第4話 英雄の義務
『義務』
その立場にある人として当然やらなければならないとされていること。
だがその定義付けは極めてあいまいであり、それを見定めていくのは至難の業だ。義務を負わずに権利だけを求める者、過剰に義務を負わせられる者など多くの差が世界に生まれてしまっている。出来れば前者になりたいが……唯の我がままで自分勝手な者と周囲に思われるだろう。
ここは、アレイ達の住むロレッタ王国・国王の王宮。その王宮にジャードとエリーヌは呼びつけられていた。何でも、ロレッタ王国の北に位置するスフィノ帝国と国家間が悪化し今にも戦争へと突入しそうなのだとか。魔王を倒した二人ならば何か名案を思いつくのではないかとのことで今回は呼ばれることになったらしい。
「全く……戦争なんてやらなきゃいい話だろう。わざわざ俺達を呼びつけて何だってんだ」
国王の元へ向かいながら、ジャードは小さくため息を吐きながらぼそぼそと愚痴をこぼす。エリーヌはそんな夫に苦笑いしながら、彼に口を開いた。
「きっと、国同士ともなると大変なのよ。それぞれ厄介事を抱えてるわけだし」
「それにしても……わざわざ俺達を呼びつけるっていうのは……」
ジャードが言葉を言い終えないうちに一人の男が、二人を出迎える。黒い服を着た、長身の男は、ジャード達を見ると恭しく頭を下げ、自分を国王に仕える貴族だと紹介する。
「本日は、わざわざご足労下さり、誠に感謝いたします。私、国王陛下に仕える、レイフォード・エリオスと申します」
「ん~、で、今日は何でわざわざ俺らを呼びつけたんだ?」
「? 事前にお話ししておいたはずですが」
「それ以外にも何か理由があるんだろう?って聞いてんだよ」
ジャードの言葉に、やっとレイフォードは彼が何が言いたいのか分かったのか口だけでにやりと笑い、落ち着き払った様子でジャードとエリーヌにゆっくりと口を開く。
「これはこれは……やはり、6年前に魔王を倒されたお二方は違いますね」
「はっきり言え。何が目的だ?」
「そう慌てずに。私はお二方にスフィノ帝国との戦争に参加していただきたいのです」
口元に笑みを浮かべたまま、レイフォードはこともなげにそう言って見せる。つまり魔王を退治した英雄に今度は戦争に参加してほしいと言うのだ。
「ふざけるのも大概にしろよ……なぜ俺達がそんなものに参加しなくてはいけないんだ?」
「ふざけるも何も……私は貴方達ロレッタ王国民の英雄に当然のことを求めているのでございます」
「当然のこと……ですって?」
それまで口を閉ざしていたエリーヌも不機嫌そうに、目の前の不敵な笑みを浮かべる男へと口を開く。
「ええ、貴方達は英雄として、ロレッタ王国の民を救うと言う義務があります。……それに貴方達はこのロレッタ王国だけではなく、世界的にも有名な御方です。上手くいけば戦わずして、スフィノ帝国との戦争にも勝つことができるかもしれません」
「だが……もし戦うことになったら、その時はどうするんだ!?」
「多くの魔物達と戦ってきた貴方達なら簡単なことでございましょう? 所詮相手は人間の兵。お二方の力をもってすれば、勝つことなど造作もないことだと思いますが?」
目の前の男に激しい嫌悪感をジャードは持った。いやきっとエリーヌも持っているのだろう。おそらく兵など戦争の道具としか考えていない彼に取ってみたら、勇者と大魔法使いはとても便利な道具なのだろう。ジャードは笑みを浮かべている男に吐き捨てるように言った。
「お断りだね。俺達はそんな戦争に参加するつもりはないし、国王に起こさせるつもりもない。俺達は今日、国王に助言を求められてやってきたんだ、そんな話をする気はない」
ジャードの言葉にレイフォードは少しだけ残念そうにしながらも、口だけの笑みは崩さずに答える。
「そうでございました。本日来ていただいた理由は、国王陛下に意見を申し上げるとのことでございましたね……ではこちらにお越しください」
彼の表情は、まるでジャード達を聞き分けのない子供の様だと思っているようだ。レイフォードはくるりと二人に背を向けると、国王の部屋へと案内するために歩き出した。
そんな彼の態度はまるで、どんなにジャード達があがいてもロレッタ王国がスフィノ帝国と戦争を起こすのは変わらないと言っているようで、ジャードは無意識にギュッと握りこぶしに力を込めた。
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