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三題噺もどき4

趣味

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくごじゅう。

 




 ジワジワと濡れ始めたアスファルトが視界の端に映る。

 ついでのように、頭も服も濡れ始めていく。

「……ふぅ」

 なんとか、びしょ濡れになる前にたどり着いた。

 帰路についた散歩途中、突然の雨に降られた。

 本格的に降り出す前に帰ってこられてよかった……濡れると色々面倒だからな。

 マンションの玄関ホールの手前で、一度息をつく。

「……」

 申し訳程度の屋根の下で、軽く水をはたく。

 まだ降り始めだったからよかったものの、これが一気に本降りになるような雨だったら今の一瞬でびしょ濡れだっただろうな。

 家を出るときには見えていた三日月も、雲で覆われ完全に見えなくなっていた。

「……」

 少しずつ勢いを増していく雨を少々鬱陶しく思いながら、ホールに入る。

 入り口には、管理人の趣味で置かれた玄関マットが敷かれている。

 何とも言えない表情をしたカピバラのキャラクターが描かれている。それなりに知られているキャラクターなのか、同じ顔が描かれた商品がたまに管理人室の前に置かれていたりする。

「……」

 ちなみに、玄関ホールに掛けられている時計にも、同じカピバラが居る。

 大きいのと小さいのが並んで同じような表情でこちらを見ている。

 まぁ、可愛さも分からなくはないが、こう、一つの何かに傾倒する感覚というのは少々わかりづらい。

「……」

 私にもそういう感覚がないわけでもないのだろうが……ここまで徹底するほどのことがないと言うか。趣味と言えば読書くらいだし……まぁ、しいて言えば本を集めるのが趣味なのか。読書をしない人からしたら、私もこの管理人と同じように見えるのだろうか。

 私の同居人は、趣味は料理というかお菓子作りというか、だから……あまりこれはモノが残らないだろう。集めると言う感覚にはならないかもしれないな。

「……」

 そうそう。

 趣味に、傾倒する、で思いだしたが。

 いやもう、思いだしたくもなかったが。

「……」

 数日前に顔を出した、悪趣味な男が居たが。

 あれ以来直接的な接触はしてきていない。

 どうせその辺にでもいると思うのだが、いかんせん隠れるのだけは上手いのだ。

 そうして生きてきた奴だから。探る気にもなれない。

 接触してきた日以降、こちらの体調も戻りつつあるので……悪趣味で集めた呪いだかなんだかを試すことはやめたのだろう。

「……」

 アレは、昔から、こう……なんでも集めようと言う悪趣味なところがある。

 収集癖と一言でいえばいいのだろうが、集める対象が広いと言うか。

 アレが、美しい、と思ったものをひたすらに集めると言う悪趣味で。

「……」

 それもアレの気まぐれで集めるから、一時は花だったくせに、次には人間を集めているし、その次には目玉を集めてみたり、耳だけを集めてみたり、いつだったか美少年とかを集めていた時期があった。

 ―過去に一度、アレの屋敷に連れて行かれたが、あまりの収集癖に眩暈を覚えたことがある。あの時は、私はどちらかというと収集の対象として連れて行かれたのだったらしいが。

「……」

 私はあまり、そういう……ことを、肯定的に取れる訳ではないから。

 ただまぁ、普通の吸血鬼なら美しいモノを集めるのは当然だとでも言うように、他の奴らもそういうことをしてはいた。それの対象が時代錯誤も甚だしく、人間だったり他の生き物だったりしたから、私は受け入れられなかった。絶対にしなかった。

 美しいものは手元に置かずとも、遠くから眺めるなりなんなりで十分だろう。

「……」

 それであいつは、他の奴らより収集癖が酷く、悪趣味なのだ。

 何でも美しいと思う……らしい。感受性が豊かといえば聞こえがいいが。

 そんな可愛らしいものでもないからな。

「……」

 はぁ。

 嫌なことを思い出した。

 雨のせいで気分もよくないし。

「……」

 さっさと戻って、仕事をしよう。

 その後には、同居人の美味しいお菓子が待っている。





「あれ以降、何もないですね」

「ん……まぁ、そうだな」

「このまま帰ればいいんですけどねぇ」

「あぁ……全くアレの相手は面倒だ」

















 お題:眩暈・カピバラ・時計

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