傾けた。
「やはり本部の技術部長が何か鍵を握っているんでしょう」
「ナカガワか?」ブガイシャからその名前が出て、二人はぎょっとなった。
「よく御存知ですね」
「そりゃあ、ね」アズマは鼻を掻いている。
「しかし今はナカガワじゃなくて、ラチという男なのよ」
ボビーが言うと、アズマは「ラチ?」少し考えていたが、思い当たる人物は出てこないようだった。
「ずっと海外勤務だったから、ラチは」
「アズマさん、どうしてナカガワを?」
サンライズの問いに彼は照れたように笑う。
「若い頃同じ職場にいた……まだ声変わりする前かな」
すごい、世の中狭い。
「彼は優秀だったよ、当時も。後で聞いたがMIROCに入ったのも引き抜きという噂だった」
「やっぱりヤなヤツだったの?」真剣に聞くボビー。
「いや……真面目だったが、特にイヤなヤツじゃあ……それよかそのラチだが」
フルネームで教えてくれれば、情報を仕入れてこようか? と言ってくれた。
「もしかしてアナタ……」サンライズは目をこらして彼の表情を読もうとする。
「会計事務所、じゃあなくて興信所をされているのでは?」
「うわぁ」心底驚いている。「キミは心が読めるのかな」
少し動揺しつつも、サンライズ、声は平静に保つ。
「お願いしたいのは山々ですが、任務放棄とみなされていると費用がお支払いできません」
それどころか、自分のクビまで危うい。今までリーダー以外のメンバーが任務を放棄して逃げたことはたまにあったが、さすがにリーダーともなると、聞いたことがない。
放棄を宣言したとたんに、当事者に知らされずに全社のアクセスコードが変更となる。一般電話も、フリーコールは使用不可。例外はない。
「ワタシ、明日支部長に話してみるわ」
ボビーがそう言って立ち上がるとアズマがえっ? という顔をして見上げた。
「キミたち、支部にいるの? 東日本?」
「はい、今回はジョイントミッションで、本部からの直接指示でしたが」
「ならば中尊寺に話せば任務放棄じゃあない事はすぐ解決するんじゃないの。まだ彼が支部長でしょう?」
気安い言い方で更にびっくり仰天。
「支部長も御存知なんですか?」
いやあ、ははは、アズマは照れたように笑った。
「ワタシの性癖を心配して、早く大きな組織からは足を洗ったほうがいいと助言してくれたのは彼なんだ」何ですと?
「彼も昔のツレでね」
中尊寺も警視庁関連だったのか。しかしその次の発言が決定的だった。
「だから、彼らはマイロックでも同じチームにいたんだろう、そう思ってたよ」
「誰らがですか?」
「中尊寺とナカガワだよ、チーム・ベリアル。中川のコード名はリバー」