第四章
本来ならもう誰もいないはずだった無駄に大きい家に居座る男。
でかい図体はあぐらによってたたまれてこそいるが邪魔なものは邪魔である。
…早く帰らないかな
と、いくら思っても何も言えないのはその男が咲耶よりもはるかに高い地位の持ち主だからだ。
金髪というよりは蜂蜜色の髪に藍色に近い黒色の瞳。
モデルばりのスタイル。
この『美形』を文字にしたような男は
本条本家次期当主の弟。
現当主の息子。
本条 戒斗、その人である。
なぜ彼がここにいるのか。
それは一時間ほど前にさかのぼるのだがーー
「この、恩知らず‼」
破門状を叩きつけた数秒後、状況を理解した叔母の怒声が部屋中に響きわたった。
それに何の反応も示さない私に周りもようやく、ざわめきだした。
ーーこれはどういう事だ。
あの女、遂に破門されるのか。
破門はやり過ぎではないのか。
ざわめき、ざわめいて
沈黙に包まれる。
極限まで張りつめた空気。
出来るだけ低い声をだそうと鋭く息を吸い込み
「あー、ちょっとストップー」
その声に遮られた。
ゆらり、ゆらりと入ってくる長身。
そしてまっすぐ進みつつ、叔母の前に封筒を投げた。
何も書いていない封筒に心当たりがあったらしい叔母は急いで封筒を破り開けて中身を取り出した。
「な、…何よこれ!」
「そこに書いてある通りだ。」
冷静に返したのは長身の男。
「あー、お前、水門本条の前当主からの…ミコトノリに逆らった、な?分かるか?それは、重罪だ。つーまーり、もうお前は本条の人間じゃない。
…消えろ。今すぐに。」
ミコトノリという言葉に聞き覚えのない私は内心首をかしげたが周りはそうではないらしい。
張り詰めていた空気が再びざわめきだした。
そして、叔母は黒服の男たちに連れ出され
二度と私の目の前に現れることはなかった。
こうして他の人が帰っても、本条本家の次期当主が帰っても、長身の男は帰らず。
このビミョーな空間がつくられたのである。