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colors  作者: 湊 翼
第二章
19/32

茶の青年と黒の青年

 キョロキョロと辺りを見渡しながら、美穂奈は歩く。

 何処という明確な目的地はないが、とりあえず、人の流れに沿って歩く。

 宿に泊まり始めて2週間、美穂奈は外へ出てみる事にした。

 部屋に閉じこもっていても魔法の勉強は進まないし(文字が読めないから)、ソフィアの手伝いも日に日に数が少なくなっていき(やり尽くしたから)、ラズが美穂奈に顔を見せる時間はどんどん減っていく(多分、恐怖から)。

 そんな訳で、午前中にラズから本を受け取り、ソフィアの仕事をちょっと手伝えば、午後が丸々空いてしまうのだ。

 なんとなく今まで未開の地という感じで外出し辛かったのだが、ラズもリングも外出に対して何も言っていなかったし(単に忘れているだけかもしれないが)、新しい事にチャレンジしなければ道は開けないだろうと、美穂奈は1人で街へと出てみた。

 そして、現在。

 とりあえず歩いている。

 ここがゲームの様な世界なら、片っ端から町の人に話しかけて情報収集でもするのだが、生憎と大通りを歩いている人は皆生きた人間で、美穂奈がアホな事を言えば即座に不審者扱いである。

 ゲームの様に同じ事を何度も何度も繰り返してくれる親切仕様のプログラムではない。

 となると、下手に話しかける事も出来ず、やはり歩くしかない。

 後得られる情報としては、視覚からのものだが、それは初めてこの街を見たときのものと変わらない。

 中世ヨーロッパを思わせる町並みに、服装。

 時々、出店の様なテントで食材などを売ってるとこからして、スーパーやコンビニの様な物はなく、市場での買い物が普通なのだろう。

 でも、だからと言ってこの街は時代遅れという訳ではない。

 明かりは電気でなく炎系の魔法から生み出せるし、水道はないが、水系の魔法で何もないところから湧き上がってくる。

 科学の代わりに、魔法があるのだ。

 魔法が使えない美穂奈にとっては不便な世界だが、魔法が使える人からすれば、地球よりも便利なのかもしれない。

 何せ、から何かを生み出すのだから。

「やっぱり、魔法よね。魔法覚えなきゃ何も始まらない……ん?」

 ふと、美穂奈はある出店の前で足を止めた。

 見たこともない珍しいものがそこに売っていたから……ではない。

 逆だ。

 見たことのある物が売っているから、足を止めた。

 正確に言えば、実際に見たことはないが、知っているもの。

 ……拳銃に似た形の物が売っていたからだ。

 店の人はどこかに行っているのか、留守だ。

 不用心だと思いながら、美穂奈はその拳銃を手に取ってみる。

 ズシリと重い、鉄の塊。

 使った事は勿論ないので、これが本物かどうかはわからないが、こんな風に堂々と出店に並んでいるのだ。

 この世界での拳銃は、一般市民が気軽に購入出来るものなのかもしれない。

「……でも、拳銃って魔法ってより、科学って感じがするんだけどな。」

「お!お客さん、それ気に入った?」

「え?」

 急にかけられた声に、美穂奈は驚いて顔を上げる。

 そこには、茶の髪に茶の瞳をした平凡な若い青年が立っていた。

「でも、ごめんね。それ、まだ完成してないんだ。」

 そう言って、青年は美穂奈の手から拳銃を取り上げる。

 どうやら、この店の主人の様だ。

 主人というには若過ぎる印象のあるその青年は、美穂奈から取り上げた拳銃をクルクルと手の中で回す。

 その様子に、美穂奈はハラハラした。

 いくら安全装置がついてるからといって、あんな雑な扱いをして万が一にも暴発とかしたらどうする気なんだろうか。

「……どうしたの、お客さん?」

 ビクビクと怯えている美穂奈に青年は不思議そうに首を傾げた。

「え、だ・だって、それ、暴発とかしないの?」

 そっと拳銃を指差せば、青年は手の中の拳銃を見下ろす。

「それって、コレ?……大丈夫だよ、まだ完成してないし、玉入れてないし。」

「え、あ、そうなの。」

 ほう、と溜息を吐いて、美穂奈は安心したと破顔した。

 弾が入っていないのなら、暴発のしようがない。

「それ、まだ未完成なのね。完成品て言われても頷けるぐらい良く出来ているわ。」

 本物を見たことはないけども、オモチャではないとわかる作り。

 デザイン性はないけども、シンプルで細部もとても綺麗に作り込まれているその拳銃に賛辞を送れば、青年は少し驚いたように美穂奈を見た。

 そして、急に店を片付け始めた。

「……ねぇ、お客さん。今からちょっと時間ある?」

「え?えぇ、時間はあるけど……。」

 突然の店じまいに、何か不快にさせる様な事を言ってしまっただろうかと思いながら頷けば、青年はニッコリと笑った。

「じゃあさ、今からオレとデートしない?」

「……え?」

 何でそんな事になったんだ?と思う間もなく、青年は美穂奈の手を取り、走り出す。

「えぇ?!ちょ、ちょっと!!」

 美穂奈の抗議の声なんか聞こえないとばかりに、青年はそのまま美穂奈を引っ張り走る。

「あ、そうだお客さん、名前は?オレはアンバー=ブラニカ。」

「み、美穂奈よ!それより、ブラニカさん?」

「アンバーで良いよ。ミホナ可愛いし、呼び捨てで良いよ。」

「じゃあ、アンバー!ちょっとどこ行くの?!」

 今日街に出たばかりなので、元々地理には詳しくないが、アンバーが走り出した方向は宿と逆方向だった。

 あんまり遠くなると迷子になってしまう。

 走りながら問えば、アンバーはニッと笑った。

「オレの家。ミホナに見て欲しいものがあるんだ。」

「へっ?は、えぇーーっ!!」

 どうしていきなり家にお呼ばれされる事態になっているのかわからず叫ぶ美穂奈を、アンバーは気にした風もなく引っ張り連れて行くのだった。

 

 

 

■■■■■■■◆■■■■■■■◆■■■■■■

 

 

 

「足元、危ないから気を付けて。」

 そう言って差し出される手を、美穂奈は素直に受け取った。

 アンバーは美穂奈の抗議の声を無視し、どんどん町外れの方向へと引っ張り連れてきた。

 何度も同じ様なレンガ造りの家の角を曲がり、何度も同じ様な壁に沿い、走る。

 そうなればもう美穂奈はおとなしくなるしかない。

 何故なら、今ココで放り出されたら、迷子確定である。

 アンバーの言う通り従い、もう一度あの大通りへ連れて行ってもらうしかないのだ。

 地下へ続く階段を、アンバーの手を支えにおりていく。

「……ここがアンバーの家?」

 先程、家に連れて行くと言われたのを思い出しながらそう言えば、アンバーはニコッと笑った。

「んー、さっきは家っつったけど、正確には家じゃなくて…、作業場なんだ。」

「作業?」

「そう。これとか、そこで作ってるんだよ。さっきミホナには、これはオレが作ったって言ったけど、正確に言うとコレを設計したのはオレだけど、実際に作ってるのは別の奴なんだ。だからさ、折角だからそいつにも会ってやってよ。で、さっき見たいに褒めてやってくれないかな。きっとあいつも喜ぶよ。」

 そう言ってアンバーが取り出したのは先程の拳銃。

 それを見て、美穂奈は急に心配になってきた。

 物騒な物を作るのにピッタリの地下へと続く薄暗い階段。

 こんなところにノコノコついて来てしまって良かったのだろうか?

 相手は未完成で危険性がないとは言っても拳銃保持者だ。

 人懐っこそうな笑顔に、平凡な外見で全く持って危険性等を考えなかったが、危ない人かもしれない。

 しかも、仲間のいる場所に案内されるとか、絶対変である。

 何故なら、美穂奈は先程偶然アンバーの店に立ち寄り、拳銃の出来を褒めただけで、特に親しい間柄だとかそういったものがない。

 なのに、作業場に案内とか普通じゃない。

 チラリと辺りを見渡す。

(とりあえず、いつでも逃げられるように退路だけ確認しておこう。)

 そういえば、元いた世界ではこんな怪しい人間は常に疑っていたなと美穂奈はアンバーを見て思う。

 否、怪しくなくても疑っていた。

 けれど、ここは異世界で、大財閥の1人娘でなくただの美穂奈でしかない自分がまさか誘拐などないだろうと、ちょっと油断し過ぎたかもしれない。

 異世界だからこそ、何があってもおかしくないのに。

 暗い地下通路を少し進んだところにある扉の前で、アンバーは足を止めた。

 アンバーは美穂奈を振り返り、ニコッと笑うと、大仰にお辞儀をした。

「ようこそミホナ!オレ達の楽園へ!!」

 芝居がかった台詞付きで開けられた扉の向こうには、普通の家の居間をそのまま切り取った様な生活空間が広がっていた。

 そして、そのソファーに座ってこちらをポカンと見ている漆黒の髪と瞳の青年と目が合った。

「……えっと、こんにちは?」

 とりあえず挨拶してみると、漆黒の髪の青年はビクリと肩を震わせた。

 そして、美穂奈の後に立つアンバーの方をキッと睨んだ。

 少し長めの前髪から覗く眼光が鋭く光る。

 けれどアンバーはそんなの気にしないとばかりに、部屋の中に入ってきて、空気も読まず自己紹介を始めた。

「ただいま、ジェット。ミホナ、紹介するよ。これがオレの相棒、ジェット=スコール。頭は壊滅的に悪いけど、手先は天才的に器用なんだよ。後、ちょい人見知り。」

 そう言って紹介されたジェットという青年は、美穂奈から隠れる様にソファーの影に移動した。

「ジェット、大丈夫だって!良く見ろよ、可愛い女の子だって。名前はミホナって言うんだぜ。お前が作ったコレ、褒めてくれたんだよ。」

 そのアンバーの声にジェットはピクリと反応し、そっとソファーの背もたれから顔を覗かせた。

 その様子に、アンバーは美穂奈に笑いかける。

「な、そうだよなミホナ。」

「え、えぇ。飾り気はないけども、細部まで良く作りこまれてて凄いなって……。」

 思っただけで何故かこんなところまで連れてこられてしまったのだけれど。

 美穂奈のその言葉に、ジェットはようやくソファーの影から出てきてくれた。

「あ、ありがとう。そういう風に褒めてくれたの、アンバーで2人目。」

 そう言って笑うジェットは、どう見ても美穂奈より年上なのに美穂奈より幼く感じた。

 そのままニコニコとジェットと微笑みあう事数十秒、美穂奈はゆっくりとアンバーを振り返った。

「……で、アンバー?私は本当にコレだけの為に連れて来られたのかしら?」

「うん?もちろん!いや~、ジェットの奴にちょっとは自信を持ってもらいたくてさ~。ありがとうミホナ、うまくいった!!」

 そう言って屈託なく笑うアンバーに、美穂奈は脱力する。

 なんだか途中変に気張ったりしたけども、やはり全て考え過ぎだった様だ。

「まぁ、良いけどね。暇だったし……。でも、これだけの腕なら、何も私じゃなくても誰かしら褒めてくれたりしないの?」

 素朴な疑問だった。

 ジェットの作った拳銃は、素人目から見てもとても綺麗に作られている。

 もし何かしら問題があるなら構造だろう。

 それならば、責めるべきは設計担当のアンバーだろう。

 何故そんなにも自信がないのかと聞けば、ジェットは急にシュンと落ち込んでしまった。

「あ~。ミホナ、ミホナ。」

 ちょいちょいとアンバーに手招きされ、何かまずい事を言ってしまったかと美穂奈は慌てて口に手を添え、アンバーの近くへと体を寄せた。

 アンバーと美穂奈は2人部屋の隅で体を丸め、ヒソヒソと声を潜め話す。

「んとさ。ジェットは、見たら分かると思うけど、黒のカラー持ちなんだよ。もちろん、ジェットの親、親戚一同そりゃあもうジェットに期待しまくった。んだけどな……、さっきも言ったがジェットは手先は神がかってるぐらい器用だけど、頭の方が壊滅的でさ…。そのせいでもう親からも親戚からも毎日毎日ボロクソ言われてさ~、自信なんて風化しちまったんだよ……。」

 可哀想だろ?と同意を求められる。

 たしかに、親や親戚一同から毎日ボロクソ言われるのは可哀想だと思う。

 思うけど…。

「えっと……、イマイチ良くわからないんだけど?」

 そう、思うけどもアンバーの説明には色々不明な事が多過ぎる。

 黒のカラー持ちだと何故将来を期待されるのか。

 原色持ちならともかく、黒ってそんな貴重なものだっただろうか。

 そして、もう一つ。

「えっとね、黒が先天的に魔力の多い人間だったなら、それで良いんじゃないの?どうしてそこに頭の良し悪しがかかわってくるの?たしかに、馬鹿より頭良い方が良いに決まっているけど、魔力が元々多いなら、何も考えずにとりあえず魔法使えばそれなりのランクになるんじゃない?」

 そう疑問を口に出せば、アンバーはしばし美穂奈を呆然と見ながら呟いた。

「……ミホナって、もしかしてジェット以上に頭悪い?」


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