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colors  作者: 湊 翼
第二章
17/32

正当防衛

「えっと……。ご、ごめんねミホナ。」

 ラズの言葉に、美穂奈は笑顔で首を振った。

「ううん、良いの。悪いのはラズじゃないわ。どうせ全部リングが悪いんでしょ?」

 美穂奈が宿に泊まりはじめて一週間後の夜。

 ラズとリングがようやく顔を出した。

「全然良いのよ、ソフィアさんが優しくしてくれたし。お風呂入るのもビクビクしたり、食べるものがなくて空腹にみまわれたり、着替えの服がなくて困ったりなんて、初日と2日目だけだったもの。後は快適だったわ、ソフィアさんのおかげで。」

 美穂奈の言葉に、ラズは焦ったように視線を彷徨わせ、リングは面倒臭そうに視線を逸らした。

「そ、そうだ!ミホナ、これお詫びの印!!っても、リングのお金で買った物だけど……。」

 手渡されたのは、沢山の服や靴など。

「リングが選んだから、きっと似合うと思うよ。リング、センスあるし。」

「え~、そんなの良いのに。全部ソフィアさんがくれたもの。そう、ぜ・ん・ぶ!ソフィアさんが。」

「ご、ごめんね……。」

 笑顔だけども、穏やかな口調だけれども、明らかに刺々しい言葉の数々に、ラズはシュンと項垂れた。

 そんな様子を見せられたら、反省してるんだなと許してあげたい気持ちになるのだが、残念ながら美穂奈の怒りのツボを刺激し続ける男がいる限り、ラズにも半ば八つ当たり気味で接する。

 そう、現在進行形で美穂奈の怒りのツボをつく人物、リング。

「あぁじゃあ、あの女にはチップでもはずんでおけば良いだろ。」

 死ねば良いのに、と言っても良いだろうか。

 声に出して言って良いだろうか。

 こんなところだけ、金さえ出せば文句ないだろうという型にはまった金持ちの男とそっくりで嫌になる。

 良いところが全く見つからない。

 それでも、と美穂奈は息を吐き出し、心を落ち着かせた。

「……もう良いわ。大体、ラズにもリングにも、私の面倒をみなくちゃいけないって義務はないもの。2人の好意でしょ、これは。あんまりわがまま言えないわ。」

 そう、今こうして異世界で1人寂しく森の中で怯えながらでなく、温かい宿のふかふかベットで安心して眠れているのは、ラズとリングのおかげだから。

 例えリングが大嫌いなタイプであっても、我慢するしかないのだ。

「あったりまえだっつの!大体、感謝されても、怒られる筋合いはねーだろ。」

(そう、だからこんな事言われたって笑顔で堪えて……。)

「風呂の入り方だって一度教えた訳だし、赤と青さえ間違わなきゃ大惨事になんかならねーだろ。風呂に湯はるのぐらい、ガキでも出来るっつの。赤と青の判別も出来ねーのかよ、おまえは。」

(…………………………。)

 その言葉を、美穂奈は無言でニコニコと聞く。

「食い物がないとか、普通下が食堂になってんだから、行けば食える事ぐらいわかんだろ。着替えも、別に良いじゃねーかよ、どこか出かける訳でもねーんだから、洗濯してる間、シーツにでもくるまっとけば……。」

「リ、リング、危ない!」

 ハラハラしながら、リングの言葉を聞いていたラズが、急にハッとして叫んだ声に、リングが反応し、こちらを向いた。

 その瞬間を狙っていたかの様に、美穂奈は力いっぱいリングの顔に向かってソレを投げつけた。

「一回、死んで来いっ!!」

 ガッシャン!

 陶器の割れる音と共に花瓶はリングの額に命中し、粉々に砕け散ったのだった。

 

 

 

 ■■■■■■■◆■■■■■■■◆■■■■■■

 

 

 

 魔法とは、本当に便利であると美穂奈は思う。

「大丈夫、リング?」

 ラズの言葉に、リングは無言で1つ頷き、額から流れる血を拭った。

 そこにはもう傷1つない。

 先程ラズが魔法で治したのだ。

 血を拭い去ると同時に、リングは指先から黄色い光を紡ぎ、宙に何かを描き出す。

 それは何度か見た、魔法を発動させる時の動作。

 キラキラした光の粒子が、宙に舞い魔法陣の様なものを描き出す。

「ーーっつ!リング、ストップ!!」

 途端、慌てた声でラズがリングの魔法陣を灰緑色の光でかき消した。

「なにすんだよ、ラズ!邪魔すんな!!」

「邪魔もしたくなるよ!なにこんなところでSランクの攻撃魔法を放とうとしてんだよ!!」

「うるせー!その女、マジ許さねー!八つ裂きにしてやる!!」

 そのセリフから、どうやら本気で怒ったリングが美穂奈に向かって自分が持てる最大級の魔法で攻撃してこようとしていた様だ。

 魔法は綺麗で素敵なものだが、やはり色々な意味でとても危険なものだ。

 自分が使うにしても、相手に使われるにしても。

 特に、これからリングと一緒にいるならば、いつか本気で攻撃魔法がとんできそうだ。

 ラズだって、いついかなる時も守ってくれる訳ではないのだし、やはりここは護身術を覚えなくては。

 魔法に対する護身は、やはり魔法だろう。

 美穂奈は少し考えてから、暴れてラズに取り押さえられているリングを見た。

「何、リングってばもしかして、魔法も使えない女の子にSランクの魔法で攻撃しようとかしてたの?うわ、卑怯、最低。」

「あぁん?!」

 ギロッと睨んでくるリングと、今は黙っててくれと目配せしてくるラズを無視し、美穂奈はおおげさな溜息を吐いた。

「だってそうでしょ?私、魔法が使えないもの。フェアじゃないわ。無抵抗の人間にいきなり攻撃魔法とか……、格好悪っ。」

「だったら、てめーが魔法を覚えろよ!!自分の無能を盾にしてんじゃねーよ!!!」

「り、リング、落ち着いて!!」

 全力で暴れるリングと、それをさらに全力でおさえるラズに、美穂奈は思い描いた通りの展開にニッコリ笑った。

「そうよね、私が無能なのが悪いのよね。」

 あっさり肯定した美穂奈に、リングもラズも一瞬呆気にとられた様に美穂奈を見た。

 その間抜け面に美穂奈はさらに笑顔で笑いかける。

「私が魔法を覚えれば良いんでしょ?言い出しっぺなんだから、責任もって私に魔法を教えてよね、リング。」

 瞬間、リングの顔がみるみるうちに真っ赤に染まった。

 自分の失言への羞恥と怒りに。

「殺すッ!!」

「や、めろって!リング!!落ち着けってば!!あ!!!!」

 ラズの手を振り解き、魔法そっちのけで本気で殴りかかろうとするリングの攻撃に、ラズは一瞬顔を青ざめる。

 が、

「……正当防衛、よね?」

 呟きと共に、美穂奈はリングの攻撃を受け流し、腕を取ってまあるく床に叩きつけるようにして、投げたのだった。

 大財閥の一人娘。

 そのとても狙われやすい称号を持っている彼女は、護身術として合気道を習っており、その腕は有段者級だと家庭教師の先生が褒める程だとか。


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