恋音を数える日々
3m、2m、1m。
ざわざわと休み時間のざわめきが、あたりを包む。
聞こえる声、声、声。授業から解放された生徒たちの、明るい声が、廊下に静かに響き渡る。
同じ制服をきた生徒が、廊下で教室で、語り合うこの学校という空間で、皆同じ服をしているはずなのに、みなあまり変わらないはずなのに。
あと10歩、あと5歩、あと3歩。
近づくたびに、強くなる。
ざわざわとした声がきこえるこの中で、けれど、その音だけは、どんどんと強くなる。
近づく。あと少し、あと数歩。
ありえないこと、と、わかっていても、少し不安になる。
ドキドキと鳴る、この胸の音が聞こえないかと。
すれ違う。
うつむいたまま通り過ぎた私の横を、友人と何かを会話しながら、通りすぎる。
そっと振り返れば、楽しそうに笑いながら廊下を通り過ぎる、彼の背中が、みえた。
恋音を数える日々
この感情の名前を、私は知らない。
恋なのか、憧れなのか。恋に恋をしているだけなのか、自分でも、わからないけれど。
高校にはいって、私は多分、「恋」をした。
淡い憧れをいだいたことは、今までだってあった。
だけど、ここまで、強い思いを抱いたことは、今まで、なかった。
高校にもなると、付き合ってる子だってたくさんいる。
中学の時だっていたんだし、それが割りと「普通」な感じ。
だけど、私は、よくわからなくて。
恋だとか愛だとか、彼氏彼女だとか、いまいちわからなくて。
今までに、いいな、かっこいいな、と、思ったこともある。
彼氏、という存在に、憧れなかったわけじゃ、ない。
でも。
彼を見るたびに、付き合うとか、好きとか、そんな感情じゃなくって。
ドキドキと、心臓が鳴り始める、から。
見つめるだけで高鳴る胸は、近づけば破裂しそうになる。
隣のクラスだし、会話することなんてありえない。選択教科も違うから、一緒になることは、ない。
彼をみることができるのは、集会のときや、偶然廊下なんかですれ違ったときだけ。
そのたびに、私の胸はドキドキとうるさくなり始める。
ドキドキ、ドキドキと、まるで壊れてしまったんじゃないか、って思うくらい。
むしろ、全身が心臓になっちゃったんじゃないかってくらいに、苦しくなる。
特別に美形なわけじゃない。割りと普通。だけど清潔感がある。全体的に、モテモテではないけれど、女子の好感度は高い彼。
うわさでは、付き合ってた人がいたけどわかれた、とか、なんとか。
普段はあまりうわさ話は興味ないのに、その時だけ耳がダンボになってしまった、とか。
いつ偶然遭遇するかわからないから、ちょっとだけ、ちょっとだけ、外見に気を使うようになった、とか。
そんな私を、彼は知らない。私の存在すら、彼は知らない。
一目ぼれとか、そんなの、ありえないと思ってたのに。
ドキドキと鳴るその音を、私は持て余しながらも、何も出来ずに、ただ、偶然出会えた時だけ、そっと彼を見つめる。
彼に私を知ってもらえるように努力する? 彼に告白する?
先に進むには、それが正解だとわかってても、私は、なにもしないでただ、その自分の心音を、じっと数え続ける。
――恋とか、愛とか、彼氏とか彼女とか、いまいちわからなくて。
付き合いたい、という気持ちも、わからない私はきっと、まだまだお付き合いするには早いんだろうな、と、うっすら思う。
この思いは、恋なのか。
答えが出ないから、私は、静かに彼に「恋」をする。
いつか、答えがでる、その時まで。
恋したくなるお題 配布 様 http://members2.jcom.home.ne.jp/seiku-hinata/index.htmlよりお題をお借りしました。