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迷子の魔導書と王都の魔導師  作者: 藤本 天
12/29

11Pミッション・インポッシブル

次の日。


「それで?どこから探すんですか?」

「……」


朝、開館時間になると魔導師、アヴィリスは一番にやって来て、開館前準備を手伝っていたユーリを驚かせた。


とりあえず2人して図書館入り口の大ホールのソファで作戦会議。


だが、


「もしかして、無計画(ノープラン)?」


昨日と同じく無表情だが、若干目を逸らせ気味のアヴィリスを見て、恐る恐る聞く。

すると、アヴィリスはバツが悪そうに今度こそ目を逸らせた。

嫌な予感、大的中。

話をよく聞くと、アヴィリスは昨日の夜、魔導での探索術を使ってみたが、図書館内のどこにあるのか全く分からなかったらしい。


昨日の司書たちはこんな初歩的なことも魔導師に教えていなかったらしい。


「あの~。ここ、魔導が張り巡らされている分、魔導的なものにすごく敏感になるよう作られていて……」


ユーリは大雑把にこの図書館には魔導をうまく使えないよう細工がしてあること、魔導師に渡す図書カードには魔導師の魔力を制限する機能が付いていることを簡単に説明した。

アヴィリスは昨日とは打って変わって、無表情ながらもきちんと話を聞いてくれた。




「と、言うわけで、魔導師には窮屈な場所ですけど、ご了承ください」


司書見習いのときに叩きこまれたマニュアル通りの口調で魔導師に伝える。


「わかった」


うなずいてくれたはいいが、この後どうするか。

王立学院図書館の広大さは折り紙つきだ。

この中から闇雲に魔導書の1ページを探しまわっても時間ばかりかかるだけだ。

そうこうするうちに魔導書の1ページが市民の手に渡ったら、大惨事だ。


(ただでさえ、魔導書が一般図書階にあるって魔導書達が言ってるのに!!)


のんびりしている暇はない。

アヴィリスもそう思っているのか、顔を引き締めてユーリを見た。


「昨日の騒ぎが起こった部屋にあった魔導書のことなんだが」


「あ、それで思い出しました。はい。これ、落ちてましたよ」


ユーリが持っていた1ページをアヴィリスに渡す。


「一応司書たちにもあの後、気をつけて探すように伝達はしてあるんですけど、一体魔導書は何ページあるんですか?」


「2800枚」


「にっ!?」


2800枚。2000枚と800枚をこのやたらめったら広い、隠し部屋が多い王立学院図書館で見つけろと言うのか。


しかも、無計画(ノープラン)情報なし(ノーヒント)で!!



「あの、果てしなく無謀なこと言ってるって気づいています?」


「何日か、ここの来客用の宿泊施設で泊まり込む」


「この場合、休暇期限が切れても、王都に帰れないことを覚悟して下さいね」


つい冷たくなってしまった口調にアヴィリスはムッとしたようだが、口をつぐむ。


「君には迷惑をかける」


表情は硬いながらも、どうやら謝罪(?)してくれているようだ。

副館長のように自分に従うのが当然と思っているような傲慢な態度を、彼がとらなかったことに少し好感度アップだ。


「魔導書が昨日みたいに大暴れされるほうが困るんで、協力はしますよ」

そのかわり、とユーリは魔導師に笑いかける。

「王都で王立学院図書館のすごさ、言い広めてくださいね?」

アヴィリスはどこかニヒルに口角を上げてうなずく。

「そうしよう」



ちょうど空気が和んだところでアヴィリスは口調を改めた。


「ところで、昨日魔導の被害を受けた部屋なんだが」

「修繕室が、何か?」

「あの部屋は誰でも入れるものなのか?」

「いいえ?あそこに入れるのは司書のみです。一般の人は立ち入れません」

「魔導師でもか?」

「転移系の魔導を封じる細工があるんです。昨日動かしたタイルみたいに」


そう言うと、魔導師の表情が渋くなる。


気を悪くするかもしれないが、という前置きの後、アヴィリスは話し始めた。

「昨日、ロランという司書から聞いたところによると、今回修繕に回された本のほとんどが一般図書階の返却図書を保管する本棚にあったものらしい」


その話はユーリもロランから聞いた。



返却された本は基本的に借りた図書があった階に行って帰すのが基本だが、一階の中央カウンターには各図書階に通じるポストがあり、そこに本を入れると各階に本が届く仕組みになっている。



返却された本はその階で修繕が必要な本とそのまま書架に戻る本に分けられ、貸し出しがされることになっているのだ。

しかし、修繕に回す図書をより分ける仕事をする司書と本の保存状態を確認する司書まで仕事をおろそかにしたせいで、修繕しなければならない図書まで出回った。

その悪事は一週間ほどで他の司書によって明かされたのだが、一般図書階の司書たちは三日間通常業務に加えて修繕図書を探しまわるはめになった。



結果としてロランがうんざりするほどの修繕図書が山のように積み上がったのだ。



たまたま、授業の都合で仕事を休んでいたユーリはそのことを知らなかったのだが……。




「悪いが、俺は司書の中に魔導書をばら撒いた奴がいると、思っている」

「え」


嘘だ、と否定する声が口の中で消えた。

返却図書を保管する棚は、図書館関係者しか中に入れないバックヤードにある。

それに、返却と保管業務の司書がどれだけサボろうとも何かが挟まっていれば、さすがに気づく。

けれど、魔導書の1ページは修繕室でようやく見つかった。

つまり、それは。


「修繕のために保管していた図書の中に魔導書の1ページを紛れ込ませた?」

「大方、捨てられる本だと思っていたのではないか、というのがロラン司書の見解だ」

「司書の中には貴族出身の人もいますからね」

苦笑しながら、ユーリは溜息をつく。


壊れた本の中に入れておけば、そのまま捨てられるだろうと思っていたのだろう。


「だが、その反面、俺はばら撒かれたページは(フェイク)だと思っている」

「囮?」

怪訝そうに訊き返すと、魔導師はうなずく。


「表紙さえ見つかれば、魔導書を元に戻せる。もちろん、手元にある程度の魔導書のページは必要だが」

「そうなんですか?じゃあ、表紙を優先して探すべきですよね?」


訊き返すとアヴィリスはぐったりと溜息をついた。


「表紙の魔力をたどった先がここだったんだが……」


結局、探すものが多少変わっただけで結果は一緒らしい。

がっくりとうなだれたユーリはぼやく。


「何で魔導書のページをばら撒くのよ~。何の罪もない市民を危険にさらして良心は痛まないわけ~?」

「良心のある奴が人の魔導書を盗んでばら撒くかっ」

ムッと眉を寄せてアヴィリスは言い捨てる。

けれど、ふと、思案顔で宙を睨んだ。


「いや、表紙の魔力を弱らせるため、か?囮に気を取られて探しまわっていれば、完本じゃない魔導書の表紙はどんどん魔力が低下する。さすがに表紙の魔力が無くなってしまえば、魔導書を元に戻すことが難しくなる」


それこそ、とアヴィリスはどこか途方に暮れた顔で大ホールの天井を見上げる。


「本当に2800枚の魔導書を自力で探し回る事になるだろうな。この王立学院図書館で」


「家に帰れなくなるフラグ確定ですよ。王都の宮廷魔導師さん」


「お前は授業に出れずに留年するフラグ確定だな。司書見習いの女子学生」


お互い睨みあっていたが、ふと、ユーリが笑いだした。


「なんだ。そっちが素なんだ」

「は?」

「さっきから喋るごとに口調が砕けてきてるよ。魔導師さん」

ついでに表情も、とユーリは付け足す。

「お前も口調が崩壊してきているぞ、それに、アヴィリスでいい」


アヴィリスは言い捨てると仏頂面に戻った。


「戻したほうがいい?」

「いや、昨日の今日でいまさらだ。好きにしろ」

拗ねたようにそっぽを向いたアヴィリスを見て、ほっと息を吐く。


「あなた、口調が砕けたほうがいいよ。昨日のあなたはちょっと怖かった」

「それは、悪かったな」


本人を前にして堂々と『怖い』などというあたり、ユーリは結構肝が座っている。


「で、魔導書を完本にするのに必要な魔導書のページってあと何枚ですか?」


「いま、手元にあるのが15枚。最低でもあと100枚くらいはいるな」


事も無げに言ってのけた魔導師にユーリはがっくりと頭を下げる。

あと、100枚。このとんでもなく広大な図書館で、あと100枚。


2800枚よりマシだ。マシだと言い聞かせながら、ユーリは心を決める。

とにかく、一般図書階の魔導書のページだけでもどうにかしなければならない。

けれど、王都から来た宮廷魔導師のくせにアヴィリスは微妙に役に立たない。

しかし、無計画(ノープラン)無情報(ノーヒント)では魔導書のページは見つけられない。


(『禁制魔導書』階の魔導書達に助けてもらおう)





<で、結局、今日は魔導師と図書館巡りをしただけか>


「うん。でも、アヴィリスさん『図書館の細工をくぐり抜けられる魔導を見つける』って真剣に図書館まわってたよ」


<馬鹿じゃねぇか?>


ユーリは今夜も『禁制魔導書』階にいた。

魔導書達は今夜もさわさわとおしゃべりをしながらユーリを出迎えた。


<ところで、ユーリその箱は何だ?>


今日、ユーリが持ってきたのはストレス発散のためのお茶とお菓子(ティー・セット)や学術院のレポートでもなく、白や茶色の紙で出来た箱。


この王立学院図書館で本を整理するのに使う本立て(ブックエンド)に似ている気がする。


「みんな。力を貸してほしいの」


ユーリは魔導書達を見まわしながら言う。


「この王立学院図書館のどこに魔導書のページがあるのか、わかるのはもうあなたたちだけ。この図書館を守るために、この箱の中に入ってほしいの」


ユーリが考え付いたのは、『禁制魔導書』達をブックエンドのふりをさせ、一般図書階、専門階、魔導書階にばら撒くこと。


そうすれば、この『禁制魔導書』階の結界で阻まれてあやふやな彼らの魔力探知能力もより確実になる。


もちろん、リスクは高い。


魔導書達が真面目に探してくれるかも危ういし、その上、彼らの魔力の高さも問題といえば問題だ。

うっかり外装が剥がれて『禁制魔導書』とバレてしまえば持ち逃げされる危険もある。

幸い、明日1日乗りきれば、明後日は休館日。


(あとは、魔導書達が乗り気になってくれれば………!!)



<外に、出るのか……!!>


魔導書達は一斉に浮足立った。


「でも、外に出れるのは30冊だけ。しかも、この中に入れる大きさで、魔力はもちろん最低限に抑えなきゃダメ」


ユーリがそう付け加えると、非難と歓声がわき上がった。


<なんじゃ、つまらん。ワシは無理じゃな>


<あ、おれはいけるぞ>


<わたしも、ぎりぎり行けるかしら?>


厳選に次ぐ厳選と公正なるくじ引きの結果、栄えある30冊が決まり、偽装が施された。


「いい?みんな。ちゃんと魔導書のページを探してあげてね?」


<おう、任せとけ!!>


<土産話、してくれよ~>


ユーリは30冊の『禁制魔導書』と共に夜の図書館を駆け回って、魔導書捕獲網を仕掛ける。


さぁ、ミッション・スタートだ!!



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