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colors  作者: 湊 翼
第二章
21/32

学校と課題

「あ!」

「あ?」

 王立図書の一角、山の様に高く積まれた本の向こうから、そんな声が聞こえてきた。

「リング、まずいよ。明日から学校だ。」

「………………げ。」

 ラズの言葉に、リングは今日の日付を思い出し、顔を歪めた。

 ここ毎日、朝になればここへ来て本を読み、夕方になれば家に帰って本を読み、寝る前にも本を読みと本ばかり読んでいたせいか、日付の感覚がなかった。

「ヤッベ、課題……。」

「……僕もしてないよ。」

 リングの言葉にラズも同調する。

 当たり前だ、学校が休みになってすぐ美穂奈が来てバタバタと今日まで調べ物をしていたのだ。

 その上課題まで完璧にこなしていたのなら、ラズは一体いつ寝ているのかという事になってくる。

「とりあえず、赤の原色はこの際置いておいて、先に課題しようか。」

「つか、もう課題の題材が赤の原色関連で良いんじゃねーか?」

 目の前にある資料の山に、今日まで詰め込んだ情報の数々。

 課題の1つや2つは余裕で出来そうである。

「そうだね。今から題材選びしてたら間に合わないし。後は、一日で書いた付け焼き刃の課題でシルフィード先生をどこまで誤魔化せるかだね…。出来れば、シルフィード先生の怒りはかいたくないなぁ。」

「あの女の制裁はマジ生死に関わるしな……。」

 直接制裁を受けたことはないが、あれを自分が受けるのかと思うだけで気が滅入る。

「ミホナには悪いけど、赤の原色持ちは後回しにしよう。うん……。」

 ラズも思い出したのか、青い顔で読んでいた本を横にズラした。

「つか、ラズ。あいつ、魔法覚えるとか息巻いてたけど、上達してんのか?」

 ふと、久々に聞いた名前に思い出したかの様に聞いてみる。

 毎日一応メモ書きした本をラズに預けているが、半ば義務の様な感じになってしまい、今まで聞くのを忘れていた。

 頭は悪くなさそうだったし、そろそろ初歩ぐらいは理解出来たんじゃないかとラズを見れば、ふいっと視線を逸らされた。

「えー……っと…………。」

 言い淀むラズに、リングは一瞬首を傾げてから、はたと思い至ってラズを見る。

「そういやおまえ、あの女に本に渡しに行ってから帰ってくるまでの時間がやたらと早かったな。」

「それは、ほら。リングにばかり資料探し押し付けたら悪いかな~って……。」

「怖くて尻尾巻いてそそくさ逃げてきてたんだろう。」

 あの日、頭に血が上っていたとはいえ、見事に綺麗に投げられた。

 それ以来、ラズはあんなに「ミホナ、ミホナ。」うるさかった口を閉じ、黙々と資料を読み耽っていたのだ。

 多分、見た目からして小さくて可愛いから守ってあげなきゃとか思ってた女の子が、強いと知って驚いたのと同時に、自分もあんな風に投げられるんじゃないかと怖がっているのだろう。

「あいつは、おまえの事は投げねーだろ。あんまビクつかなくて良いんじゃねーの?」

「わ、分からないだろう!いつ、ミホナの機嫌を損ねるとも限らないじゃないか!!」

「と、そう思って毎日本だけ届けたら話もせずにすぐに帰ってた訳だ。俺の事責められねーだろ。」

「……申し訳ないと思っております。」

「それはどっちに対してだよ。」

「もちろん、両方。」

 言いながら、ラズもリングも課題用の用紙を引っ張り出し、紙に文字を走らせていく。

「でも、ミホナは賢い子だしきっと大丈夫だよ。」

「だと良いがな。まぁ、今は人の心配より自分の心配だろ。」

「そうだね。最悪、ミホナの魔法が上達してなくても何かある訳じゃないしね。僕達のは、若干生死かかってるし。」

「……今日は徹夜だな。」

 その呟きを最後に、王立図書内にはカリカリと何かを書き記す音以外、何も聞こえなくなったのだった。

 

 

■■■■■■■◆■■■■■■■◆■■■■■■

 

 

 

「ハーイ、質問。」

「ん。なんだねミホナ君!」

 手をあげる美穂奈に、アンバーは偉そうに指を差した。

「ジェットって器用なんでしょ?じゃあさ、アンバーが紙に描いたこの魔法陣をそのままなぞれば魔法使えるんじゃないの?」

「んー、半分当たりの半分ハズレ。そこに描いてるのはオレ用の魔法陣。魔法陣を描くことを律を編むって言うんだけど、この律って言うのが人それぞれ違うんだよ。魔法を上手に使える奴ってのは、自分の魔法の性質を良く知った上で、一番自分にあった律を素早く描く。それが、魔法を“上手に”使えるって事だ。自分の律を編むってのが重要だけど、一応こういう風に律を編めばまぁ魔法発動すんじゃね?っていう見本は存在するんだよ。それを元に俺達は自分用に律を編み直すんだけどな。残念ながらこの見本はオレ達凡人用であって、ジェットみたいに魔力の多い人間用じゃないんだよ。魔力の総量が多いって事はそれだけ制御しないといけないものが多いから、律の編み直しも普通の人より多いし複雑なんだよ。だから、その見本通りにジェットが律を編んだら、まぁ良くて何も起きない。悪くて爆発だな。」

「気軽に試してみようかレベルですむ話じゃないわね。」

「そういう事。わかったかね?」

 アンバーの話に「わかったー」と軽く返事を返し、美穂奈は床に散らばった紙をつまみ上げた。

「という事は、魔力の多い人間ほど沢山勉強しなきゃ駄目なのね。」

「そうだな。ランクの低い魔法を使う時には制御系の律を組み込まなきゃ駄目だし、ランクの高い魔法は律自体複雑だし。でもまぁ、魔力があれば高いランクにも挑戦出来るって特権はある。」

「なるほど。」

 アンバーが次々に床にばらまいていく紙を順番通りに拾い束ねながら、美穂奈はジェットを見た。

 アンバーが机に向かって書き物をしているなら、ジェットは机に向かって何やら細かい作業をしている。

 金属の固まりを、色々な道具を使い削ったり砕いたり。

 魔法を使えばちゃちゃっと出来そうな事だが、魔法の使えないジェットはそれらを1つ1つ丁寧に手作業で行っていた。

(職人技ってやつよね。)

 機械で大量生産した方がお得感があるが、やはり職人が手ずから作った物には量産品とは違う気品や価値がある。

 そうこうしているうちに、また紙が一枚床に落ちた。

 それを拾い上げ、今まで拾った紙と一緒に中身に目を通した美穂奈は首を傾げた。

「ところで、アンバー?今日のは何だかいつもと大分違う感じなのね。文面が丁寧だし。」

 その言葉に、アンバーは紙面から顔を上げ、ニッと笑う。

「お、ミホナ。その内容読めるのか?」

「えぇ、まぁ。お陰様で何とか読めるぐらいには。内容まではサッパリだけど。」

「上等、上等。」

 言ってアンバーはクルクル羽ペンを手の中で回し、また机に齧り付いてしまった。

「いや~、最初はジェットと同じく文字が読めないなんてビックリしたけど。ミホナは頭は悪くないよな。教えたら、凄いはやさで覚えたし。今までよっぽど下手な奴に教えられてたんだな。」

「それは……。アンバーの教え方が良いんだと思うわよ。」

 嘘ではない。

 アンバーは実際教えるのが上手かった。

 今まで、ジェットという破滅的に頭の悪い人間に対して色々と教えてきたせいか、頭の悪い人間に対して教える教え方がとにかく上手い。

 わかりやすい例えを出してくれたり、時には絵に描いて解説してくれた。

「んな事ないって。実際、ジェットは未だ文字読めないし。」

 ガチャン!

 アンバーのそのセリフに、向こうの台で作業していたジェットが工具を取り落とした。

「ご、ごめ……。」

「あー、良いって。オレの教え方が悪いんだよ。気にすんなって。」

 直ぐさま謝ろうとするジェットに、アンバーは手を振り制止した。

「で、でも。ミホナは覚えた……。」

「それは、あれだ。ミホナは頭が良かったんだ。お前と一緒じゃない。」

 それは遠回しにお前は頭悪いからって言ってるも同義なのに、頭の悪いジェットはそんな言葉の裏まで分からない。

「そ、そっか。ミホナ、頭良いんだ。」

 凄い、とキラキラした目で見られ、とりあえず笑って流した。

 ここで私が「普通」だと主張すれば、ジェットが落ち込むから言わないでおく。

 そう、壊滅的に頭が悪いと紹介されたジェットは、文字通り壊滅的であった。

 その一番の原因はこれだろう。

 文字が読めない。

 異世界人のミホナと違い、ジェットは生粋のcolorsカラーズのオーラー出身の人間だ。

 それが、文字が読めない。

 地球で言うところの二十歳過ぎて、まだあいうえおを読み書き出来ませんって言うのと同じレベルである。

 言葉は不自由なく使えるのだが、とにかく読み書きが全然駄目らしい。

「ジェットは文字が読めないわかりに、上手に銃を作れるでしょ?凄いわ。」

 そう言えば、ジェットは嬉しそうに頬を染め、また銃作りに精を出した。

 27歳の男の人とは思えない程、可愛い反応である。

 多分、幼少時の親や親戚一同に責められたというのが関係しているのだろう。

 ジェットは体は大人だが、中身は子供のままなのだ。

 体だけが大きくなってしまった、そんな感じである。

 なので、実際10以上歳が離れているのだが、何故かジェットに接するときは、逆の10年下の子を相手にしている気分になる。

「ミホナも、大分ジェットの扱い上手くなったな~。」

「未だにアンバーの扱いには困るけど。」

「そうか?オレ、結構わかりやすいって言われんだけど。」

 それは、表面だけを見た場合だろうと、美穂奈は心の中で呟いた。

 アンバーという人間を表面上だけで見れば、25歳にしては童顔で人懐っこくて脳天気な明るい奴だろう。

 けれど、実際は少し違う。

 馬鹿そうに見えるが、たまにチラリとアンバーの本当の顔が姿を見せる。

 賢くて、大人な彼の影が見え隠れする。

 見た目は子供で、中身が大人。

 ジェットとは真逆である。

 今だって、馬鹿みたいな会話をしながら、アンバーは良く分からない難しい何かを書いている。

「……難しいわよ。」

 その難しい何かを集めながら、美穂奈は小さく呟いた。

「その内容が?」

「両方よ。」

 言って、再度拾い集めた紙に視線を落とす。

 書いてある事は専門的過ぎて良くわからないが、どうやら今作っている銃に対しての報告書の様な物だった。

「これ、誰かに提出するの?…パトロンとか?」

 言ってしまえば個人の趣味で作っているようなものだと思っていたので、この様にレポート形式で誰かに見せるのだと少し驚く。

「ざんねーん。パトロンじゃなく先生。パトロンは欲しいんだけどいないんだよな~。まぁ、オレのこの理論に賛同してくれる奴ってなかなかいないし。キチガイ扱いされる事は良くあるけど。」

 アンバーの銃の構造は一度聞いた。

 銃の中にあらかじめ魔法陣を刻み込んでおき、玉をセットし打ち出せば魔法が使えるというもの。

 弾ではなく、玉。

 宝石を使うのだ。

 あらかじめ魔法陣が刻んであれば、魔法陣を描けない人にも使え、魔力でなく宝石を使うことにより、魔力のない人間でも魔法が使える。

 それが、アンバーとジェットの理想の魔法の形なのだそうだ。

 そこまで無茶苦茶な事を言ってるようには思えないのだが、魔法を勉強すればきっとおかしな事だらけなのだろう。

「材料費とかかさむし、目下オレの研究の一番の伸び悩み材料は金だよな~。先生も、課題の出来が悪かったらキッツイ仕置きするんだし、良く出来てたら金一封ぐらい用意してくれたら良いのに。」

「まぁ、そうね。普通これだけの大がかりな実験にパトロンって不可欠だもの。それより、さっきから気になってるんだけど…、先生?アンバー、お師匠様でもいるの?」

 先程から出てくる“先生”の文字。

 敬うべき師でもいて、その人に研究成果を報告しているのだろうか?

「師匠?違う違う。普通に、先生だよ。学校の。」

「学校……って、え?!アンバー学校行ってるの!?」

「行ってるよ~。」

 その返答に美穂奈は驚く。

 アンバーはもう25歳だ。

 普通にしていれば大学も卒業しているはずである。

 頭も良いし、留年はないだろう。

「で、でも!行ってる気配ないわよ、サボリ!?」

「違う違う。長期休暇。明日からはまた毎日ちゃんと通うし。」

 出席日数的問題かと思ったが、そうでもないようだ。

「へ~、学校……。そっか……。行ってるんだ……。」

 とりあえず、当たり前だと話すアンバーの様子からし、どうやらその年で学校に行くというのは不自然な事ではないらしい。

 だったら、ラズやリングも学校に行っているんだろうか。

 今度聞いてみよう。

「…………で、アンバーはその学校への提出物を今やっているの?」

「そういうこと~。いや~、だからオレ今日余裕なくてさ~。」

 口調だけは余裕あり気に、けれど手は結構なスピードで文字を綴っていく。

 そしてまた一枚、紙が床に舞った。

 どうやら、見た目通り、夏休みの宿題は最終日に慌てて終わらせるタイプの様だ。

「まぁ、アンバーなら大丈夫だとは思うけど。それより、ジェットはちゃんと宿題やってるの?というか、出来るの?」

 文字も書けない人間が宿題って……と思いながら、ジェットを見れば、ジェットは驚いた顔でブンブン必死に頭を振っていた。

「ミホナ、ミホナ~。ジェットが王立魔法院おうりつまほういんに入れる訳ないだろ~。」

「え?」

 小中学校の様に義務教育でなく、高校や大学の様に受験制度なのだろうか?

 だったら、ジェットが行ってない理由にも頷ける。

 けれど、アンバーは再度紙面から顔を上げ、ニッと笑う。

 もう見慣れてきたあの不敵なあの笑いを。

「王立魔法院は、国が将来有望だと思った若い魔法使いを育成する特別学校。一流の教師に教えてもらい、最高級の実験器具などをタダで使わせてもらえるけど、国に対して毎年何かしら還元しなきゃいけない。まぁ、早い話何かしら功績をあげろって事だな。3年間、何も功績をあげられなかった場合すぐに追い出される。魔法使いは誰もが羨み、必死になって縋りつく最高級の学び舎。それが王立魔法院。ジェットが入れる訳、ないだろ?」

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