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26話 アルドルの思惑

 



 問題なく北の町を出発した馬車は予定通りの日時に帝都に到着した。朝早く大教会の前に停車した二台からそれぞれ人が降りていく。



「いい加減観念しなってば」



 フィデスは未だ馬車を降りようとしないオルドーに振り向き、呆れを込めた眼で見やればオルドーは相当渋々腰を上げ馬車を降りた。約一年振りの帝都の空気は、北の町と違って肺を刺す冷たさがなく、寒いと言えば寒いが向こうと比べると雪が降っていない分全然マシだった。



「はああぁ」

「特大の溜め息ありがとう。ほらほら、北の教会を仕切っている人が情けない姿を見せるんじゃない」

「僕は来たくて来たんじゃない」

「誕生日パーティーは二日後。二日待って、一夜を耐えれば帰れるんだから我慢我慢」

「はあああぁー」



 二度目の特大溜め息を吐き、呆れの視線を刺し続けるフィデスをスルーし、一台の馬車が向かって来ているのに気付いた。大教会の出入り口前に停車した馬車には帝国の紋章が刻まれている。この馬車に乗れるのは皇族のみ。顔を強張らせたオルドーと瞬きを繰り返すフィデス。



「ま、まさか、僕が戻って来ているか確認をしに来たのか?」

「いくら何でもそれはないんじゃ……」



 等と言っている間に御者が扉を開けた。馬車から降りて来たのは——皇太子アルドルであった。颯爽とアルドルが近付いたのはオルドー。



「叔父上、お久しぶりです。約一年振りですか」

「アルドル……」



 オルドーは馬車に乗っていたのがアルドルと分かって緊張の糸を解き、疲れからくる溜め息を吐いた。てっきりリーンハルトが来たのかと身構えてしまった為に。アルドルもそれは分かっているらしく「陛下ではなく、来たのはおれ一人です」と揶揄う。



「全く……行動力が豊かだな。陛下や皇后には一言言ってあるのか?」

「いいえ? 全く」

「……」



 悪びれもせず言ってのけたアルドルに脱力するオルドーの横、無言で大教会へやって来た又甥に呆れつつもフィデスは困惑しているアズエラ達四人に先に大教会へ入っているよう指示した。



「後で私も向かう。四人は先に入っていて。アズエラ、イーサン達を礼拝堂へ案内してあげて」

「わ、分かりました」



 突然の皇太子の登場に地方出身の貴族が面食らうのは無理もなく、指示を受けたアズエラは三人を連れて大教会の中へ入った。彼等が中に入ったのを確認後、フィデスは機嫌の好い笑みを浮かべるアルドルに小言を飛ばした。



「自分の立場を分かってやってるのかい?」

「勿論。ただ、おれ個人としては久しぶりにオルドー叔父上に会えるのが楽しみだっただけです」

「物は言いようだね。何か言いたいことがあるから、こんな早朝に来たんでしょう?」

「はは」



 お道化て見せてもフィデスにはお見通し。雰囲気を変えず、獲物を定めた捕食者の目付きに変わったアルドルは単刀直入に問うた。



「大叔父上。陛下を失脚させたい貴方の気持ち、少しは分かります。陛下が皇帝の座に就いている限り、ローウェル公爵を除いた三人は陛下や母上の寵愛を盾に今後も好き勝手するのは目に見えています」

「アルドルはどうしたいの」

「詳しい話は中でしませんか? 外は寒いですよ」



 建前で相手を釣り、核心の内容は信頼に値すれば話す。そんなアルドルの思惑にオルドーもフィデスも敢えて乗った。秘密の話をする時に使う部屋へ行こうと大教会に入った。



「私は先にアズエラ達に帝都にいる間の説明をしてくるよ。アズエラは帝都出身者だから実家に戻ればいいけど、イーサン達三人に部屋の案内をしないと」



 フィデスと途中で別れ、二人並んで長い廊下を歩くが無言ではない。



「おれが陛下の失脚をと話した時、叔父上は驚きませんでしたね。大叔父上に聞いてたでしょう?」

「さてな」



 アルドルがどこまで気付いているか不明だがオルドーは敢えて知らない振りを貫く。



「熱砂の国の国王を御存知ですか?」

「うん? ……ああ。六十代になっても色欲が衰えない爺さんか。確か、後宮には二十を超える側室がいると聞く」



 帝国より遥か西に位置する砂漠の王国を支配する現国王は六十を迎えても若々しい肉体を保っており、若さの秘訣は女を抱くことだとパーティーの場で豪快に笑うので有名だ。毎晩違う側室を寝室に呼び、朝まで性行為に及ぶのだとか。国王に朝まで付き合える側室は大のお気に入りとされている。



「二日後の陛下の誕生日パーティーに貴賓として招待されています。遠い国同士の親交を深める名目で実際は新しい嫁探しをする為です」

「欲が尽きないことだな」

「陛下は熱砂の国の国王のご機嫌取りの為、彼の国王が好みそうな女性を近くに置こうとしています」



 不意に足を止めたアルドルに振り向くと意味深な笑みを浮かべ見せていた。



「陛下はフィービー=ウェリタース嬢を彼の国王の側に置きたがっています」



 途端に強張るオルドーだが一瞬で平静を取り戻す。しかし、一瞬の時さえアルドルは見逃さなかった。



「フィービー嬢が彼の国王に気に入られれば、両国の関係維持の為、皇帝の命令でミゲルとの婚約が解消されてしまいます。叔父上、単刀直入に言いますがフィービー嬢は叔父上のところで匿われているのではないですか?」

「アルドル」

「彼の国王の存在を思い出してフィービー嬢を側に置こうと言い出したのは母上ですが、発端はレティーシャ叔母上です。オルドー叔父上、おれは親友の婚約者を生贄にしたくありません。居場所を知ったところで誰かに話すつもりはありませんから、イエスかノーかで答えてくださいよ」



 約半月の移動中にフィービーとミゲルを確実に引き裂く策をレティーシャは思い付いたらしく、友好国が絡むなら皇族の独断にはならないとビアトリスやリーンハルトが賛同してしまっている。アルドルの後ろへ視線をやった後、視線を戻したオルドーは静かに頷いた。


「お前の言う通りフィービー嬢は北の教会支部で預かっている」と。


 


 

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― 新着の感想 ―
心底屑な奴らだな(^^) 王家ごと滅びれば良い
確か、王家はフィービーが家出中なことを知らないんですよね?当日に欠席ってわかって絶望すればいい。 好色爺さんはダイアナを連れて帰ればいいよ。側室なら子ども産む必要も無いしね。
毎回思いますが親世代気持ち悪… (公爵は被害者なだけかもなので保留) 更に色欲王がキモメンバーとして増えましたね。ウウ。 ダイアナ(娘)は気持ち悪いし我儘だけど、 病でまともに頭が働きにくいだろうし…
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