02
汚れるとか臭いとか言ってる場合ではない。彼はサンライズの腕をとって、肩にかけてゆっくりと起き上がるのを手伝った。
ミニに乗せるのに少し苦労する。こんなことならば汚れなど気にせずにやっぱりビートルで来ればよかった。
マンションに帰る途中も、しばしば彼の様子をうかがった。
目を閉じてあごを上げ、息をしているのかどうかがよく分からなかった。
ずっと以前、初めて一緒に組んだ時に川崎の訓練センターで倒れている彼を一度、ベッドに連れて行ったっけ。その時の表情がまざまざと思いだされる。
ようやくマンションの駐車場に着いた。
車を止めてから、ボビーは後ろの席からウェットティッシュを取り上げて一枚、二枚、いやもう少し大量に出してサンライズの顔を拭いてやった。傷が見えるところは直接触らないように、注意深くぬぐってやる。乾いた血と汚物はなかなか取れなかった。
それでも、拭いてみたら出血のわりに傷は浅いようだった。
ハサミがあったので、汚れた服を切り裂いた。ランニングとトランクスは気になるほどの汚れはない。全身にも打撲の他には特に目立った傷はないようだった。
ボビーは彼に自分のジャケットをかけ、少しだけ肩をゆすった。
「起きて、リーダー」目の焦点がようやく合った。
「どうしたの? 何があった?」
「ヤツら……」また眠りそうになったので肩をゆする。サンライズはまた目を開けた。
「やられた。六人か……七人」頭がぐらつくのをまた戻そうとしている。
「何か探っているんだろう、って……バレてたんだ」これ以上はしゃべれそうもない。
「リーダー、私の部屋に入りましょう。今度こそお風呂に入ってね」
監視カメラがあるので、できるだけ歩いてちょうだい、できる?
そう聞くと、打てば響くように「できません」と答えたがこれはだいじょうぶ、ということだろうと勝手に判断し、ボビーは車から降りて彼の側を開けた。
肩にもたれかかるようにして、サンライズはすり足で歩を進めた。
エレベーターでも幸運なことに、誰にも出会うことなく一四階まで到着。
ドアを開けて、電気がついているのに気づいた。まずい、彼がいる。
「おかえり」
奥のバーカウンターにいた男がふり返った。
「お邪魔していたよ」そこでボビーが連れているヨレヨレの姿に気づき、眉を上げた。
「……お邪魔だったかな」
「ちょうどよかった、タクちゃん、」
ボビーは息を切らせて、いったんサンライズをかつぎ直す。
「バスルーム、開けてくれない? 彼、シゴトの上司。襲われて、今キンキュウヒナンしてきたの」
タクちゃん、と呼びかけられた男は何も問い返すことをせず、すぐにバスルームのドアを全開にしてくれた。
「ありがと」脱衣所で身ぐるみ剥いで、ようやくバスタブに収めた。
服はまとめて、丸めてプラバッグに捨てる。自分の着ていた服にもかなり汚れがついていたのに気づき、いさぎよく脱いでそれも丸めて洗面台に投げ入れた。
「タクちゃん、ごめんね後で話すから、ゆっくりしていって」
「オレ、手伝うことあるかな」
ボビーはとろけるような笑みを彼に向けた。
「そういう優しいトコロが好き。でも今はだいじょうぶだから」
下も短パンにはき替え、風呂場に入る。
「ちょっとこの人を丸洗いしてくるから、何か飲んでいてちょうだい」
男は、カウンターに戻って先ほど作っていたカクテルの続きに入った。