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colors  作者: 湊 翼
第二章
23/32

妖精のFly High

「シルフィード?それって妖精の?」

「違う違う。まぁ、ある意味妖精だけど、あの人は。」

 床に敷き詰めた紙の上に、ジェットと2人何やら描き込んでいる美穂奈を微笑ましく思いながら、アンバーは軽く笑った。

 学校から帰ってきたアンバーに、学校ってどんな感じ?と聞いてきた美穂奈に、アンバーは今日あった出来事を話す。

 やはり、今日一番の目玉はシルフィード先生への宿題提出だろう。

「シルフィード先生は、正真正銘の人間だよ。見た目はミホナぐらいだけど……、実年齢は多分50過ぎなんじゃないかな?」

「50!?」

 美穂奈は紙から顔を上げアンバーを見る。

「是非、美貌の秘訣をお伺いしたいわね!」

「ミホナって、ちょっとずれてて面白いよな~。」

 ヘラヘラ笑って、アンバーは指先をくるくる回した。

「身長や見た目は本当にミホナぐらいで、白金プラチナの長い髪と金色の瞳が特徴的な、面白い先生だよ。」

白金プラチナに金……。それって何系統になるの?」

「灰色と黄色だな。シルフィード先生のカラーは白に近い灰色だけど、あの人灰色って美しくないって言って、常に髪や瞳を魔力でコーティングしてるんだよ。ほら、目に見える魔力って光ってるだろ?」

 そう言って、アンバーは指先から魔力を零す。

 茶色いキラキラした光の粒子が宙を舞った。

「……なるほど、だから白金プラチナね。カラーと同じ色の髪だと、相性は良いだろうし、綺麗だと思うわ。」

「そういう事。口癖は「ん~」で、可愛い先生だよ。」

「へ~。可愛くて面白い先生なんて、生徒に人気あるんじゃない?」

 もう一度紙に向き直り魔法陣を描きだした美穂奈は、自分の学校の先生と比べそう聞くと、アンバーは少し首を傾げた。

「いや~、それが割と評判良くないんだよな。人気者ってより、怖がられてる感じ?」

「……怒ると怖いの?」

 その言葉に、アンバーは少し考え笑う。

「オレは面白いと思うんだけど。」

「怒ってるのに面白いの?」

 どういう事だと訝しげに眉をひそめる美穂奈に、アンバーは本題である今日の出来事を話始めた。

「そうだな。今日、シルフィード先生に、宿題の課題を提出したんだけど……。」

 

 

■■■■■■■◆■■■■■■■◆■■■■■■

 

 

「ゆ、許して下さい……!!」

 恐怖に顔を引きつらせながら、男はカラカラに乾いた声で必死に懇願した。

 男の視線の先には、プラチナ色の長い髪が美しい小柄な女性が1人立っている。

「ん~、そんなに許して欲しい?」

 可愛らしく小首を傾げるシルフィードに、男はブンブンと何度も頭を縦に振った。

 振り過ぎて酸欠状態になっているのか、顔は真っ赤である。

 その様子に、とても満足そうに笑みを浮かべ、シルフィードは楽しげに男の耳元で囁く。

「ん~。でも許して、あ・げ・な・い。」

 その言葉と共に、男は空高く飛ぶ。

 上へ上へ、この国で一番高い建物も通り越し高く飛び、地上から彼の姿がかろうじて認識出来るところで止まった。

 そして、一気に下降する。

 今度は下へ下へ、昇る時よりも速く地面に向かって落下する。

 男の言葉になっていない悲鳴を聞きながら、シルフィードはニコニコと笑い前を向いた。

「ん~、次は……。そうね、ブラニカ。あなたの課題を見せてもらいましょうか。」

 緊張で張り巡らされた空間に、アンバーの「はーい。」という呑気な返事が響いた。

「ん~、あなたの課題は毎回面白いわね。荒唐無稽でバカバカしく夢があるわ。」

「ありがとうございます。」

 嫌味にしか聞こえない褒め言葉に、アンバーはニコニコと笑いながらお礼を言った。

 そうこうしているうちに、男の体は一番高い建物を物凄い勢いで追い抜いた。

「ん~、でも……。」

 シルフィードはそこで一度言葉を切ると、サッと横に向かって魔法陣を描いた。

 指から零れる白金の光が魔法陣を完成させるのと、男の体がシルフィードの横を物凄いスピードで通り過ぎるのはほぼ同時だった。

 男の体は、地面との距離わずか数センチのところでピタリと止まる。

 瞬間、緊張していた空気が少し柔らいだ。

 シルフィードが魔法陣を消すと、宙に浮いていた男の体はドサリと地面に落ちた。

 顔は恐怖で引きつったまま、失禁して気絶していた。

 そんな男をチラリとも見ずに、シルフィードはアンバーの課題に大きな丸をうつ。

「荒唐無稽で馬鹿っぽい夢だけど、理論は完璧だし先生好みだから許してあげる。ブラニカは本当に、馬鹿だけど賢い子ね。」

「シルフィード先生にお褒めいただき、光栄です。」

 アンバーは芝居がかった大仰な口調でそう言い、恭しく頭を下げた。

「ん~、さてと。」

 シルフィードは地面に転がる男を邪魔だと言いたげに足で蹴ると、青い顔をしながら自分を見ている残りの生徒に可愛らしく笑ってみせた。

「ん~。次は誰が空を飛ぶのか、楽しみだわ♪」

 その言葉に、生徒は皆宿題の課題を握りしめながら恐怖に体を震えさせるのだった。

 

 

■■■■■■■◆■■■■■■■◆■■■■■■

 

 

「それ、他人事だから面白いのであって実際自分がそんな恐怖体験するかと思うと怖いわよ。」

「そう?オレは人生で一度くらいは飛んでみたいと思うけど。受け止めてくれるのがシルフィード先生なら安心だろうし。何事も経験だろ?」

 そう言って笑うアンバーはやはり大物だと思う。

 まぁ、絶対安全だと分かっているなら遊園地の絶叫系のに乗ったと思えば良いが、それでもやはり命綱一本もないのは心許ないし、怖い。

「その気絶した生徒とかわってあげれば良かったんじゃない?」

「冗談。あれは、シルフィード先生の獲物だろ?下手な正義感で手を出せばシルフィード先生の機嫌を損ねるだろ。せっかくシルフィード先生とは相性良いんだし、面倒だからパース!」

 やはり食えない奴だと思いながら、美穂奈は今日何度目になるかわからない円を描く。

 ……が、そろそろ手が疲れてきたので数個前のと見比べると段々円の形が歪な気がする。

 ちょっと休憩にしよう。

 美穂奈はジェットに「休憩にしよう。」と声をかけながら羽ペンを置いた。

「じゃあ、飛べるように一回課題手抜きで提出すれば良いじゃない。」

 プルプルと手を振りながら、先程の話の続きを口にする。

「いや、だから一応毎回荒唐無稽なオレの夢を課題にしてる。けど、それだけじゃ空飛ぶの決まってるし、結果を待つ間のドキドキ感が足りないから題材はふざけた内容にして、シルフィード先生好みに仕上げてるんだよ。まぁ、今のところそれで全部通ってるからまだ飛んだ事ないんだけど。」

「……つまり、要領が良いのね。」

 その他の生徒が可哀想だと、心の中で見たこともない人達を哀れむ。

「で、要領の悪い人が毎回飛ぶのね。飛ぶ人って、大体固定化されてるんじゃない?」

 一度それを経験してしまえば、もう二度と飛ばないようにと必死に課題をこなし及第点を貰うか、気張りすぎて凡ミスしてまた飛ぶかの2パターンっぽい。

「そうだな。大体同じ奴が……。あ、いや……。そういえば今日は、シルフィード先生のお仕置きで、珍しい奴が空を飛んだな。」

「へ~。珍しいって事は、成績優秀な人?それとも、アンバーみたいに要領が良い人?」

「前者。学校のツートップが飛んだからな。」

「それはまた……。どうして?」

 学校のツートップが空を飛ぶなら、他の生徒の大半が空を飛ぶのではないだろうか。

「一言で言うと、難し過ぎる題材に手を出し消化不良。」

「……、凡ミスね。」

 学校のツートップだけあって、それでもいけると傲慢になったのだろうか。

 だとすると何とも間抜けである。

「だよな。珍しいんだぜ、2人共慎重なタイプなのに。」

「友達なの?」

「いや?でも、知らない奴はいないと思うけど。2人共有名だし、片方は目立つし。」

 まぁたしかに、この世界で最高峰と謳われる魔法学校の成績ツートップなら有名だろうと納得する。

「オレも興味ある題材だけど、書物あさったって同じ様な事しか書かれてないし、調べるには適さないんだよな。それなら、移動魔法を勉強しまくって時系跳躍系じけいちょうやくけいの魔法生み出し、過去に行く方がいくらか現実的だもんな。」

 アンバーの話はつまり、タイムマシーンを作った方が早いという事だ。

 タイムマシーン、魔法と同じくらい現実離れした夢の道具だ。

「魔法って、そんな事まで出来るの?」

「ん?そうだな、オレがこの銃を完成させるぞー!って言うより荒唐無稽な話だけどな。」

 つまり、あり得ないレベルだと。

「どうしてそんな無謀なものに取り組んだのかしらね。」

「さぁ?あー、でも。2人共原色に関わる人物だし、気になったんじゃない?」

「……原色に関わる人物?」

 その瞬間、ふと2人の顔が脳裏を過ぎる。

 黄色の原色持ちであるリングと、曾お祖父様が緑の原色持ちであったラズの顔が。

「そう。でも、それが何で赤の原色なのかって事だよな。自分の曾祖父であるエルド辺りにしとけば良かったのに。」

 そのアンバーの一言に、美穂奈は今まで散々馬鹿だと思った王立魔法院のツートップに心の中で謝った。

 赤の原色を調べており、緑の原色持ちであるエルドを曾祖父に持つ2人組と言えば……。

「サプレーンはともかく、リンドベルイのあんな青い顔初めて見たし。でも、その後、フラフラになりながらも自分で歩いて保健室行った辺り、プライドたけーよなぁ、リンドベルイは。」

 やっぱり、ラズとリングだ。

 美穂奈はその場に突っ伏しる。

 赤の原色関連のレポートを提出して、空を飛ぶとか明らかに美穂奈が原因の一端を担っているに決まっている。

「お?どうした~ミホナ?」

 アンバーの呼びかけに、何でもないと首を振りながら、何かお詫びは出来ないかと思考を巡らす美穂奈であった。

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