安心してください、婚約破棄しますので!
「私がクロード様と、ですか?」
――――ええっ?
王太子殿下と偽装婚約ってどういうことなの!?
「うん。明日、イライザにそういう話が来るけど、兄上はイライザには偽装だって知られたくないらしいんだ」
第二王子であるリュカ様に誘われてガゼボでお茶をしていたら、そんなことを言われました。
どうやら、クロード様には心を寄せるご令嬢がいるけれど、茨の道なので、時間稼ぎに私と偽装婚約をすることにしたのだとか。
お相手はどなたなのでしょう?
クロード様とリュカ様とは幼いころからずっと一緒にいて、隠し事なんて何もないと思っていたのに、まさかこんな特大の秘密があろうとは……。
「どうしてクロード様は私に教えて下さらないのかしら?」
「兄上って秘密主義じゃない? 僕もやっと聞き出したくらいだからさ」
ずっと温めて、誰にも邪魔されないようにしていたんだから、僕たちも知らない振りをしててあげようよ、とリュカ様に言われ納得するしかありませんでした。
お二人との出逢いは三歳のとき。
毎年初夏に、国王陛下が近しい使用人たちの家族を招いて、労いも含めたパーティーを催されます。
近衛騎士であるお父様に連れられて初めて参加したとき、同じような参加者の子たちと隠れんぼをして遊んでいたら、完全に迷子になってしまいました。
ふと気付いたときには周りには誰もおらず、騒がしかったはずのパーティー会場の音は遥か遠く。一人きりになったことが急に怖くなり、古びた小さなガゼボのベンチで零れそうになった涙を拭っていたときでした。
「そこで何をしているんだ?」
太陽を反射する金色のサラサラの髪と、吸い込まれそうな夜空のような瞳の凛とした男の子が、眉間に皺を寄せて聞いてきました。
人がいたことへの安堵感から、涙腺は決壊。男の子に飛び付き泣きじゃくり「ぎゅってして」とか「ずっといっしょにいて」とかわがまま放題をしたという、恥ずかしい記憶……は、横に置くとして。
そのときの男の子が当時七歳だったクロード様。
クロード様に連れられて庭園に戻ったときに、数ヵ月前に産まれたばかりのリュカ様ともお会いしました。
それから、何かあるたびに、私は王城に連れて行ってもらい、クロード様に甘えたり、リュカ様のお世話――と言っても、ままごとのようなものですが、三人で過ごしていました。
十九歳になった今は、あの頃のように気が向いたら遊びに行くなどは出来ませんが、パーティーなどがあると、やはり三人で過ごすことが多く、それはこれからもずっと続いていくものだと思っていたのです。
――――好きな人、かぁ。
昨日、リュカ様に聞いていた通り、両陛下から王室のサロンに呼び出されました。
両陛下とクロード様、両親と私という顔ぶれ。
チラリと見たクロード様の眉間には、いつものように皺が刻まれていました。
「イライザ、連日呼び出して済まないね。昨日はリュカとお茶をしていたんだろう?」
国王陛下がそう言った瞬間、クロード様の眉間に大峡谷が生まれた気がしましたが、いつでも皺が寄っているので気のせいかも?
「はい。いつものようにお喋りして、楽しく過ごさせていただきました」
「あの子はイライザを慕っているからねぇ。淋しくなると思ったんだろうねぇ」
「淋しく、ですか?」
「うん。呼び出した本題なんだがね――――」
もう十九歳になったことだし、クロード様と婚約しないかといった内容でした。
この国では十九歳で婚約し、二十歳で結婚というのが通例で、王族の方々も十九になるころには婚約者を決めるそうです。
近隣国家の王女殿下など婚約候補はいたものの、クロード様が頑として首を縦に振らないので、ここ数年ずっと困り果てていたとのこと。
「ですから、今はまだ王太子としての公務を優先したいと、何度――」
「って感じでね、もう二十三にもなるのに、この唐変木具合なんだよ」
そこでニコッと笑みを深めた国王陛下に「イライザなら、クロードが公務に熱中してても怒らないだろう?」と聞かれました。
王太子殿下が国のためを思ってされていることに、腹を立てる人などいるのでしょうか?
「お休みはしっかりとっていただきたいなと案じてはいますが、クロード様はご自身でしっかり管理されていますので、私が口出しすることではないとは思っています」
「うんうん」
私の返事を聞いて、何やら満足そうな様子の国王陛下を、明らかに不機嫌そうな眼差しで睨みつけるクロード様。
ちょっと怖いです。
「だからね、イライザがクロードのお嫁さんになってくれたら、全て解決するんだよね。この話、受けてくれるかな?」
両陛下と両親の期待に満ちあふれたキラキラ笑顔と、眉間に大峡谷を刻んだクロード様との温度差で風邪を引いてしまいそうです。
昨日リュカ様に聞いた通り、クロード様はこの婚約には反対なものの、両陛下を説得出来なかったのでしょう。
そして優しいクロード様ですから、この婚約は想いを寄せるご相手への裏切り行為、妹のような立場の私に対しては都合よく使ってしまうことへの後ろめたさを感じられているのでしょう。
両陛下や両親を騙すのは心苦しいですが、大切なクロード様のために、覚悟を決めねばなりません。
安心してくださいね、クロード様。時が来たら婚約破棄を受け入れますので!
そんな気持ちを乗せてクロード様に笑顔を向けると、なぜか怪訝な顔を返されてしまいました。
結婚式は、私の誕生日が来たら直ぐにという話が出ました。
――――えっ、半年後!? 時間稼ぎしないと!
妃教育は結婚後でもいいという両陛下に、それでは不安だし、伯爵位では王族に嫁ぐには低すぎるなど、他のご令嬢たちからのやっかみもあるだろうから、婚約発表も結婚も妃教育を終わらせてからがいいと懇願しました。
両陛下はそれもそうかと納得してくださいました。
婚約証書にサインさえしておけば、発表も結婚式も少し遅れたところで問題はないだろうといった空気に。
引き延ばし成功しました! きっとクロード様も喜んでいるはず……と思い、チラリと視線を向けて様子を窺ったのですが、クロード様はなぜか更に不機嫌そうな表情。
引き延ばし作戦に協力しているのに、なぜでしょうか? でもまあ、いつも仏頂面だし気のせいかも?
サロンでの話し合いが終わり、両親と帰ろうとしていたところ、馬車に乗り込む前にクロード様に呼び止められました。
「イライザ、少し話がしたい。帰りは送るから――――」
「引き伸ばしの……」
あ。そういえば、クロード様は想い人がいることを私に知られたくないのだと、リュカ様が言っていましたね。
引き伸ばしに協力するとかも、お伝えしたら駄目なのですよね?
「……引き伸ばし?」
「あっ、はい。私のわがままで結婚を引き伸ばして申し訳ございません」
「いや、それはいいが」
もしや、こうやって二人で話しているのも駄目なのでは!? 想い人の方に勘違いされてしまいますよね!?
「それでは、失礼いたしますね」
「あっ、おい――」
ササッとカーテシーをして、急いで馬車に乗り込みました。
両親に話はもう終わったのかと聞かれたので、大丈夫だと伝えて馬車を出してもらいました。
内々で婚約証書にサインを終わらせた翌日から、自宅と王城での妃教育が始まりました。
座学などは基本的に自宅で、王城内の建物や設備を使ったほうがいいときは王城で行いました。
座学は淑女としての教育である程度は学んでいたのですが、それを更に深く学んだり、周辺国家との関係性なども加わり頭がパンクしそうです。
王城の図書館では、持ち出し禁止の自国の歴史書や、周辺国家の歴史書など、更にディープな知識を詰め込みました。
「お疲れさま。はい、イライザの大好きなゴロゴロ果肉入りのアイスピーチティーだよ」
「わぁ! リュカ様ありがとうございます」
王城での教育後は、リュカ様とお茶をしながら作戦会議。
次に来るときのクロード様の予定を把握し、なるべく鉢合わせしないよう移動経路の計画です。
想い人の方に勘違いさせてしまっては、申し訳ないですからね。
「来週はいいのですが、その翌週からはクロード様とのダンスレッスンが始まってしまいます……どうしましょう?」
「うーん、流石に断れないもんねぇ。僕からそれとなく、イライザは異性に触れられるのが怖いとか、兄上が長時間触れなくても済むと思えるようなことを話しておくよ」
「流石、聡明なリュカ様です! もう十六歳なのですよねぇ。時が過ぎるのは早いですね」
「……まだ、十六歳だよ。あーぁ、僕も早く大人になりたいなぁ」
長く伸ばした濃い金髪の毛先をくるくると指に巻き付け、唇を尖らせる様子は、まだまだ少年のようなリュカ様。
早く大人になりたいとはいうものの、リュカ様は昨年から騎士団に入り訓練を重ねているので、体つきは徐々にしっかりしてきたような気がします。
もともと線の細い方なので、少し分かりづらくはありますが。
そのことを伝えると、リュカ様が頬を染めて嬉しそうに微笑まれました。
――――弟がいたら、こんな感じだったのでしょうね。
リュカ様と綿密に打ち合わせしていたおかげで、王城での教育時はクロード様と会わずに済んでいたのですが、今日はダンスの日です。会わないというわけには行きません。
恥ずかしいので、なるべく使用人を減らし、覗かれないように窓にはカーテンをとお願いしました。
こうすれば、きっとクロード様の想い人の方に見られたり勘違いさせて悲しませてしまう可能性は減るでしょう。
私は予測を立てたのです。
クロード様は、城下町や各領地に視察などに出られることがありますが、頻繁に通っているという話はありませんし、遠くの視察でもなるべく外泊を減らすようにされているようなので、王城内で働く方に想いを寄せているのではないかと。
きっと当たりです。だって、クロード様も人に見られないようにするのは賛成だと言ってくださいましたし。
「……イライザ、触れてもいいか?」
向かい合わせになり、ダンス教師からホールドしてくださいと言われたあと、クロード様が少し戸惑ったようなお顔とお声で聞いてこられました。
リュカ様、ちゃんと仕込んでくださったのですね。流石です。
ここは私もしっかりと演技しなければ!
「……はい。その……優しくしてください」
「っあ――――ん、分かってる」
なぜかクロード様の耳が赤いです。もしや、思ったより身体を寄せてダンスすることに憤りを感じて!?
これはまずいと半歩ほど後ろに下がったのですが、そのせいでお互いの足がぶつかりバランスを崩してドサッと倒れてしまいました。
気付けばクロード様に押し倒されたような格好に。
「いたっ?」
胸がムギュッと締め付けられるような感覚に、つい声を上げてしまいました。
なんでだろうと視線を胸元に向けると、節ばった大きな手が胸を鷲掴みにしていました。
「「あ」」
クロード様の冷淡なお顔がみるみる内に真っ赤に染まっていきます。
「す、まな……いっ」
「お二人とも、大丈夫ですか!?」
「あっ、はい! 大丈夫です」
飛び退くようにして私から離れたクロード様を見て、少しだけ淋しさが湧いてしまいました。
昔だったら、抱き上げて立たせてくれていたのに。流石に今はそうしなくとも、せめて――――。
「痛めたところはないか? 立てるか?」
フロアに座り込んでしょんぼりしていた私の前に、クロード様が片膝を突いて右手を差し出してくださいました。
接触したらいけないと思っていたから、クロード様から近付いて来てくれたことが嬉しくて、抱きつきたい衝動に駆られそうに。
両手を伸ばしかけてグッと我慢。
クロード様の右手に左手を重ね、引っ張り上げてもらいながら、ゆっくりと立ち上がりました。
「念のため、医師を呼ぼう」
「大丈夫ですよ」
「……ん。だが、頭を打ったりしていないか心配だから今日はここまでに。何か不調を感じたら直ぐに知らせてくれ」
「はい。ありがとう存じます」
このまま返すのは不安だから、王城の客室に泊まっていかないかと言われましたが、そんな危険は犯せません。
「では、屋敷まで送っていこう」
「このあとリュカ様とのお茶会がありますので。お気遣いありがとう存じます」
丁重にお断りしましたら、クロード様の眉間にまたもや大峡谷。
「リュカと……か。好きなのか?」
「リュカ様をですか?」
「あぁ」
「はい、好きですよ。弟みたいと言っては失礼なのでしょうけれど、弟のように思っています」
「ん、そうか」
クロード様の表情が一瞬だけ緩みましたが、すぐにいつもの険しい表情に戻ってしまいました。
「リュカには私から伝えておく。今日は屋敷に帰るんだ」
「……」
「イライザ、返事は?」
「はぁい」
今日はなんだかクロード様と以前のように自然とお話が出来ました。なので、気が緩んでしまっていたのでしょう、リュカ様と打ち合わせしたかったのになぁという思いもあって、少しいじけたような返事をしてしまいました。
クロード様がクスリと笑うと、頭をぽんぽんと撫でてくださいます。
――――あぁ、やっと触れてくれた。
そこで思い至りました。
私の初恋はクロード様なのですが、その想いはいまだ心の中にあったのだと。
そして、この恋は叶うことはないのだと。
□□□
弟が産まれ、王太子として自分を律するよう言われ続ける日々。もちろん、産まれたばかりの弟は可愛い。だが、そのせいで私は両陛下に甘えることを許されなくなっていた。
そんなある初夏のガーデンパーティー。
一人になりたくて庭園の更に奥にある、あまり整備されていない旧庭園に向かった。
古びだガゼボに、すすり泣く真っ赤な髪の幼い少女がいた。
何をしているのかと問うと、顔を髪と同じくらい真っ赤に染め、泣きじゃくりながら抱きついてきた。
「ぎゅっでぢでぇ」
「え……うん」
不安で抱きしめてほしかったのだろか?
言われるがままに抱きしめると、ふわふわとした赤髪から甘い匂いがするし、小さな体を震えさせながら必死に抱きついてくる仕草で、本能的にこの子を護らねばと思った。
「名前は?」
「いりゃいざ」
「イライザ、かな? 私はクロードだよ」
「くろーどしゃま? じゅっと、しょばにいてね?」
「うん。ずっとそばにいるよ」
そう答えると、イライザは涙と鼻水でぐちゃぐちゃに汚れた顔で、天使のように笑いかけてくれた。
――――あぁ、そうか。私はこの子に出逢うため、この世に産まれたのだろう。
私は、本気でそう思っていた。
私の希望もあり、イライザには王城に遊びに来る許可が出た。
だが、月日が経つにつれ、公務に追われる日々が続くと、私とイライザの距離が徐々に遠のき、弟であるリュカとイライザの距離はどんどんと近くなっていった。
十代の終わりごろだった。
リュカから私の顔が険しいからイライザが怖がっていると言われ、なんとか笑顔を向けるようにしたのだが、そのたびにビクリと震え顔を背けられるようになってしまった。
怖がらせているのなら、あまり近寄らないほうがいいのかもしれないと、自らも距離を置くようになっていた。
二十歳になる直前、婚約者はどうするのかと言われたが、今は王太子としての公務に集中したいからと、全て断っていた。
私があまりにも女性に興味を示さないので、痺れを切らした両陛下から、イライザとの婚約話をルサージュ伯と進めていると言われ、イライザは了承しているのかと聞くと、両陛下はルサージュは乗り気だと言われた。
リュカからこっそり聞いたのは、イライザはやはり私の顔や冷淡な振る舞いが怖く、触れられたら気絶してしまうかもと泣いていたという。
王命なので仕方なく受け入れてはいる、と。
それでも、私は、イライザと結婚話を進めた。
あの幼い日に抱いた思いが捨てられなくて。
時間をかければ、きっと幼かった日々のような関係に戻れると信じて。
『くろーどしゃま? じゅっと、しょばにいてね?』
ずっと、そばにいると約束したから。
だが、そんな私の想いは、幾度も砕かれた。
妃教育の前倒しで結婚式は先延ばし、ダイエットをしたいからと先延ばし、涼しい秋口の方がいいと更に先延ばし。
一年どころか二年近く先延ばしされていたのに、また半年以上も先延ばししようとしてくる。
両親は豊穣の季節に結婚した夫婦は家庭円満になる言い伝えがあるからと快諾。
二人きりで話したいのに、イライザの側にはいつもリュカがいる。
もう、限界だった――――。
二人きりで話し合いがしたいとイライザを私室に呼び出した。
「クロード様、お呼びだとうかがいましたが」
「いったい、何を考えている?」
「え?」
「結婚式のことだ」
意図せず低い声が漏れ出てしまった。
穏やかに話し合いたかったのに、イライザを責めるような言い方になってしまい、慌てて弁明の言葉を紡ごうとしたところで、イライザがなぜかドヤ顔でサムズアップをしてきた。
「安心してください、婚約破棄しますので!」
「は?」
◇◇◇
なぜか分からないけれど、クロード様の私室に呼び出されました。
ご挨拶すると、少し暗い表情でソファの座面をトントンと叩かれました。たぶん、隣に座れということなのでしょう。
何やら怒っている様子のクロード様。
リュカ様が、最近のクロード様は目に見えてイライラしている、婚約破棄の話が進まないからだろうと言っていました。
これは、痺れを切らしている、というやつですね!?
安心していいですよ! とドヤ顔をしたら、ぽかんとした顔で「は?」と一言。そして、そのまま固まるクロード様。
「その――――」
なるべく頑張って引き延ばししていたが、これ以上は無理だから、何か私が悪い感じで理由を用意して婚約破棄してほしいとお願いしました。王命なので、我が家からは断れませんから。
「そんなに私との婚約は嫌だったのか?」
いつも冷静沈着で真顔を崩さないクロード様が、泣きそうなお顔に。
あれ? 何でクロード様が悲しそうなのでしょうか?
「え? 時間稼ぎのための偽装婚約ですよね? あっ! もしや、偽装結婚もした方がよかったのでしょうか!?」
「は!?」
「そこまで思い至らず申し訳ありません。この際ですし、リュカ様も交えて作戦会議をしませんか? 想い人の方のことも聞きたいですし!」
ついでにクロード様の想い人を知れたら、最近思い出したこの淡い恋心も消えるだろうと、期待していました。
「なぜそこでリュカが出てくる」
怒りを露わにしたクロード様にソファに押し倒され、完全にパニックです。
顔が近い!
顔がいい!
ちがうちがうちがう、えっと、好き。
んあ、それも違う。えっと……?
あれ? なぜリュカ様がって? あ、そっか。クロード様はリュカ様が私を協力者に引き入れてると知らないから、疑心暗鬼になっているとか?
どうしましょう……と押し倒されたままの状態で悩んでいましたら、ドアがガチャリと開きました。
「え……なにやってるの?」
リュカ様が肩で息をしながら、クロード様のお部屋に飛び込んできました。
「リュカ様、丁度いいところに! クロード様に偽装婚約だと知っていると話していたところなんです! 私たちは味方だと説得してください!」
「「……」」
シーン静まり返った室内に響く、はぁぁぁぁっと長い溜め息。
「あーぁ。バレちゃったか」
あと三ヵ月で僕が婚約できる年齢だったのにと、悪びれる様子もなく言い放つリュカ様。
「え? どういうことですか?」
「そういう鈍感なところも大好きだよ、イライザ。そんな奴より僕に乗り換えない?」
「は、はいぃぃぃぃ!?」
クロード様に押し倒されたままだということすっかり忘れてリュカ様と話していると、クロード様に顎を支えられ顔をクイッと正面に戻されてしまいました。
「……イライザは私のものだ」
どんどんと近付いてくるクロード様のお顔に、今自分が何をされようとしているのかを察知。
慌ててクロード様の口を両手で塞いだのですが、手のひらをペロリと舐められてしまい、背中や腰がゾクリと妙な高揚感に襲われました。
「ひょえぇぇぇ!」
「どういう驚き方だ、それは」
不機嫌マックス顔のクロード様に見下ろされているのに、なぜか全身から火が出そうです。
「あの……そういうことは、結婚してからがいいでしゅ……」
「————クソッ。天然め」
王太子がクソとか言ったら駄目ですよと言うと、クロード様が仕方なさそうな笑顔で額にキスをくれました。
「ねぇ、僕は何を見せられてるの?」
「…………リュカ。覚悟しておけよ?」
「はいはい。別にいいよ、僕は辺境の騎士団に派遣予定だから会うこともなくなるだろうけど。じゃあね」
そう言うと、手を振って部屋から出て行ってしまったリュカ様。
数日後、リュカ様は本当に辺境に行ってしまわれました。
後にクロード様から聞いたのは、リュカ様は本当に私のことが大好きだったこと。
偽装婚約はリュカ様の嘘だったこと。
辺境行きのお話が出て離れ離れになるのを焦っていた、私を連れて行きたくて画策していた、とのことでした。
「お見送りも挨拶も、できませんでした」
「それがリュカなりの矜持だったんだろう。私は……リュカを憎めない。許せとは言わないが、嫌わないでやってほしい」
「はい。リュカ様の想いには応えられませんが、大切な家族です」
「ん。ありがとう」
結婚式は、両陛下に言った手前、来年の秋口にすることに。
「結婚、待たせてすみません」
「今まですれ違っていた分、愛を育むための時間にすればいい。私はもうイライザを愛でることを我慢しないからな?」
頬にねちっこくキスをされ、耳元で「唇は結婚式までとっておく。安心していい」と全く安心できない、お腹の奥底に響くような低い声で囁かれ、全身から湯気が出そうでした。
安心してください、婚約破棄しますので! とドヤッたら、湿度高めの溺愛スイッチを押してしまったようです。
―― fin ――
読んでいただき、ありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ
クロードの出番増やせ!
お、珍しくちゃんとキュンいれたな? いやいや、もっと入れろ! 続き書け←
とかとかでいいので、ブクマや評価、感想などいただけますと、笛路が小躍りしますヽ(=´▽`=)ノ




