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迷子の魔導書と王都の魔導師  作者: 藤本 天
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5P夜の王立学院図書館の秘密

 

一応Rつかないと思いますが、お気に障ったら、すいません。

今回も説明多いです。

ふわっと軽い浮遊感ののち、ユーリは暗い廊下の真ん中に立っていた。


角灯(ランタン)のぼんやりした明りを頼りにそっと目の前の扉を開く。


暗い部屋は古い紙とほこりのにおいがツンっと鼻をさし、本棚が等間隔に整然と並んでいる。

ここも図書館の図書を保管する部屋の一つであるようだが、他の本を保管するような部屋とは空気が違う。

夜という夜の闇が蓄積し、濃縮して固まったかのような空気がここにはあふれている。

一息吸うだけで体の奥がずっしりと重くなるような空気の中、ユーリは本棚の間を縫うように歩いていく。

ユーリが通り過ぎると小さな囁き声のようなものがふわりと巻き上がったのは気のせいだろうか?

角灯を頼りに歩くユーリの影が本棚に当たって化け物のように広がり、角灯のぼんやりした明りに照らされた本の背表紙の題名がおぼろに浮かび上がる。


『闇との対話』、『血と魂の代価』、『黒の誓言』、『禁断の賢者』


立派な革の背表紙に金字で書かれているのは実におどろおどろしい題名ばかり。


それも仕方がないこととユーリは知っている。


ここは、魔導書を保管し、管理するための部屋であり、ここにある本は一冊残らず魔導書だからだ。

セフィールド学術院に魔導科があるせいかもしれないし、他にも理由があるかもしれないが、とにかくここは魔導書が他の図書館に比べて多い。


魔導書は魔導師が作った魔導の研究書。


魔導は魔力という力を導くモノ。


この世界にはどんな小さなものでも血脈のように未知なる力の流れというものがあり、それが世界と密接につながって世界を作っているらしい。


それを理解し、作り出し、最終的には世界の真理を解き明かし、証明するのを目指すのが『魔導師』というものらしい。


だが、ユーリは初等科の魔導の授業で平均点がぎりぎりとれるかとれないかの点数で卒業したため、魔導についての見解と理解はとっくの昔に匙を投げ捨てている。



そんなわけであまり魔導に詳しくないユーリだが、ここにある魔導書が一般に公開されている魔導書とは格が違うことは分かっている。

ここにある魔導書はひと束いくらでそこら辺にいるような魔導師が作った魔導書ではない。


歴代最高と称された魔導師たちが魔導とは何か、世界の真理は何なのか、生涯にわたって生命いのちをかけて研究を続け、己の魔導師としての全てをかけて作り上げた、魔導師の魂の結晶といっていい魔導書がここにある。


ユーリは部屋の一番奥にあるタペストリーを無造作に引っぺがし、その奥の暖炉のレンガをひとつはずして小さな鍵を取り出すと、暖炉の奥にある花のような紋章に鍵を突き刺して回す。


「さて、みんな。久しぶり」


カチンッとかすかな音が響くと同時に暖炉に薄桃色の炎がふわりと燃え上がる。

それと同時に部屋が明るくなり、部屋の全容が明らかになる。

部屋は落ち着いた色合いの絨毯が敷き詰められ、木目が美しい飴色の本棚や読書用の机が整然と並び、どこかのお城の中の書斎のようなデザインだ。

そんな、落ち着いた空間で。


<ええっー、マジで~!!>


<ねぇ、フローレスってキルレっていう男と付き合ってなかったっけ!?>


<フローレスがロナウドに乗り換えるまでどんなドロッドロの展開が!?>


わいわいがやがやと休み時間の学校の教室のような騒がしさが部屋中に響く。

しかし、その部屋にはユーリ以外に誰もいない。


「あの~。みなさん。お久しぶりです~」


昼ドラ風な話題を初っ端から聞いてしまったユーリは若干顔をひきつらせた。

何が悲しくて良い子は眠るお時間に一般図書階の司書と学院の事務員と教師の三角関係を知らにゃならんのだ。


<おう、ユーリ。久しぶり!!>


<あ、ユーリだ>


<お~。相っ変わらず貧相な体してんな~。幼児?今年16には見えねぇぞ>


「うるっさい!!」


気さくな声とセクハラ発言は本棚に納められた本、魔導書から聞こえた。


<ユーリ、何か変わった話聞かなかった?>


<新聞!!新聞見せろ!!>


<あ、お帰り~。『月夜の聖草』、『黒の子羊』>


ユーリが鞄から修繕が終わった魔導書を出し、本棚に戻す。


<はぁ、やっと帰ってこれた~>


<みなさん。お久しぶりです>



四方八方から聞こえる声の元はまぎれもなく魔導書だ。

ここにある魔導書は歴代最高の魔導師が(以下略)作り上げたものなので、作られた当初から強い魔力を帯び、また高名な魔導師が作ったものだったため長い間大事にされていた。

長い年月を生きた猫の尾っぽが二股に分かれて化け猫になるように、長い年月を経た魔導書は自我を得た。


けれど、どれだけ高尚な自我を得ようとも、魔力を持とうとも、所詮本は本。


足が生えて動き回れるでもなく、うっかりしゃべった途端、燃やされたり壊された魔導書もある。

それにここにある魔導書はここに来るまでの間、それはそれは大事にされていたが、暗い物置や隠し部屋に封印されるという大事にされ方だったため、それはそれは退屈な日々を送っていたらしい。

寄贈された先に似た者同士の魔導書(お仲間)がいれば身の上話をしたくなるのが人情(本情?)らしい。

最初はそうして身の上話をしあっていたが、それにもだんだん飽きてきて、何代か前の王立学院図書館の館長に退屈しのぎに何かしろと言ってきた。


当時の館長はとても困ったらしい。




『で、苦肉の策として魔導書のご機嫌うかがいを歴代の館長やあたしみたいに最上階まで辿り着けた人がやっていたんですか?』


ユーリは困ったように笑うエリアーゼを見上げた。


『ええ、当時の館長はそれはそれは困って、歌を歌ったり、踊ったりしたそうです。………自我が目覚めたからといって魔導書を片っ端から燃やすわけにはいきません。ですが、退屈しのぎにうっかり魔導書達に己に記された魔導を使われては困ります』


それを防止するのがユーリの役目であり、もとは館長であるエリアーゼがしていたことらしい。


ユーリが王立学院図書館の最上階に住む条件としてエリアーゼが出したのは一週間に最低3回、ここ『禁制魔導書』階の魔導書のご機嫌うかがいに行くことだった。


『ここにある魔導書は魔導師たちの命の結晶ともいえる宝ですから、大事にしてあげてくださいねぇ』


そう、ここにある魔導書は歴代最高の魔導師たちが(以下略)作った魔導書が集められている。

はず…………なのだが………。


<ねぇねぇ、『月夜の聖草』あなた、この前リドル教授のところに行ってきたんでしょう?>


<はい、行きましたよ>


<ええっ、あの教授って生徒に手を出してるんでしょ?どうだったの!?>


<ええ、ちょうど研究室で学生服を着た生徒と(自主規制)を(自主規制)―>


「ちょっとそこ!!いかがわしい話止めてくんない!?際どいどころか、18禁ワード使いまくるの止めてくんない!?」


放送禁止用語満載の話が花を開いていれば、


<げっ、ちょー嫌ジャン!!ロードン助教授んこと行きたくねぇ~>


<でしょう!?三日前に置かれたサンドイッチの隣に置かれた時にはもう、気が遠くなりましたよ>


<つか、前の日履いた下着をまた着る奴なんているんだ~>


<貸し出しされたくない魔導師№1のサギタリウスに続く暴挙じゃな>


勝手に利用者のランキングがされていたり、


<うわぁ~、人気歌姫のエリザベスがピアノ奏者とデキ婚だって!!>


<マジっ!?オレらの癒しが~>


<バッカ。歌姫なんか男喰って利用してなんぼよ。喰う側が喰われたっていうバカな話でしょうが>


<そうじゃぞ。結婚は人生の墓場だ。ワシを作った魔導師もなぁ>


本棚の真ん中に置いた新聞が経済欄をぶっ飛ばして芸能欄が開いて、周りの魔導書が喰いついていたり、

バカな冗談を言い合ったり、



 ………高名な魔導師が見たら、泣き崩れそうな会話が延々と続いている。



<で?でっ!? リドル教授に(自主規制)された生徒、どうなったの?>


(げ、まだ続いてるし。やめてくんないかなぁ。もう、やめてくんない?リドル教授の恋人がジョンって名前だとか知りたくなかったから。ジョンって名前の生徒の前で不審な行動とりそうにな……)


ユーリはぎょっと目を見開く。


<せつなげな声でエリックってそのジョンが言った途端、また火が付いてみたいで、(自主規制!!)>


「BLかよっ!?禁断に禁断重ねてるじゃん!!何!?その小説みたいな話!?作ってんじゃないの!?」


<え~、『今週のゲゲッ☆(怒)貸し出しされたくない魔導師一位、ゴミ山研究室の主ロードン助教授~>


「女魔導師!?女魔導師なの!?」


<うっわ~、恐妻って怖ぇぇのなぁ>


<うんうん、しかしの、主はその恐妻に尻を蹴り飛ばされながら大魔導書と呼ばれたワシを完成させてのう~>


「えっ!?あんたが作られた理由、恐妻?恐妻の命令であんたが作られたの!?てゆーか、あんたたち人気歌手のデキ婚の話してたはずだよね!?それがなんで魔導師たちの家庭環境暴露してんの!?……てゆーか、そこ!!あんた作った魔導師の痛い趣味とか知りたくないから!!幼女趣味ロリコンが魔導書作ったなんて知りたくなかったから!!」


<なに~!?幼女趣味ロリコン馬鹿にすんなよ!?あれは、あれだ!!母性本能の表れだったんだ!!ややこしい家庭で育ったから、無垢でか~いらし~もんに無性に弱かったんだ!!>


「しかも、女かい!!女魔導師だったのかい!!」


高名な魔導師でもない一学生のユーリでさえ泣きそうな会話が繰り広げられている。

本当にこいつらが貴重な魔導書なのか問い詰めたくなる。


(いや、もう、マジでやめて。ツッコミどころ多すぎて疲れたから、疲れるから)


ユーリは諦めて暖炉の前のいすに座った。


「ここでさえ、こんなんなんだから、王都の魔導図書館ってどうなってるんだろう」


ユーリは学校の課題を解きながらポロリと呟いた。


<王都?>


<王都がどうした>


耳聡い魔導書達が一斉にユーリに注目する。

さっきまで騒がしかった部屋が鎮まったことにユーリは気づいていなかった。


「ん~、王都から迷子になった魔導書を探しに魔どっ……!?」


気づいた時には時に遅し。


さっきは会話に加わっていなかった魔導書まで興味深々にユーリの話に聞き耳を立てていた。


<ほほ~、魔導書が迷子!?迷子とな!?>


どこかの魔導書が口を開いた途端、洪水のように魔導書達が喋りまくる。


「いや、あの、その、ね?」


その勢いに圧倒されたユーリは帰ろうと腰を上げる。


<あ~・や~・し~・いいいぃ~>


<さっさと吐いたほうが楽になるぜ?ユーリ>


<ワシらを謀っても良いことはないぞぅ>


「いや、その、別に何もしなくていいってエリアーゼ館長も言ってるし、っていうか、今日はもう帰るね?朝日が昇ったら火は勝手に消えるし、じゃあ、そう言うことで」


<くっ、くっくっ。逃げようなどと片腹痛いわ!!みんな、やっちまえ!!>


その掛け声とともに魔導書が本棚の中でガタゴトと動き回った。

すると、本棚の隅、上、隙間からほこりが吐きだされて空を舞った。

そのほこりはもちろん、ユーリに降りかかり、


「げほっ、ごほっ。やめ、やめて!!わかった!!話す!!話すから!!もうやめ……っくしゅん!!」

部屋にユーリのくしゃみと悲鳴が響いた。


<では、話してもらおうか>


ようやくくしゃみの発作が治まったユーリは鷹揚に言い放った魔導書を本気で燃やしたくなった。


重複しているところも多いですが、それだけこの世界では魔導書ってすごいものなんです。

恋バナ好きでも、ツッコミどころ満載でも。


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