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第1話 魔王と勇者

『ヤマアラシのジレンマ』

 二匹のヤマアラシは凍えた体を互いに温めようと寄り添う。しかし体についた針が互いの体に突き刺さりたまらず間をとる。しかし寒くてまた近づく。針が刺さる。離れる…………

 これを繰り返すうちに針が刺さらないで互いに温め合える間合いがはかれるというわけだ。……まぁ、大抵の場合その間合いをはかる前に互いに傷ついて死に絶えることが多いが。

「おかーさん、あのね……僕ね、大きくなったらお医者さんになるー!!」

 

 小さな子供。まだ世界のことなんて何にも知らない無邪気な笑顔で将来の夢を語る。


「まあ、ならお母さんが病気になっても治してくれるのね?」


「うん!!僕、おかーさんもおとーさんも村の人もみーんな絶対に助けるお医者さんになるっ!!」


「まあ、頼もしいわ…………       アレイ」


 これは……一人の少年のはるか昔の記憶。







 ドゴオオオオオッ!!

 巨大な爆発音で俺は目を覚ました。まだ頭が完全に状況を把握する前に、グイッと首根っこをつかまれ勢いよく後ろに引っ張られる。

 と直後、俺のいた場所に鉄でできた棍棒が振り下ろされた。


「ふむ、この状況で寝ぼけていられるとは貴様はやはり肝が据わっているな」


 俺を引っ張ったのは、一点の穢れもない漆黒の髪をなびかせる一人の女。飾り下のない黒いタイトドレスに、絹でできているという黒のロンググローブや黒いブーツで身を包んだ黒ずくめの格好だ。唯一、黒でない物といえば頭の鈍く光り輝く鉛色のティアラだろうか。


「ほら、何をしている勇者。さっさとあのデカブツを倒せ。死ぬぞ」


 彼女の指さす方を見れば巨大な魔物が大きな鉄の棍棒を振り上げてこちらに襲いかかってくるところであった。


「あぶねっ!?」


 間一髪振り下ろされた棍棒をかわすと俺は魔法の詠唱を始める。詠唱で少し時間はかかるがこういう相手には一発でかいのをかまさないと長期戦になる。長期戦になるのは面倒だ。


「我に宿りし聖なる炎よ、今我に力を与えよ―――炎爆!!」


 詠唱が終わると同時に、火炎の渦が現れ巨大な魔物は火に包まれる。魔物はしばらく悶え苦しんでいたが、やがて力なく倒れるとそのまま燃え尽きた。図体はでかかったけど大したことはない、所謂雑魚という奴だろう。


「うむ。やればできるではないか勇者よ」


「起こしてくれてもよかったと思うんだよね……」


「なぜ私がお前を起こさねばならない。そんなことでは魔王は倒せんぞ」


「魔王のお前に言われたくないけどな」


 そう俺の横に立って燃え尽きた魔物の亡骸を見下ろしているのは紛れもなく魔王だ。ただ……今の魔王ではない。話せば長くなるが、俺のちょっとしたヘマで大昔に封印されたと言う魔王を蘇らせてしまったのだ。ホントに……世界のみんなごめん。責任を持って俺がしっかり見張るから……どうか俺を恨まないでくれ。


「これは……きっとトロルだな、大方住んでいた森を人に追われてふらふらとしているところを私達と遭遇したのだろう。人がいると知って怒りに我を忘れたようだ」



「なぁ……何でこう、魔物と人間ってのは上手くいかないんだろうな。魔王を倒して少しは平和になったかと思えば、今度は人が魔物の住処を荒らすし……それに怒った魔物が人を襲ったりさ……」


「ん、貴様はヤマアラシのジレンマという言葉は知っているか?」


 聞いたことがある。たがいに身を寄せ合おうとするが自らの体の針で互いの傷をつけあってしまうということだった筈だ。


「人と魔物の関係はそれと似通っているのかもしれないな。人も魔物もどちらも平和を望んでいる。しかし両者の考えは食い違っている。そしてどちらも自分の種族以外を見下す傾向にある。これでは手を取り合って……なんてやっている場合ではないな」


「なあ、気になってたんだけど……魔物も平和を望んでいるのか?」


「それはそうだろう。誰も争いたいなどとは思ってはいない。しかし魔物は人間を下等な種と考える。平和に暮らすためには暮らしを脅かすかもしれない野蛮な人間を排除しようと考えるのは、まあ人間には納得いかないかもしれんが必然的な流れだ」


「そうか……人間もそう考えてるのかもな」


 人間が魔物狩りを始めた理由もそういったものかもしれない。俺は自分の倒した……いや、殺した魔物を見つめる。


「まぁ、綺麗事を言っても純粋に人を殺すことが好きな魔物もいるがな」


「なんだそりゃ……」


 せっかくの雰囲気がなんだかしまりのない空気になってしまった。俺は今の魔王の言葉で一瞬、心の奥底に浮かんだ人間も純粋に魔物を殺すのが楽しいだけなんじゃないか……という疑問をかき消して彼女に口を開く。


「行こう魔王。この先に魔物に襲われた村がある」


「……村か。しばらくぶりだが。襲われた村など危ないだけではないか?」


 少しだけ顔をしかめる魔王。どうやらわざわざ危険な場所には行きたくないようだ。だったらついてこなければいい話なのだが、なぜかこの魔王は俺についてくる。……なんでも封印を解いてくれた礼にひよっこ勇者の俺を見守ってくれるのだとか……俺は、はっきり言って魔物が大っきらいだ。だからさっきのトロルも人のせいで住処を追われたのだとしても特に何も感じないし、この魔王も本当のところはすぐにでも斬り倒したいのだが今の俺にはまだ魔王を倒せる力はないし、一応命の恩人的な立場でもある彼女を殺すのもはばかられる。


「いいんだよ、俺は魔物に復讐がしたいんだから」


「ん、貴様の好きにしろ」


 魔王である彼女の前で魔物に復讐すると言ったのは自分でもどうかと思ったがもう何度かこのセリフは彼女の前で使っているし、当の彼女が気にする様子もないのだから良いのだろう。

 


 どうも、お読みいただきありがとうございます。

 稚拙な文章ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

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