原色と輪廻転生
ラズの発言に美穂奈は一瞬固まった。
簡素なつくりのそれほど大きくない小屋。
ベットや食卓らしきテーブルがある事から、勝手に居住空間だと思い込んでいた。
そして、そんなところにいる一人の男。
当然、この家の持ち主だと思っていたのだが、違うの?
じゃあ、自分の家でもないこの小屋になんでラズはいるのだろうか?
……空き巣とか?
「あ、いや違った。えっと、僕はここに住んでるんだけど、この小屋は僕のじゃない…っていうのが、正しいかな。」
「あ、なんだ。借家って事?でも、だからって何で駄目?」
美穂奈の疑わし視線を受け、慌てて訂正したラズに、美穂奈はホッとする反面、更に首を傾げた。
居住人数に応じて家賃が変わったりするのだろうか?
「あぁ、うん。借家なら別に良いんだけど…。僕はちょっと特殊でね。」
「特殊?」
ますます意味がわからないと、美穂奈はさらに首を傾げながらラズを見上げた。
「あ……えっとね。僕は、その……国に保護されている立場だから。」
「保護?!」
言われた言葉に、美穂奈は驚きラズを見た。
「え、何?ラズって、天然記念物か何かなの?もしくは、人間国宝とか?」
「あ~、うん。どこから説明しよう……。」
そう言って悩むラズに、美穂奈は提案してみる。
とりあえず、どうしてこの家に居座っちゃいけないのかとか、保護って何?とか、色々疑問はあるけれど。
「……そうね、ラズが良ければだけど。」
そこで一度言葉を切り、美穂奈はラズの灰緑の瞳を見つめて言った。
「最初から。一から全部、説明しれくれない?」
どうせ全部分からないのだから、この際一から全部説明してもらおう。
「急がば回れ。多分、それが一番早いと思うのよ。」
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colors。
それが、この世界の名前。
この世界の人達は個人差があるにしろ、皆魔法が使えるらしい。
そして、その魔法を使う時にもっとも大事なもの。
それが、自分の色。
魔法を使う時に必要な魔力の色は、皆それぞれ違っており、一人として同じ色の 人間はいないそうだ。
ただし、例外がある。
一人として同じ色の人間は存在しないが、それは生きている人間の間で限定らしい。
死んだ人間の色は、次にこの世に生まれてくる他の人間に宿るそうだ。
少し、地球で言うところの『輪廻転生』という言葉に似ていると、美穂奈は思った。
「そして、その色は、遺伝されると言われている。」
「遺伝?」
「そう。例えば……。母親が赤、父親が青の色を持っていたとする。そうすると、生まれてくる子供の色は母親似の赤系統か父親似の青系統、それとその2つを混ぜ合わせた紫系統の子供が生まれるのが一般的なんだ。」
つまり、血液型みたいなものかな。
美穂奈は心の中でそう呟き、納得した。
地球にはない概念だけども、似たような概念のものと上手く照らし合わせながら、ラズの説明を理解していく。
詳細は違うかもしれないが、今はとりあえず、大まかに分かっていれば良いと思ったからだ。
「でね、この色なんだけど。特に貴重とされている色が4色あるんだ。4大原色って言って、赤・青・黄・緑は、特に強い魔力を持って生まれてくるとされている。」
「4?」
美穂奈は首を傾げた。
色の三原色。
光の三原色。
美穂奈が知る色の元というと、上記のものがすぐに浮かび上がってくるが、それはどれも三原色。
光の三原色、赤・青・緑。
色の三原色、マゼンタ・シアン・イエロー。
赤とマゼンタ、青とシアンを一緒と考えた場合、たしかに色はおおまかに4つにわけられると思うけど……。
「ミホナ?」
ラズが呼ぶ声に、美穂奈は首を振った。
「ううん。何でもないの。ごめんなさい、続けて。」
美穂奈の常識がこの世界で何になるというのか。
魔法だの色だの言われているのだ。
3原色だろうが4大原色だろうが似た様なものだし、数字が1違うだけの細かい差異は無視する事に決めた。
「大丈夫?続けるよ?」
ラズの言葉に、美穂奈は黙って頷いた。
「色は遺伝だけど、基本的に色転生って言うのは、血の繋がりが濃いところを好むんだ。特に、4大原色はね。だから、何代にもわたり原色持ちが生まれなかった場合、どんどん原色持ちの子供が生まれる確率が低くなってしまうんだ。原色っていうのは、魔力が高いっていうのもあるけど、他にも全ての色の源となる色でもあるから、原色の子が生まれないのは色々な色を生み出す可能性を潰す事にもなるんだよ。だから、原色持ちは国から重宝される。」
「へぇ……。あ、もしかして、ラズがその原色持ち?」
だから、『保護』なんて単語が出てきたのかと納得しかけた美穂奈に、ラズは苦笑しながら首を振った。
「残念ながら、僕は原色持ちじゃないよ。原色持ちになれる可能性もなかったな。僕の両親共に緑系統だったから、僕がなれる可能性があったのは緑の原色だけど、僕が生まれた時点では緑の原色持ちはまだ生きていたから。」
「えっと。じゃあ、どうしてラズは保護されているの?」
ここまでの会話の流れからして、原色持ちだから国から重要視され保護されている。
という結論に辿り着かないのは何故なのかと、美穂奈は首を傾げた。
「私の解釈が間違ってる?」
ラズの話をちゃんと理解出来てないのかと思ったが、ラズはそれにも首を振って答えてくれた。
「いや、大体はミホナの思っている通りだよ。まぁでも、別に原色持ちだからって、国に特別保護されたりはしないよ。貴重ではあるけど、閉じ込めて大事に大事にされたりとかはないから。僕の友達に、一人原色持ちはいるけど、危険な事をしても特に国に咎められたりはしないし。それは多分ね、原色持ちが死んでしまっても、また次の原色持ちが生まれてくるだろという考えがあるからなんだけど。『色は巡り巡って、またこの世を彩るから。』っていう言葉があるぐらいだし。」
それだけ原色持ちが貴重だと国をあげて思っているのに、個を尊重し、原色の血は貴重だからと、種付け様に監禁とかしない国の方針には賛成だけども、なら何故、ラズは今原色持ちの人間に対する価値を説いたのか。
そこにはやはり、ラズと原色持ちがなんらかの繋がりを持っているからだろう。
どんな繋がりがあるのか、どういった可能性があるのか、自分ならどういう場合保護なんてするのかを美穂奈は考えてみる。
「…………天然記念物。」
「え?」
美穂奈の呟きに、今度はラズが首を傾げた。
「そうよ、やっぱりラズは天然記念物なんじゃないかしら?」
パッと顔を上げた美穂奈に、ラズは眉尻を下げながら深く首を傾げてみせた。
「うんと、ミホナ?君がどこに着地したのか僕にはさっぱり分からないんだけど……?」
「天然記念物よ。知らない?この世界にはないのかしら。」
その言葉にラズが頷いたのを見て、また少し考えた美穂奈はニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、今度は私の番ね。私の解釈が正しいかどうか、ラズに聞いてもらいたいわ!」
魔法も色も、4大原色も、色転生も、何一つとして分からないけれども、ここまで説明をうけたのに、ただ最後に答えを聞いて終わりなのは何だか悔しい気がした。
ちゃんと、自分が出した結論があっているかの答え合わせをして欲しい。
だから、いきなりどうして立場が逆転したのか分からずオロオロしているラズを見て、美穂奈はもう一度ニッコリと微笑んだのだった。
「こうなったら、最後まで付き合ってね、ラズ。」
その有無を言わさない迫力の笑顔に、ラズは少しの間の後、無言で頷いたのだった。