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始まりはハプニング

街を歩いていたら、従姉弟を見かけた。

偶然まちなかでみかけるなんて、割りと近いとこに済んでる割に滅多にあるもんじゃない。

珍しいこともあるもんだ、なんて、思いながら、暇なのもあって後を追う。

元々仲の良い従姉弟だ、ちょっと飯でも一緒に行くのも悪くない。


ふらり、ふらりと、探偵気分で後を追えば、どうやら待ち合わせだったらしく、別の女の子と合流してる。


なんだ、それじゃ、邪魔するわけにはいかないなぁ、なんて、ぼんやり思いながら、これからどうしようか、と、くるり、と、回れ右をしたとき、だった。


「っ、てんちゅーーーーーーー!」


勢い良い大声が聞こえてきて、慌てて振り返る。と、同時に、勢い良くキックが襲い掛かってきた。


ひらり、と、翻るスカート。

思わずそれに目を奪われそうになりながらも、すんでのところで体を捻り、避けることができた。


「っ、な、なんだあっ?」



そのまま尻もちをついて見あげれば、黒髪の美少女が、ちっと舌打ちをするところだった。


「仕留め損ねたかっ、残念ッ」


「や、ちょっとまってなにそれ」


不穏なセリフに、そのままの姿勢で問いかければ、じろり、と睨まれる。


「何を往生際の悪い! この変態ストーカーめっ!」


「ぎゃー、さきちゃんまってまって、違う、違うのー」


美少女の後ろから悲鳴のような声が聞こえて、そちらをみれば慌ててかけよってくる従姉弟の姿。


「あら、みや、もう大丈夫よ」


「ねぇちゃん……」


同時に答える。


「え?」


「え?」


お互いに、視線を合わせる。


沈黙。


後ろで従姉弟が、あちゃー、と、額を抑えていた。



「ほんっとーに、ごめんなさいっ」


がばり、という擬音が聞こえそうな勢いで、少女が頭を下げる。

昼下がりのカフェ、女の子二人に男がひとり。その二人がレベルの高い女の子である前で、頭を下げさせる男。

なんというか、視線がいたたまれない。


「いや、まってまって、いいから、だいじょうぶだから、頭上げて」


これじゃこちらが悪者のようである。でも、という少女をなだめて、頭を挙げさせる。


ふう、と、ため息。冷たいカフェオレのグラスを手に、一気に半分ほど飲み干して、やっとひとごこちついた気がする。


「けぇちゃん、ほんとにごめんねぇ」


申し訳なさそうに、いとこがいう。どこかほやほやのこの従姉弟は、年上のくせに庇護欲をそそり、そのくせ勉強はできるというアンバランスな子であり、それなりにいる従姉弟の中でも、母親同士が仲の良い姉妹だったこともあって、割りと行き来が多いうえに家が近いということで、唯一に近いほど、頻繁に両方の家族で何かをやっているような間柄だった。


「構わないよ、みやねぇ。気にしないで。それより――」


そう、それより、だ。何がどうなってああなった。ストーカー? 変態? 見に覚えはない言葉である。けれど、その言葉がみやねぇの友人らしき相手からでたということは、そういう存在に狙われているという、ことか?



「ああ、うん、説明させて。あ、私はみやの友達の、早希。高校のクラスメイトで、仲良くさせてもらってるの」


「あ、自分は従姉弟の、啓太です。苗字は同じで」


そう、珍しいことだが、姉妹で同じ名字なのだ。だから、ある意味兄妹のように誤解されることも多かった。余談だけれど。


ひとくち、自分の前に置かれたグラスを手にした早希さんは、それを飲み干して、口を開いた。


「今朝、待ち合わせしてたの。そしたら、みやが、遅れてきてね。いつもそんなことないからどうしたのかなって思って、問い詰めたの。そしたら言葉を濁すじゃない。おかしいなって聞いてみたら、引き止められたとか、言葉はもっと違ったけどしつこいとか、困ったように恥ずかしそうに涙目でいうじゃない? もう、これはストーカーに違いない! って思って……」


だんだん読めてきた。どうやら、この早希という美少女は、思い込みが激しい。


あうー、と、困った顔のみやねぇに、視線をむける。


「たくさん、帰ってきたんだ」


すると、みやねぇは、ぱちくり、と、一度またたいて、それから嬉しそうに頬を緩めて、うなづいた。


なるほど、分かった。

よかったね、と、返すのに、えへへと照れ笑いをするみやねぇ。その両方をきょときょとと眺めてから、早希さんは不思議そうに首をかしげていた。



とどのつまりは、こうである。


みやねぇには、血の繋がらない兄がいる。いや、全くつながってないわけではないか。みやねぇの、父親の兄の子にあたるので、みやねぇの従姉弟だろうか。俺からみても、いとこになるのか? この場合。よくわからないけれど、そういう存在だ。その彼の父親は、彼がまだ幼い頃になくなった。更にその母親は、行方不明になったとか、いろいろ大人たちはいってたけれど、詳しいことは知らない。その彼がみやねぇのもとに来たのは、僕らがまだ本当に幼児だったころで、彼もまだ小学生の低学年だったように思う。

その彼を自然、みやねぇが慕うようになったのは、いつだったか。一緒に遊んでもらった記憶もある彼は、男からみても、惚れ惚れするいいヤツで、そのうちみやねぇと一緒になるのかな、なんて、漠然と思っていた。その彼、拓人さん――たくにい、とよんでいるのだが――は、それはそれは、みやねぇを溺愛していた。そばに近づける男は父親と俺くらい。他の男のいとこたちが近づこうものなら背後で威嚇するようなレベルで、溺愛してた。

けれど、何か彼にも思うところがあったのか。


大学を卒業した彼は、海外の企業へと就職。みやねぇと離れることを選んだ。

みやねぇも思うところがあったのか、涙目ではあったけれど泣くこともなく、まあ、彼らの間で紆余曲折あったようで。


つまり、しつこいくらいに優しくする、引き止められる、そして、先日母から聞いたたくにぃの噂のことを考え合わせると、彼が帰ってきて、どうやら、いろいろリミッターを解除してみやねぇにアプローチしてるようだ、という推測がなりたつわけで。


大まかにざっくりと、そのことを早希さんに説明する。間で、いやちがうのっ、とか、そんなことないもんっ、とか、あわあわしながら恥ずかしそうにみやねぇが入れてくるのは無視。


話を聞いた早希さんは、口をぱっかりあけて、呆然としていた。美少女が台無しである。


「そ、そ、そんなことなら、はやくいってよーっああもう、ほんとにごめんなさいーっ」


ごつん、と、机に頭をぶつけるように、早希さんが突っ伏す。結構な音がしたけれど、大丈夫だろうか。


「ああもう、ね、わかってるの、私ってば、思い込みが激しいの。わかってるんだけど、すわ、みやの一大事! って思っちゃって――あげくにこれでしょ、もうね、もうもう、ごめんなさいーっ」


落ち込んで嘆く早希さんを、となりでみやねぇがまぁまぁ、と、背中を撫でてなだめてる。


「いや、いいんじゃないですか。みやねぇのこと、それだけ考えてくれてるってことでしょ。いい友達じゃん、みやねぇ」


そう告げたら、みやねぇは、それはそれは嬉しそうな笑顔で、うん、と、うなづいてくれて。


「あんた……いいおとこだぁぁぁ」


うつぶせの姿勢から、視線だけを上目にあげた早希さんは、じっとこちらを見ながら、そういって目をうるませていた。


うん、早希さん、かなり美少女なのに、微妙に残念な気がするのは、なぜなんでしょう?



「じゃ、私はかえるねっ。今日は本当にお騒がせしましたっ」


そういって、頭を下げた彼女の髪が、さらりと揺れる。


「いえいえ、こちらこそ。ごちそうさまでした」


結局あのカフェでの会計は、おごりになった。


「あんなものくらいじゃ、お詫び足りないわっ。あ、そうだ!}


そういうと、早希さんは、ごそごそとカバンを漁る。豪快である。あれ、ない? ない? とつぶやきながら漁ったカバンから取り出されたのは、可愛らしいクローバーの名刺ケース。そこから一枚、薄い緑の紙を取り出すと、はい、と、渡してくれた。


そこには、名前と、携帯のメールアドレス。


「これ、私のメアド。今度マジで、お詫びに何かしっかりご飯おごりたいから、連絡頂戴っ。絶対だからね? 約束ね?」


ぐいぐい、と、迫る勢いで言われて、慌てて頷く。それをみた早希さんは、満足そうに、よし、とうなづくと、またね! と今度こそ、身を翻してさっていった。ひらり、と、翻るスカート。そういえばキックの時、危うかった。白っぽいものが、いやいや、気のせいだろう、と、思いつつ、手の中に残されたカードをみる。


「早希さん、かぁ」


お詫びなんてもう充分だけれど、今日知った彼女の思い込みの激しさから考えると、早めにメールだけでもしておいたほうがよさそうだ。


「好みでしょ?」


横から覗きこんで、ニヤリ、と、らしくなく笑うみやねぇの頭を軽く小突いて、じゃ、またな、と、声を掛けて歩き出す。


なんだか、波乱万丈な日々の始まる、そんな予感が、した。





お題:「確かに恋だった」様 http://have-a.chew.jp/

「それは甘い20題」より 「08.寸止め」

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