第二章
「…よしっ。」
パチン、とホッチキスで最後の書類を纏め終わった。
現在午前3時。睡魔はそこまで忍び寄っていたがまだ寝るわけにはいかなかった。
欠伸を噛み殺して机の右側にある棚に体を向ける。その棚の上から2番目にある鍵のかかる引き出しにはまだ見つかるわけにはいかない書類があった。鍵穴に鍵を差し込んで書類を取り出す。
まだ未完成であるその紙束。それは3日後にまで迫っている咲耶の15歳になる誕生日をもって力を発揮する。
…まだ、誰にも見つかるわけにはいかない。
力がこもってシワが出来た和紙を丁寧に伸ばした。
その和紙には『破門状』と大きく、優美な文字が書かれており、その文字を書いた主は咲耶だと教えていた。
和紙に包まれたなかの普通の紙には叔母がこれまで水門本条家に与えてきた損害を事細かに記し、水門本条家当主・本条咲耶の名前で締められていた。
ただ、まだ未完成だった。
これだけなら、何の力も無いただの紙切れだ。
―――当主の証である印が無いから。
印があれば叔母をこの家から永遠に追い出す書類に。
無い、今、この書類が見つかれば水門本条家当主の保護者への反逆罪として扱われる。
個人の能力より見目や家柄を気にして男ばかりを囲っている叔母に反感を持っている者は多い。
だからこそ、間に合った。
叔母に気に入られずに左遷させられた者達の中には本来の当主である咲耶に直訴してくる者も多い。それをレコーダーに保存し、さらに誓約書まで書かせて何千人という署名を集めた。
…それでも足りない。
印が叔母の管理下にある内は勝ち目など無かった。
虐げられる日々を耐え、ついに3日後には本家から『本物』の水門本条家当主だと認められて印の所有者は咲耶になる。
―――それが、最初で最後のチャンスになる。
貰ったその場。
本家の人間がいる目の前で。
破門状を、叔母につきだす。
それでも抵抗してくる場合はどう対抗しようか。
思案しながら引き出しに書類を入れて鍵をかける。
鍵を首にかけて見つからないようにすると、ようやく電気を消して敷布団に滑り込んだ。
どうしたらいいのだろうか。
考え事をする咲耶の口は笑っているように歪んでいたが目は冷え切っていた。
光が差すのには、まだ暗すぎる。
夢で見た、私に差し出された手は。
…すごく、温かかった気がした。