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迷子の魔導書と王都の魔導師  作者: 藤本 天
15/29

14P魔導書達の噂

 


ルキアルレス著の魔導書批判に飽きた魔導書はまたアヴィリス魔導師が探す魔導書に注意が向いた。


<そういえば、魔導師は司書の中に犯人がいると考えているんだろう?>


問いかけられたユーリは不承不承うなずく。


その話を聞いた途端、魔導書たちは色めき立った。


<なんと!!図書を守る司書が魔導書をバラバラにする手助けをしただと!?>


<ゆるせん!!見つけ出して成敗してくれる!!>


轟々と嵐のような非難と怒りの声をユーリが必死で切り裂く。


「ちょっと!!暴力は反対だからね!!それに司書は、魔導書のページをばら撒くのを手伝った、共犯者だろうって話だよ」


<魔導師と協力?>


<一介の司書が、か?>


訝しげな様子で魔導書が黙る。


<司書の中には貴族出身の奴もいるからねえ、ちょいっと甘い言葉で誑かすくらい簡単さねえ>


<没落した司書の娘には王都で働く魔導師は、そりゃあ、立派に見えるだろうさ>


アヴィリスを案内しようとして迷子になった副館長や、アヴィリスが頼んだ本を探せずに迷子になった司書たちをあげつらっての言葉だろう。


ユーリは苦笑するしかない。


確かに、司書として働く人の中には貴族出身の人がいる。

礼儀作法を学び、ついでに書物への造詣を養うために来ている彼らは、仕事ぶりがいまいちよくない。

それどころか、問題を起こすこともあり、司書を監督する立場であるギズーノン司書を困らせている。

もちろん、ギズーノンのように一生懸命働く人もいるので一概に貴族出身者が悪いとは言えないのだが…、魔導書たちに反論も出来ないのは確かだ。


<魔導師様に一言褒めてもらおうと、やっきになる司書たちの面白かった事!!>


その一言を皮切りに、魔導書たちはこの二日間の司書たちの奮闘ぶりを面白おかしく話し始めた。


<フローレスがねぇ、普段慣れない専門階に入り込んで!!渡り廊下が動き始めた途端、死にそうな悲鳴をあげて!!>


<セイズなんか魔導階で本棚を引き出せずにレリーフに手を齧られて泣きべそをかいてたよ>


<貴族出身の男は根性が無いねえ>


<いやいや、庶民出の男も似たり寄ったりさ。ブレーイなんかレリーフを動かせたは良いが出てきた本棚に腰抜かして泡吹いてたよ>


<男はだらしないねえ、女はしたたかだよ?シーリンなんか、シーズが見つけた魔導書のページを何枚かちょろまかして魔導師に渡してたよ>


「げ」


ユーリは気の優しそうな男性司書とおっとりとした聖女のような女性司書の姿を思い出してうめく。

深窓の姫君と言ってもおかしくない可憐な美少女の悪行に凍りついた。


<うわあ、怖いのな。女って>


<いやいや、乳の谷間をチラ見せされただけででれでれして魔導書のページ預けるシーズも情けないさ>


(う、でも、女のあたしでも羨ましいくらいシーリンの胸元は立派……じゃない!!ない!!)


ぶんぶんと首を振って、ユーリは魔導書に言う。


「乳っていうのやめてくれない?」


ユーリにふと魔導書たちの視線が向く。


「な、何?」


一斉に向いた視線にユーリがたじろぐと、魔導書たちは一斉に溜息を吐いた。


<いや、ユーリ。……がんばれ>


何だか、一斉に視線を逸らされた気がする。


<一応まだ15でしょう?がんばればまだ大きくなりますよ>


「ちょ、何をがんばれと?」


何だか、こう、ムカッとするのは何故なのでせうね?


<いや、無理だろう?もう15であの寂しさじゃあ、希望は無いだろう>


<胸元のふくらみが幸せの源じゃないわ、ユーリ>


「………人を見て、何を言うと思ったら、人の胸元の話かい!?人の胸見て溜息吐いたのか、あんたらは!!」


思わず声を荒げると、気遣わしげ(?)に魔導書達が言う。


<何、胸元にふくらみが無くても、お前は司書としての腕はまあまあ良いから良いではないか>


<しかし、夢も希望も無いふくらみだな。お前の胸元は>


「うっさい!!」


最後の発言をした魔導書をユーリは思いっきり睨む。


「あんた達、これ以上あたしの胸に文句つけるんだったら、もう新聞持ってこないからね!?ラジオニュースもなし!!」


ギッと睨むと、さすがに魔導書たちも黙る。


<そうじゃ、女は胸じゃなくてし……>


「や、め、な、さ、い!!」


ユーリの眼光に危険を察知したのか、魔導書たちは白々しく話を変える。


<そ、そういえば、名誉挽回・汚名返上を狙ってた副館長はどうした?>


<一番だらしないのは副館長だよ>


<あいつは一般図書階でも迷子になりかけていたんだから>


<うわあ、あいつなんで副館長になれたんだ?>


<司書たちが言うには、もとは王都の小役人だったそうだが、政戦に敗れた、というより、他人の尻にくっついて甘い汁を吸おうとしていたのが、目論見が外れて王都で居場所がなくなったそうな>


それで、セフィールド学術院の理事の一人だった兄だか姉だかに泣きついて、この王立学院図書館の副館長になったらしい。



<しこたま賄賂でも贈ったんだろう>


<まったく、エリアーゼも使えない者をよくまぁ、囲い込むこと>


魔導書たちは憂いがちに溜息を吐く。


<何とやらと鋏は使いようって言うだろう?金しかない馬鹿な理事やら貴族やらを黙らせるのにあいつらを使ってるんだろうって、ロランが言ってたらしいぜ>


<まぁ、今回の件で副館長はどんどん窓際に追い立てられるだろうってさ>


<それでも居座るあたり、図太いねぇ>



(うわぁ)


ユーリは知らず顔をひきつらせる。

そんな学内裏事情知りたくなかった。


(あたしは一介の司書見習いで勤労女子学生なのに!!)



<まったく、ここの司書は実にだらしが無いな>


憤然とある魔導書が言う。


<よく仕事をサボるしねぇ>


<広い図書館というのも考え物だね。ここは隠れる場所が多いから、人目のつかない所でけしからん事をする奴らの多いこと!!>


<そうそう、一級魔導書たちに聞いたんだが、この前言ってたリドル教授が、あんまり使われてない自習室で男子生徒と(自主規制~……)>


「あの、リドル教授の話やめてくれない?あの教授、何しに学院に来てるの!?」


<あ、それならフローレスとキルレも逢引にここ使ってるよ>


「ここは火遊び(アバンチュール)の場所じゃないっつうの。人目について恥ずかしい思いするって考えないわけ?」

ぐったりと愚痴ったユーリに魔導書が爆弾発言をする。


<リドル教授が言ってたけど、見られるかもって言う危機感(スリル)と知識の宝庫でする背徳感が快……>


「変態教授の趣味なんか知ったこっちゃないよ!!そんなに危機感(スリル)が欲しけりゃ野犬にでも喧嘩売ってりゃいいじゃない!!」


<かてぇ事言ってやるなよ。あいつ魔導科の教授陣の中じゃあ微妙な立場にいるんだから、鬱憤は小出しに出さないと爆発するぞ?>


「小出しどころか、もう爆発してるじゃん。生徒に手を出したあたりで人生破滅してるでしょ」

溜息を吐いたユーリはリドル教授の話題で楽しむ魔導書たちから離れる。



下手にこれ以上、話を聞いていたくない。

ユーリはソファの上に寝転がるのをやめて暖炉の前の定位置に座る。


<あ、そうそう、ロジーとアントワがさぁ、一般図書階の辞書棚のところで逢引してたよ~>


<え?ロジーってエイリーと付き合ってなかったっけ?>


<それが、随分前に別れてたらしいぞ>


原因はロジーの心変わりらしい。

もともと、一般図書階の司書のロジーとはユーリはあまり関わりが無かったが、浮気性で仕事に不熱心で甘ったれな人らしいことは聞いていた。


何でもロジーは二股、三股はざらで随分女性と浮名を流し、そのたびエイリーと喧嘩になっていたらしいが、とうとうエイリーがロジーに三行半を叩きつけたらしい。


<その時、ロジーはディアンナって女と付き合ってたんだけど~、エイリーったらその女とロジーをめぐって取っ組み合いの喧嘩してたんだけど、その騒ぎを聞きつけたロジーの自称恋人たちがわんさか集まってきて、女四人で大決闘(バトル)。いやあ、ぜひとも見てみたかったねえ>


「あの~、悪い夢見そうなんだけど」


そんな司書同士のどろどろ恋愛劇、知りたくなど無かった。


(この中に普通のまともで平和な雑談をしてる魔導書はいないの!?)


表情がひきつったユーリをよそに、魔導書達は司書たちの恋愛事情に興味深々だ。


<しかし、別れた男と同じ職場とは居心地が悪いねぇ>


<ロジーはいずれ家督をついで当主になる貴族だろう?没落貴族のエイリーがそう簡単に手放すか?>


<いや、それがさあ、男がいるらしいんだよ。しかも、王都にいる金持ちの>


<何故わかるんだい?>


<エイリーが近頃、随分高価な香水やら化粧品を持ち歩いているらしい>


<なんでも、その香水は王都の王族御用達化粧品屋から買って貰ったものだそうだ>


<ミリアリアがセイラに悔しそうにこぼしてたからね。確かだよ>



(あいつらっ!!)


ユーリは自分が助けだした女司書三人を呪う。


「あの三人がしたヘマのせいで危ない橋を渡らされた挙句に、あたしは授業に出られなくなったのよ!!仕事をサボってだべっていたのが化粧品と男の話なわけ!?………っ!!」

くわっと噛みついたユーリに魔導書達は面白そうに囃し立てる。


<お~、おーこった、おーこった、ユーリがおーこった>


「怒らずにいらいでか!!あんにゃろう!!エリアーゼ館長にチクってやる!!ギズーノンさんに言いつけてやるううう!!」


やんややんやと騒ぐ魔導書と一緒に騒いでいる時点で、ユーリは立派に魔導書たちのお仲間だ。



そして、この大騒ぎがたまに外に聞こえることがあるらしく、


・誰もいないはずの図書館から真夜中に不気味な叫び声が聞こえる。


という怪談の原因になっていることをユーリは知らない。


お気を悪くされた方、いたら、すいません。

ユーリさん、魔導書たちに結構遠慮がないです。

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