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門に向かう
馬車の中、俺は座席に深く沈み込みながらため息をついた。
「……なんで俺も行くことになってるの?」
「第一王子ですから」
サーシャが即答。俺、まだ5歳なのに…。
そもそも“門”の場所が特定されたって話を聞いたのは昨日。
父は眉間に皺を寄せて地図を睨み、「視察だ」と一言。
次の瞬間、俺は「当然お前も来るな?」と肩を叩かれていた。
……拒否権なんて存在しなかった。
向かいの席では、父が腕を組み、窓の外を睨んでいる。
「“門”が本物なら、即座に陣地を築く。遅れは許されん」
隣のユーリがやたらと頷く。
「将軍様!若殿の士気高揚のご発言があれば兵の志気は百倍に!」
「そんなわけないでしょ!?」
馬車が揺れ、窓の外には険しい海岸線が見えてきた。
赤く染まった海がまだ残っていて、その先――薄い霧の中に、あの光の筋がかすかに立っている。
背中がゾワッとする。
(やっぱりヤバいやつだ……ゲームだったら確実にボス出てくるパターン)
「着くぞ」
父の声に身を固くする。
海風と潮の匂いが一気に吹き込んできた。
そして、地平線の先に――空と海を貫く、眩しい“門”が確かに存在していた。