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復活魔王と新勇者  作者: 分福茶釜
過去編
9/9

第9話 奴隷商人の娘

『奴隷』

 人間としての人格を認められず、経済的・社会的あるいは法律的には主人の所有物として取り扱われ、生きた道具として生産・労働に使役される身分。

 古代ではギリシャ・ローマ、近代では南北アメリカの植民地に典型的に表れた。

 まず絶対になりたくはない身分階級であろう。

 アレイの家から少し離れたところに、小さいがにぎやかな街がある。


「ねえ、いきなりどうしたの?」


 街まで連れてこられたレイナは、戸惑いながらアレイに口を開いた。ちなみに、レイナの家はアレイよりもさらにこの街から離れていて、父親の仕事の手伝い以外で来ることはまずない。


「ん~、なんかさ街に遊びに行きたくなったんだよね、レイナと……迷惑だった?」


「ううん!!そういうわけじゃないんだけど」


 アレイはレイナを見て、小さく微笑むと彼女の手をとって歩み出した。




***




「す、すごいね。街のお店ってよく知らなかったけど……アレイが連れてってくれたお店はみんなすごいっ!!アレイはお店のことよく知っててすごいね」


 菓子屋や、装飾品売り場を見たレイナは興奮が冷めていないのか先程からすごい、すごいと繰り返している。そんなレイナの様子にアレイは苦笑いする。


「いやいや、僕もよく知らないで、てきとうにレイナのこと連れまわしちゃってたんだよ」


「えっ!?そうなの!!」


 驚きに声を上げたレイナに、ごめんねと小さく謝るアレイの表情はいつもより明るい。


「僕も街で遊ぶことなんてないからね……」


「そうなんだ」


 アレイはそう言って笑いながら次はどこに行こうかと、レイナに聞く。 と、そんな会話をしていたアレイ達の前に四、五人の子供の集団がやってきていることにアレイは気がついた。その時アレイはその子供たちを見たレイナの表情が曇るのも見逃さなかった。何かあるのだろうか……


 やってきた子供達は開口一番、こんなことを言い出した。


「おいっ、人売りおやじのむすめがいるぞ」


「っていうか、こんなとこで何やってんだよ」


 突然やってきて、何ともひどい言い様だ。レイナは何も言わずにうつむいてしまった。


「お前らいきなりなんだ? レイナが何したっていうんだ?」


 アレイは怒りを抑えながら、レイナに暴言を浴びせる子供達に口を開いた。アレイのことなど眼中になかったのだろうか、ようやくアレイに目を向けた一人の子供は小さく悲鳴を上げる。


「わぁっ!! ど、どうして勇者の息子がここにいるんだよっ!!」


 その子供の悲鳴で、他の子供もアレイに視線を向ける。皆驚きで目を見開いたまま硬直するが、その子供達の中のリーダー格なのか、一人のがたいのいい男の子が人の悪い笑みを浮かべてアレイの前にずいと進み出てきた。アレイよりも頭一つ分大きい彼に目の前に立たれたアレイはその威圧感を強く感じながらも彼を睨みつける。


「おまえ、勇者の息子なんだろ? だったらこんなやつといっしょにいない方が良いぜ?」


「どういう意味だ?」


「こいつのおやじは奴隷商で人売りをやってるんだってよ」


「奴隷商……」


 聞いたことがある。罪人や異種族を売ったり買ったりする組織だったはずだ。


「こいつはそんなひどいことするやつの子供なんだぜ?」


「でもっ!!」


 アレイは反論を口にしようとするが、リーダー格の子供はそれを許さずに続ける。


「おまえもこいつをかばうなら同罪だぞ!?」


 周りの子供もそうだそうだと騒ぎたてる。アレイがちらりとレイナを見やればレイナは深くうつむいて、小さくふるえている。川でペンダントをなくしていたときの様だ。


「だからなんだよっ!!おまえらこんなことしてはずかしくないのか!?」


 アレイの言葉にまたも少し驚いた表情を見せた子供達だったが、やはりアレイの目の前にいる男の子だけは、さらに笑みを深めるとくつくつと笑いだした。


「なにがおかしいんだよ?」


「親が勇者だからって特別扱いされて、いい気になるなよ。おとなに見られなきゃお前のことだって思い切り殴れるんだぞ? なぁ、みんな」


「……そ、そうだっ!!いっつも特別扱いされてむかつくんだよ」


「そうだ、いい気になるな!!」


 リーダーの言葉で、子供達はレイナからアレイへと標的を移したようだ。アレイに向かって子供たちは日々の不満を叩きつけていく。やはり、いつも特別扱いされるアレイに嫉妬や不満を感じていたのだろう。アレイは子供達の言葉を聞いて小さく笑うと、目の前のリーダーを見つめる。


「ムカつくなら、なぐってみれば?大人に言い付けたりなんかしないからさ。」


「自分から殴ってほしいなんておかしな奴だな……」


「別に君に殴らせてあげるなんて言ってないよ。僕も君のこと殴りたいしね」


 目の前の少年はアレイが何を言いたいのか分かったようで身構えると間髪いれずに殴りかかってきた。思ったよりも素早いそれに当たればきっと痛いし、痣ができるだろう。だが、アレイもそのまま当たってやる気はさらさらない。向かい打つためにアレイは拳をリーダー格の少年につきだそうとした……まさにその時であった。



「何をしているのですか?」


 

 その声でそこにいたすべての子供達の動きが止まる。が、すぐにリーダー格の少年は我に返ると、周りで呆けている仲間に声をかけて、その場を走って逃げていく。アレイはそんな少年達の様子を感情のない瞳で眺めていた。


「アレイ様、釣りをしていたのではなかったのですか?」


 その言葉にひやりと背中に何かを感じながら、アレイは苦笑いを浮かべ声の主に目を向けた。


「どうしたの? アネット……」


「それはこちらの台詞でございます。……旦那様と奥様が心配いたしますよ」


 無表情のアネットはゆっくりとアレイ達に近づいてくる。 が、アレイのそばに一人の少女がいることに気がついて少しだけ驚いた表情を見せた。


「おや? 貴方は……もしや奴隷商人長の娘様ではありませんか?」


 アネットのつぶやきにレイナは大きくビクリと体を揺らせると、アレイが止めるのも聞かず、あっという間にその場を走り去って行ってしまった。



「アレイ様……何があったのでございますか」


「…………僕も詳しくは知らないんだけどさ……」


 アレイはレイナが走り去って行ってしまったほうを見つめながら、ぽつぽつと事情を話し始めた。




***




「つまり、先程の子供達はアレイ様に手を上げようとしていたわけでございますね……まぁ、旦那様と奥様に日頃鍛えられているアレイ様にはかなわなかったでしょうが……」


 アレイの話を聞いてふむふむと納得したような表情(実際は無表情で雰囲気がそのような感じというだけだが)をするアネット。


「一回思いっきり殴りたかったんだけどね……」


「アレイ様、一体いつからそんな不良のようになってしまわれたのですか……これは旦那様と奥様にご報告しなければいけないようですね……」


「ごめんなさいっ!!だからやめてっ!?」


 アネットの言葉に慌てるアレイだったが、ふと、先程のレイナに対する彼女の言葉を思い出す。


「……そういえばさ、アネットはレイナのおとうさんのこと知ってるの?」


「ええ、確か、奥様のご友人で大変気の良い方だと伺っておりますが」


 先程の子供達は必要にレイナの父を嫌っていたようだが、母の友人ならきっといい人なのだろう。


「……でさ、アネットの方はどうしたの? かいもの?」


「ええ、私は奥様に申しつけられましたので夕食の材料を買いに来たのでございます。それが済めば、私の務めはもう終わりでございますね……」


 どうやら今夜の夕食の材料をこの街に買いに来た時に、偶々アレイ達に遭遇したらしい。……それにしても、今のアネットの言葉に何か引っかかるものを感じた。


「務めは終わりってどういうこと?」


「私は、旦那様と奥様が家を開けている間にアレイ様にお仕えするように申しつけられましたので、これで私はお役御免と言うわけでございます」


「え……それってつまり?」


「私を形成する魔法を奥様に解いてもらうのでございます」


 アネットの言葉にアレイは少し間を開けて……


「えええええええええええええええええっ!!!」


 あまりの驚きに叫んでしまった。












 その後、買い物もそこそこのアネットを無理矢理引っ張りながら、急いでアレイは家に帰ると自分の母であるエリーヌにアネットを形成する魔法を解かないように頼み込んだ。ちょっとの間、面倒を見てもらっただけだが、きっとこれからもアネットがいないとさみしく感じるだろう。つまり情がわいてしまったのだ。



「アレイちゃんがこんなに必死になるなんて、まさかこの魔法人形のことが……むきぃいいいい!!許さないわこの泥棒猫……いいえ、泥棒人形。人の息子を誑かすなんて!!……アレイちゃん!こんな魔法人形のどこが良いのっ!?お母さんだけじゃ不満なのっ?」


「エリーヌ……落ち着け、自分でも何言ってるか分かってないだろう!?」



 ジャードの協力もあり、何とかアネットはこの家の使用人としての地位を確保した。エリーヌは非常に不本意そうだったが……結局は了承するに至った。


 まあ、なにはともあれ、少し静かだった勇者の家ににぎやかさが帰ってきた日であったのは間違いない。






***









「はぁっ……はぁっ」


 どれくらい走っただろうか……胸が苦しくてレイナは立ち止った。太陽は西の空に沈み辺りは、薄暗くなっている。

 知られたくなかった。自分の父親の仕事を恥じたことなど一度もないし、父の仕事をよく手伝うレイナには、父が街の人々にあそこまで蔑まれる理由が分からない。だが、アレイに自分が、そして自分の父親が馬鹿にされるところなど見られたくはなかった。


「きっと、アレイも私のこときらいになるだろうな……」


 父の仕事を聞くと皆、手のひらを返したように風当たりが強くなる。奴隷商人が良い印象を持たれないのは今までの経験からよくわかっているつもりだ。そしてその娘、ましてや仕事をよく手伝っている子供など仲良くしたいと思うはずもない。

 

 知り合ったばっかりだったのに……


 レイナは小さくため息をこぼすと首に下げている母の形見を握りしめ、暗くなった夜道を一人、帰って行った。


 お読みいただきありがとうございます。

 少し間が空いてしまいました……すみません。

 それにしても、そろそろ過去を終わらせたいですね……なかなか本編に進めない。……なぜ過去からやり始めてしまったのだろうorz

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