表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷子の魔導書と王都の魔導師  作者: 藤本 天
19/29

18Pフォローにならない

久しぶりの投稿です。

微妙にネタづまり気味……。

「と、いうわけで、魔導書は元に戻って、魔導師は王都に犯人をしばき倒しに行きました」


仕事と学校がお休みのユーリは『禁制魔導書』階にいた。

本当は今日もアヴィリスが探していた魔導書の表紙を探す予定だった。

けれど、今日、魔導書がこうして元に戻ったため、急遽お休みになったのだ。


<それで?何でお前はそんなにむくれてるんだ?>


「むくれたくもなるってのよ!!あの陰険魔導師!!」


ユーリが不満をぶちまけると、魔導書達からおざなりな相槌が返って来た。



<ふむ、なるほど。魔導書を元に戻したせいでお前が狙われると>


<と、言うことは、魔導書をバラバラにした無礼者もここに来る可能性があるっていうことか?>


「さぁ?魔導師がしばき倒しに行ったから、来ないんじゃない?」


<え~>


ユーリのそっけない返答に魔導書達が不満げな声を上げる。


<四大元素の魔導で生き地獄を味わってもらおうと思ってたのに~>


<ぬるいなぁ。七大惑星の魔導でぼこぼこにするのが先だろう?>


<七大惑星なんて面倒なことをせずに七大地獄にさっさと落としてしまえばよいのでは?>


<いやいや、属性魔導の闇属性の魔導で生と死の混沌を味わうのがよかろう。心身ともに破滅する良い魔導だぞ?>


魔導に詳しくないユーリにはさっぱりわからないが、話の雰囲気から危険を察知する。

魔導書達は嬉々として、魔導書をバラバラにした犯人を懲らしめる方法を話し合っていたのだ。


「あんたら!!」

魔導書達は久しぶりに暴れられる機会だと、張り切っていたらしい。


(てゆーか、こいつらもあたしの命は二の次か!!)

思いっきりこの状況を楽しんでいる魔導書達をぐるりと睨みつける。

一冊くらい本気で燃やしてやろうかと、ユーリが真剣に考えていると、


<ん?>


<おや?>


<ほおう>


魔導書達は何やら感嘆の息をついて鎮まり始めた。


「え?なに?どうしたの?」


<ユーリよ。この『始まりの叡智』という魔導書は随分と良い魔導書だぞ>


「え?」

ユーリが思わず暖炉のほうに目を向ける。

隠された魔導書をそっといつも使っているテーブルの上に置く。


<言葉こそ話せないが、ある程度の自我がある。『一級危険魔導書』クラスの魔力がある>


<あと、数十年もすれば我らと同じく『禁制魔導書』になれるだろう>


「すごい!!あの陰険魔導師、何でそんなにすごい魔導書を持ってるの!?」


<うるさい。ユーリ、お前は黙っておれ!!>


<いま、『始まりの叡智』殿の話を聞いているんだ>


「す、すいません」

魔導書達に一喝されたユーリはしゅんっと首をすくめる。


(あれ?何であたしが怒られてるの?)

疑問に思わないでもなかったが、ツッコミを入れるのは控えた。

いま、これ以上魔導書達の機嫌を損ねたくない。



<わたくし、『始まりの叡智』の銘をもつ、わたくしは、ジオラルド・フォン=アルス・エックハルツさまより作られました>

『始まりの叡智』は自我はあっても言葉を作ることが下手らしく、どこか拙い様子で魔導書達に話しかけた。


<アヴィリス、という魔導師は、ジオラルドさまのところに、ある日、どこからか来た子で、はじめて見た時は実に小さく、ジオラルドさまが亡くなるまえに、あのこのそばにいるようにと手渡されて以来、あの子の側にいました>


<なんだ。師からの預かりものか>


<ああ、いえ、ジオラルドさまはアヴィリスの師ではなく、養父(ちち)なのです。きれいな身なりの男が、あるひ、あの子と希少な魔導薬を交換したんです>


<ふぅむ。人間とやらはよくわからんな。同族をワインのように売りさばくことに抵抗が無いとはな>


<売られたっていうんじゃあ、ユーリがきゃんきゃん吼えるように性格もねじれるさね>


<はい。売られて来た時は陰気でかわいらしくない子でした。けれど、性格がねじれ曲ったのは、ジオラルド様が亡くなって、学校で魔導を学び始めてからです>

と、『始まりの叡智』が締めくくる。


<なるほど>


魔導書達は同意したようにうなずく。


<魔導師同士の蹴落とし合いはえげつないからな>


<お前さんもそれに巻き込まれてバラバラにされるとは災難だったな>


<はい。あの子しか触れられる事のない日々に、確かに飽いてはいましたが、まさかこわされるなんて思ってもいなくって>


その時のことを思い出したのか、『始まりの叡智』がコトコトと震える。

魔導書達は深く『始まりの叡智』に同情した。

この『始まりの叡智』は主人の死後、主人の養い子を遠く近くで見守り続けて来たのだ。

そんな忠義な魔導書をバラバラにした奴を許せるか?

いいや。


<ううむ。許せん>


<ユーリはガタガタ五月蠅いが、これは黙って見過ごせるもんか!!>


<魔導師より早く犯人を見つけ出してしばき倒してやる!!>


意気込んだ魔導書達は『始まりの叡智』に声をかける。


<で?お前をバラバラにした不届き者はどんな奴だ?>


<ええと。アヴィリスの弟弟子の男で、親のコネで宮廷に入ったともっぱらの噂の魔導師で、変幻魔導がうまい魔導師だったようです。その魔導で見目のいい魔導師に化けて、ここに送られたのです>


<何?汝はここでバラバラにされたというのか!?>


<はい。ここにはわたくしと同じようにどこか壊れた魔導書が二つほど置いてある部屋に連れて行かれ、そこでバラバラにされたのです>


<修繕室か>


<本を治す場所で魔導書を壊すとは!!>

魔導書達は苦虫を噛み潰したように呻いた。


魔導書専門の修繕室には厳重に魔力暴走予防の魔導が張り巡らされている。

そして、魔導書を治すことが出来る道具は、逆に魔導書を壊すこともできる道具でもあるのだ。

何度か修繕室のお世話になったことのある魔導書達は一様に怒りをあらわにする。

癒しの場で破壊が行われたことが許せない。


<しかし、送られた、ということは郵便か?>


<はい。ここに送られてすぐ、貴族の娘に運ばれて、修繕室で魔導師にバラバラにされました>


<あんたをここで受け取った女っていうのはどんな女だった?>


<いえ、わたくしの魔力封じの布やらなんやらで覆われていて、顔は見ていないのですが、一度アヴィリスに詰め寄って来た貴族の娘から漂う空気と同じものを感じましたので、貴族の娘ではないかと>


(貴族の娘が纏う空気?)


魔導書達は声をひそめているつもりらしいが、ユーリ以外人のいない『禁制魔導書』階に魔導書達の声はよく響いた。

ユーリは彼らの言葉に耳を傾けながら、そうっとノートを開いて、メモをとる。

残念ながら『始まりの叡智』の声は聞こえないが、魔導書達が『始まりの叡智』の言葉をある程度声に出して反復するので大体の話はわかった。


アヴィリスが魔導師を探し出してとっちめれば、こっちは万々歳だが、自分の命が危ない以上、他人任せにしっぱなしというのも気味が悪い。


(魔導師はアヴィリスに任せるとして、問題は司書のほうだよね……)


まず、アヴィリスの弟弟子がアヴィリスの魔導書を盗んで、王立学院図書館に送られ、ここの修繕室で破壊された。

破壊に手を貸したのはココで働く貴族の娘。


(しかも、司書だよね)

一般の人は修繕室に入ることは出来ないが、司書が修繕室に入るのは難しい事じゃない。

司書なら修繕室使用の許可も簡単に取れるし、いちいちチェックしたりしないから、他の人をこっそり招き入れることも出来るかもしれない。


魔導書を壊したあと、弟弟子は魔導書のページをいくつか持ち去った。


(自分の魔導の研究に使えそうなページを持ち去ったってとこかな?)


魔導書のページを一般図書階にばら撒き、表紙は封印して他の魔導書の代わりにして出した。


(ばら撒いたのは大体三ヶ月くらい前?)


あの魔導書の気配にここの魔導書達が気づいたのは三ヶ月前、魔力に敏感な『禁制魔導書』達だ間違いはないだろう。

ユーリは首を傾げながら、疑問点を書きあげていく。


(まず、どうやってエセ魔導書を『一級魔導書』階に置いたんだろう?)


魔導書が入荷したら、入荷記録に記され、魔力測定をされ、魔力量に応じて特別な“紋”が押される。

この“紋”は王立学院図書館の図書であるという証明にもなるので必須だ。

しかし、今朝の暴走事件の後に調べてみると、『ルキアルレスの占星魔導』という魔導書は“紋”は押されていたが、入荷記録に載っていなかったのだ。


(魔導書の入荷記録と“紋”を押せるのは館長と副館長から信任された司書と館長と副館長本人だけ……)


信任された司書は全員男性で入荷記録にない魔導書に“紋”を押すような不精な事をしない。

彼らならば“紋”を押す前に『ルキアルレスの占星魔導』の不審に気づき、今回の『迷子の魔導書』事件はユーリを巻き込む前に終わっていただろう。


と、言うことは……。


・司書の協力者は貴族の女性で魔導書管理に関わる司書?


ユーリはノートに書いた文字をじっと見つめる。


(この条件にまるまる当てはまりそうな人は一人だけいるけど……)

ちらりとノートの隅に書いた文字が引っかかる。


・魔導書のページをばら撒いた司書は図書館の構造に詳しくない。


金髪碧眼巨乳美女にはこの一点が当てはまらない。


(じゃあ……)


・魔導書を運んだのは貴族の女性司書。魔導書の偽造に関わったのは別の司書?


(大体、魔導書のページが何で三ヶ月間も隠し続けることが出来たのか、わからないんだよね)


利用者の多い一般図書階にばら撒かれたページ。

人目が少ない場所に隠されていたが、いままで一枚も見つけられる事がなかったというのはちょっとおかしい。


・ページをばら撒いたのはつい最近?


(アヴィリスの弟弟子がアヴィリスの動きに気付いて魔導書のページをばら撒くように指示した?)


『禁制魔導書』たちの時間感覚が全く当てにならないのが痛手だ。

いつ頃ばら撒かれたのか知れば、ちょっとくらいヒントになるかもしれないのに……。


(う~ん……)

しかし、わからない事はわからないなりにでもノートに書き連ねていくとちょっとずつわかる事や繋がるところが見えてきた。


(とりあえず、近いうちに修繕室の利用申し込み記録とか郵送記録とか調べてみればいいか……)


<そこの体が貧しい娘も一応貴族だが……こいつは違うのか?>


「ちょっと待てい!!あんたら、あたしを疑うなんてどーゆー事!?」


ぎょっと顔を上げたユーリに魔導書達は事も無げに言い捨てる。


<捜査では公正かつ客観的な視点が必要だからな>


<協力していた身内が実は財産を狙う泥棒だった。何てことはよくある話だろう?>


「あんたら!!あたしがどんだけ苦労して魔導書を元に戻したか知ってるでしょうが!!」


本当に燃やしてやろうかと危険な思考に陥りかけたユーリを『始まりの叡智』の静かな声が鎮める。


<ああ、いえ。この娘は違います。わたしを運んだ娘ではありません>


<ほう?>


<何でこの娘が犯人じゃないとわかるんだ?>


どうやら、『始まりの叡智』が弁護してくれているらしい。

なあんだ、と若干つまらなそうな魔導書達に文句を言おうと口を開いた。

途端、何故か同情するような視線を感じた。


「な、何?」


<あのな、『始まりの叡智』がな。『わたしを運んだ娘はもっと胸元がやわらかく、纏う空気も華やかでした』だってさ>


(この魔導書、燃やしてもいいかな?)


魔導書の通訳を聞いたユーリは真剣に考え始めた。



お気に入り登録、ありがとうございます。

話も佳境に入ってきました!!

そろそろ最終局面に向けて頑張ります!!


最初は中編にしようと思っていましたが、やたらと長く……。

ネタが空から降ってくればいいのに……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ