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colors  作者: 湊 翼
第一章
12/32

看病とライフライン

 ふっと意識が上昇する感覚に、リングは目を開けた。

 地面が近く、倒れていると理解するのに数秒。

 体を起こそうとして鉛のように重く動かないと理解するのに更に数秒。

 仕方がないので、ゆっくりと首だけ巡らせると、額から何かがずり落ちた。

「あ、気が付いた?」

 声のする方を見れば、茶色のふわふわした髪を肩口まで伸ばした少女がこちらを心配そうに見下ろしていた。

「…………あー。えっと。」

 何が起きたのかわからず、とりあえず声を発して見ると、なんだか物凄く喉が渇いており、声もカラカラだった。

「……大丈夫?起きあがれるなら、ベットに移動して欲しいんだけど。」

 そう言いながら、リングの額からずり落ちてしまったものを拾い上げ、少女はリングに手を差し伸べた。

 女の手を借りるなんてまっぴらゴメンだと言いたいところだが、今の状態じゃ到底1人で起きあがれる気がせず、リングは黙ってその手にすがった。

「……その状態じゃ、ラズを運んでもらうのは無理そうね。」

 そう言われ、視線を巡らせれば、お人好しの友人が地面に倒れているのが見えた。

 額には濡れタオルが置かれ、体には毛布が被せてあり、自分もきっと同じ状態だったのだろうとリングは鈍くなった頭で思う。

 かろうじてベットに辿り着き、半ば倒れるように横になれば、そっと体に布団をかけられる。

「水……は、飲めなさそうね。とりあえず、今はもう一眠りした方が良いわ。おやすみなさい。」

 額に置かれたタオルが冷たくて気持ちが良い。

 リングは言われるままに目を閉じ、もう一度眠りについたのだった。




■■■■■■■◆■■■■■■■◆■■■■■■




 ゆっくりと目を開ければ、ぼやけた視界の中に、少女の後姿が見えた。

「ミホナ?」

 カラカラの声で呼ぶと、振り返った美穂奈の黒くて大きな瞳が自分をとらえた。

「ラズ!大丈夫?」

 心配そうに駆け寄ってくる姿に、ラズはほっと息を吐いた。

「ん。怪我とかない?」

「私は大丈夫。それより、ラズは?何がどうなったの?」

 見れば、ベットに横になっている口の悪い友人の姿。

 きっと、意味も分からず自分達が倒れてしまって心細い思いをしたのかと思うと、申し訳ない気分になった。

「あぁ、今はそれはどうでも良いわ。とりあえず、起きれる?ベットは今いっぱいなんだけど、ソファーに移動しましょ?床よりはマシなはずだし。」

そ う言って、差し伸べてられた小さな手をラズはつかんだ。

「……ラズ、大変なのはわかるんだけど、ちょっとだけ力入らない?さすがに、私の力じゃ支えるのが限界で、引っ張りあげるのは無理だから。」

 言われて、全く力の入らない体を叱咤してなんとか体を起こした。

「こっち、ゆっくりね。」

 重いだろうに、一生懸命ヨタヨタと歩きながら支えてくれる美穂奈にラズは心の中で感謝した。

 やっとの思いで辿り着き、ラズは倒れるようにソファーに体を沈めた。

「ラズ。水、飲める?」

 美穂奈の言葉に、ラズは小さく頷いた。

 一口飲んだだけで、生き返るような、そんな感覚がした。

「じゃあ、ラズももう一眠りして。おやすみなさい。」

 体に毛布の、額に濡れタオルの感触を感じながら、ラズはそのまま再び眠りについた。




■■■■■■■◆■■■■■■■◆■■■■■■




「さて、と。」

 ラズに毛布をかけ、美穂奈は小屋の中を見渡した。

 とりあえず、我に返った美穂奈はラズとリングの様子を改めて観察してみた。

 医学の心得はないが、とりあえず外傷はなさそうだし、見た目から過労じゃないかと思った美穂奈はしばらく2人を寝かせておくことにした。

 ラズには悪いが、小屋の中を漁らせてもらい、毛布と濡れたタオルでとりあえず応急処置。

 本当はベットに運びたいが、いくらなんでも気絶した男の人を運ぶ程の力はなかったので、心苦しいが床に放り出したままだった。

 けれど、先程一時的に目を覚ましてくれ、それぞれベットとソファーに移動してくれたので、少しホッとした。

 リングは水を飲む前にダウンしてしまったので、枕元に水差しを置き、美穂奈は改めて小屋の中を見渡した。

 2人が過労で倒れたのだとしたら、しばらく休ませて、食事をとればそれなりに元気になるだろうと思っているのだが。

 美穂奈は小屋の一角を見て、少しだけ眉尻を下げた。

「……料理はそれなりに出来るんだけど、いかんせんかまどを使った事がないのよね。」

 そう、先程は「生活スペースなんだ、へ~」程度で見ていたが、よくよく見ればこの小屋の中は美穂奈にとって違和感の固まりだった。

 まず、台所がかまどで、水は水道でなく、外の井戸からだったし、トイレとお風呂が見当たらない。

「電子機器が1つもないし。」

 食材の入った箱は、冷蔵庫でなく文字通りただの箱だった。

 ただ、魔法かなんなのか、コンセントも差していないのに、箱の中はひんやりとしており、食材が傷む心配はなさそうだった。

「もしかして、魔法があるから、科学がほとんど進歩していない?」

 可能性としてはありそうだが、ただこの小屋は都心部から少し離れた森の中にあるとの事なので、この小屋の中だけ時代に取り残されているという可能性も捨てきれない。

「……どっちにしても、困ったわ。」

 食事は作れず。

 医者を呼んでくる訳にもいかず。

 後はラズとリングが目覚めるのを待つしか出来ない。

 美穂奈は椅子に腰掛け、息を吐く。

 ふと、視界のすみに赤い本をとらえ、美穂奈は知らず難しい顔をする。

 あの時、何が起きたのか、美穂奈にはサッパリわからなかった。

 リングがラズの本にしたように、自分の魔力を注ぎ、攻撃された場合リングの魔法で相殺するはずだった。

 危ないからとラズが美穂奈を背にかばいながら、リングがそれを実行し、本がただの本なのか、ラズの本と対なのか、ついでに本のカラーを調べようと、そういう話だったのに。

 リングが魔力を注ぎ込んだ瞬間、ラズの背中に、たしかに緊張が走った。

 指で宙に何か描いていたのを見ると、ラズは魔法を使った?

 ラズの本に魔力を注ぎ込んだ時とは比べものにならない程の大きな鋭い音。

 目を開けたら、真っ赤な光が小屋全体を包んでいた。

 あれがあの本の攻撃だったのだろうか?

 でも、だとするとこの小屋の中に被害が全くないのが不思議だった。

 小屋の中は、どこかが木っ端微塵に吹き飛んでいたり、家具などがぐちゃぐちゃになったりなどの荒れた様子は全くなかった。

 ただ、ラズとリングだけが、倒れてしまったのだ。

 人体にだけ影響があるのならば、美穂奈がこうしてピンピンしている事の説明もつかない。

「……直前にラズが魔法を使って守ってくれた?」

 赤い光は、ラズと美穂奈を避ける様に小屋の中を包んでいた。

 美穂奈が光に触れ様と手を伸ばした時に、ラズは駄目だと美穂奈を叱っていた。

「……なら私が無事なのはわかるけど、同じ条件のはずのラズが倒れるのはおかしいわよね?」

 やはり、わからない。

 この世界で生きていくなら、魔法をもっと深く勉強する必要があると、美穂奈は改めて思った。

「さてと。」

 美穂奈は椅子から立ち上がり、背伸びする。

 本当は食事を取ってもらいたかったんだけど、美穂奈が作れないとしたら諦めるしかないだろう。

 途中で目を覚ました時用にラズの枕元にも水を置いてと。

 2人の様子を見る限り、多分今日はもう説明を求めるのは無理だろう。

 明日の朝、2人の様子を見てから考えよう。

 美穂奈は、小屋を漁った時に見つけた予備の毛布を引っ張り出す。

 正確な時間はわからないが、外は日が落ち暗くなってきている。

 美穂奈も今日一日色々な事があり過ぎて疲れてしまったので、少し早いかもしれないが眠る事にしたのだ。

 ただ、どこで寝るかだ。

 ベットにはリングがいるし、ソファーにはラズ。

 他に、ベットのかわりになりそうな家具はない。

 まぁ、それ自体は別に良い。

 来た時同様、体が痛くなるかもしれないが床で寝ても良いのだし。

 だが問題は、寝ている間に国からの使者が来ないとも限らない事だ。

 もし、最悪な状況に出くわした場合、ラズとリングはこの状態だし、きっと美穂奈一人では誤魔化せない。

 万が一、どちらかの意識が戻ったとしても、ラズは起き抜けすぐに言い訳がスラスラ出てこないだろうし、リングはきっと美穂奈の味方をしてくれないだろう。

 だとすると、安全策を取るしかなかった。

 幸い、先程水を汲みに外に出たが外は寒くもなければ暑くもない、ちょうどいい気温だった。

 リングも、今は冬ではないとから凍死の心配もないと言っていたのだ。

 夜になって急に氷点下になって冷え込む心配もなさそうだ。

「ラズ、怒るかしら?」

 呟いて、美穂奈は森の中で野宿する為に、小屋を出て行ったのだった。

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