門?
城に着くと、父はそのまま執務室へ消えていった。
ユーリも慌ただしく兵士たちに指示を飛ばしに行ってしまい、気づけば俺とサーシャだけが廊下に残された。
「……ねえサーシャ」
「はい、若殿」
「さっき父さんが言ってた“門”って、やっぱり何かのヤバいやつ?」
サーシャは一瞬だけ周囲を見回し、小さく息を吐いた。
「……古い記録によれば、“門”は別の世界とこの世界を繋ぐ境界です」
「べ、別の世界!?」
「数百年前、魔物が大量に現れた“魔物戦争”は、その門が開いたのが原因だと」
背筋に冷たい汗が流れる。
(完全にゲームでよくある展開じゃん……やばいやつ確定じゃん……)
「ただし、本当に開いた記録は少ない上、詳しい仕組みも分かっていません」
「それって……開いたら、また魔物とか出てくるってこと?」
「可能性は高いです」
サーシャの声は淡々としていたが、その目だけは笑っていなかった。
そして付け加える。
「若殿。お父上は“門”のことを本気で調べる気でしょう」
「……俺は平和に暮らしたいだけなんだけど!」
「そういうお気持ちは、大声では言わない方が賢明です」
「やっぱり……」
廊下の窓から、夕陽に照らされた海が見えた。
もう赤色は消えていたが、あの光の筋はまだかすかに海の向こうに立っていた。
胸の奥で、嫌な予感がじわじわと広がっていく――。