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30話 娘を思うが故

 



 再び大教会を訪れたアルドルは正面入り口で参拝客の対応をしている神官にフィデスの居場所を訊ね、予想通りの返答に満足して建物内に歩を進めた。無神論派ではないが、毎日飽きもせず参拝をするのものだと列に並ぶ参拝客やそんな彼等の対応をする神官を横目に、関係者以外立ち入り禁止のスペースに足を踏み入れ、目的の人物がいる部屋を目指した。

 到着したのはフィデスの執務室。ノックをして入室するとアルドルの目的の人物が三人いた。



「アルドル? どうしたんだ、また」



 訝しく見るオルドーに愛想笑いを浮かべつつ、フィデスの向かいに座るエイヴァに相席を求めた。



「ウェリタース夫人に、個人的に聞きたいことがあって参りました。夫人と大叔父上の話が終わった後でおれとも少し話しませんか?」

「私は構いませんわ」



 残るはフィデスの許可のみ。視線を向けると「エイヴァ夫人が良いのなら、私からとやかく言うつもりはないよ」と許可を貰った。



「私とフィデス司祭の話は大方終わりました。皇太子殿下のお話とは?」

「その前に。ウェリタース夫人と大叔父上が話したのは、二日後に行われる陛下の誕生日パーティーのことで?」

「フィービーの欠席を療養によるものと両陛下に納得していただく算段をつけました」



 エイヴァの生家ホワイトゴールド伯爵家に協力を既に要請済。当主の座を継いだエイヴァの弟にも助太刀を頼んでおり、もしもリーンハルトやビアトリスが納得をしなくても、宮廷医師を務めるホワイトゴールド伯爵の言葉と彼の診断書があれば何も言えなくなる。



「父上や母上は恐らく伯爵の口出しで下がってくれるでしょう。問題は叔母上です」



 諦めの悪さはダイアナ以上のレティーシャ。亡きダイアナに瓜二つなフィービーが病気で療養する等嘘だと言い出すのはこの場にいる四人とも予想している。



「ウェリタース夫人は、侯爵と結婚するまで先代伯爵と共に帝国全土を歩き回っていたと聞いています。亡きダイアナ夫人やローウェル公爵の関係を御存知ではなかったのですか」

「お恥ずかしながら、私は医者である父に憧れ幼少の頃より医療技術が進んだ国に住んでいる親戚の許で暮らしていました。帝都に戻ったのはデビュタントの前くらいですが、医者になる勉強や修行しかしておりませんでしたので社交界については殆ど知りませんでした」



 噂の一つや二つは仕入れて損はないと母に小言を言われ続けたものの、社交界に出るより医師免許を早く取得して父と共に仕事をしたかったエイヴァは殆ど社交をしなかった。その為、当時は悲劇と位置付けられたダイアナとクリストファーの悲恋さえも知らなかったのだ。

 知ったのはフィービーが家出をして以降フィデスに聞かされてからだ。ゴーランドの再婚相手に決まった時、両親が複雑な面持ちをし、素直に祝福しなかった理由が漸く分かった。十日前、生家に戻って両親にダイアナとクリストファーの悲恋について聞いたら母に叱られてしまった。



『同じ世代なのにダイアナ=サンディス様とクリストファー=ローウェル様の件を知らないのは貴女くらいよ!?』

『エイヴァが医者になろうと努力していたのはお前だって知っているんだ、そう怒らなくても』

『旦那様が医者になると言い出したエイヴァを止めるどころか後押ししてしまったせいでこの子は婚期を逃した挙句後妻になる羽目になったのですよ!?』



 庇う父にも母の矛先は向いてしまい、一時夫婦喧嘩にまで発展させてしまった。現在は仲直りをしている。



「この歳で母に叱られて恥ずかしい目に遭いましたが、オルドー殿下やフィデス司祭、母のお陰でローウェル公爵が夜会で会う度にフィービーに接触をした理由を知れました」



 皇族主催の夜会等で同じ場所にいると必ずフィービーに接触を試みるのがレティーシャ。彼女の場合はアイや他の令嬢達がフィービーを囲って輪を作り、アシュフォード家の関係を考えたレティーシャが実際に接触を成功させた回数は少ない。クリストファーは違う。アイを筆頭に令嬢達が作った輪にフィービーがいようと声を掛けていた。格上の相手に声を掛けられれば一令嬢のフィービーではどうしようもない。



「殆どは挨拶をされていただけですがフィービーが恐怖を感じていたのは事実」



 偶にアイや令嬢達と離れた時もフィービーが声を掛けられた時は、様子を見るよう心掛けていたエイヴァが間に入っていた。

 エイヴァが間に入ることによって、緊張と恐怖心によって微かに青褪めていたフィービーは安心感によって顔色が戻り表情も緊張が消えた。そんなフィービーを見ていたクリストファーにも変化があった。

 無表情や気難しい表情をしている時が多いクリストファーが微かだが和やかに変化させた眼差しをフィービーに向けていた。二人の接点はないに等しく、フィービーにとっては婚約者のミゲルを独占するダイアナの父親くらいの認識しかないのに。



「ローウェル公爵もまた……フィービーを通してダイアナ様を見ておられた。旦那様とは種類の違う性質の悪さですわ」

「ウェリタース夫人。ゴーランド=ウェリタースがフィービーの予定をレティーシャ=ローウェルに流していたと思われる証拠は見つかったか?」

「フィデス司祭に言われて探りを入れていますが何も」



 見つかればタダでは済まないと当人等とて分かっている。迂闊に証拠を残す真似をしない。



「ローウェル公爵家は、フィービーが家出をしたと知っているのですか?」

「まだ知りません。もしも知っていたら、あちこちに吹聴して回りますよ」



 アルドルの言葉には納得しかない。



「エイヴァ夫人。私から一ついいかな」

「何でしょう」

「ローウェル公爵家やゴーランド君のことが片付いたとしよう。フィービーとミゲルの婚約はどうする?」

「フィービーが望むなら、ミゲル様との婚約は解消します」



 考える間もなくあっさりと断言したエイヴァに三人は目を剥いた。



「ミゲル様の事情はフィデス司祭に聞きました。旦那様の脅しや過去のトラウマがあるにせよ、誰かに相談は出来た筈。アリアージュ公爵夫妻に出来ないならフィデス司祭でも良かった。一人で抱えて、状況を悪化させるだけさせてフィービーを諦められないと言われてもお断りです」



 この場にミゲルがいたら精神に止めを刺されていただろう。容赦の頭文字もないエイヴァの言葉に冷や汗を流したアルドルだが何も言えなかった。全部その通りなせいで。



「先ずは二日後、陛下の誕生日パーティーを乗り切ることが重要です。他のことは、その後に考えましょう」



 美しい笑みを浮かべ見せたエイヴァは微温くなった紅茶を飲んだのだった。




 


 

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― 新着の感想 ―
アイヴァお母さん素敵!ほんとその通りです。母って感じで安心する!フィービーが懐くのも納得です。フィービーの味方って、ほんと少ないですね。義母と妹だけか…
ぜひともボンクラにトドメを刺してやってほしいわ。 おっしゃる通り、テメエの事情は赤の他人の婚約者への不実の免罪符にはならんのよ。
その通り。ミゲルの都合を優先する必要はない。
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