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門を調査
海岸沿いに設けられた臨時の観測台は、慌ただしく動く兵士たちでごった返していた。
「測量班、距離を測れ!」「記録班、波の変化を逐一報告!」
父の短い指示が飛ぶたび、現場の空気がピンと張りつめる。
俺は少し離れた場所から“門”を見つめた。
昼間の陽光を反射して白く輝き、時折、海面に向かって光の粒を落としている。
……美しい。けど、同時に何か胸の奥をざわつかせる。
「レンシス」
不意に父が呼んだ。
「これはただの自然現象ではない。古い記録に似た記述があった。“門”が現れた後――」
父は言葉を切り、わずかに海風を吸い込む。
「――魔物の群れが現れた、とな」
背後でユーリが嬉々として叫ぶ。
「つまり戦か!兵を倍増し、海岸砦を――」
「やめろってば!」
思わず声が裏返った俺に、父とサーシャの視線が同時に刺さる。
「……レンシス、お前にも見せたいものがある」
父の声は低く、けれど決して拒否できない重みを帯びていた。
「これから軍港へ行く。そこで、ヴォルグラードがこの時のために用意してきた切り札を見せよう」
切り札――
嫌な予感しかしない。