夢の解読開始
王城の一室。地図や古文書が広げられ、重苦しい空気の中で会議は続いていた。
ヴォルグラードの王であり将軍でもある父は、静かにレンシスを見つめる。隣にはサーシャが控え、レオニード王太子も真剣な面持ちで座っていた。
「……レンシス。最近、夢をよく見ると聞いた。話してみる気はあるか?」
父の問いかけに、俺は小さく頷く。サーシャがそっと手を握り返してくれた。
「……ええ。ここ最近、門に近づいた日の夜は必ず夢を見るんです」
俺はゆっくりと言葉を選んだ。
「巨石が、まるで羽のように浮かび上がって、音と光に導かれるように積み上がっていく……。気づけばそれは、街の外れにそびえる巨大な建造物になっていて……」
思い出すだけで、胸の奥がざわめく。
「建物……いえ、装置のような気もします。何かを伝えるための……」
「通信か……?」
レオニードが眉をひそめる。
俺は首を振る。
「……言葉では説明しづらいんです。でも、ただの建造物ではありません。あれは“繋ぐ”ためのものです」
沈黙。部屋の空気が張りつめる。
サーシャがぽつりと補った。
「若殿の言う“繋ぐ”は、人と人、あるいは世界と世界……。言葉にできない直感ですが、私も共鳴の場に立ち会って、そう感じました」
レオニードは静かに息を吐いた。
「なるほど。我々には理解できぬ次元の話だ。しかし……観測者という存在が、レンシス殿を通して見せているのなら――」
父が重々しく言葉を継いだ。
「ならば、それを否定することは愚かだ。理解はできずとも……信じ、記録し、活かすしかあるまい」
彼の視線が鋭く俺を射抜く。
「レンシス、お前の見る夢もまた、観測対象だ。お前自身が“記録”となる。サーシャ、補佐を怠るな」
「御意」
サーシャが凛と答えた。
沈黙の後、レオニードが指先で机上の地図を叩いた。
「もしレンシス殿の夢が“建造物”を示すなら、手がかりは現実にも残っているはずだ。我がアルディナの記録には、かつて“天頂石”と呼ばれる巨石群が各地に存在したとある。だが、今では多くが失われ、あるいは埋もれている」
父が低く唸る。
「巨石……。それが装置であり、異界との通信のためのものだとすれば……門は単なる境界ではない。むしろ、“中継地点”なのかもしれんな」
サーシャが冷静に口を開いた。
「つまり、夢に現れた建造物を特定すれば、門との関係が解き明かせる……」
レオニードは頷き、書記に指示を飛ばした。
「古文書の再調査だ。特に“巨石”や“星の道”と記された部分を洗い出せ。地図上の伝承地もすべて割り出す」
父はレンシスに視線を向ける。
「レンシス。お前の夢は単なる幻ではない。観測者が映し出すものだ。これからは夢の内容も逐一報告しろ。それを手掛かりに、我々は調査を進める」
俺は深く頷いた。
「……はい。次に見た時は、もっと細かく覚えておきます」
その言葉に、サーシャが小さく微笑み、静かに俺の肩へ手を置いた。
「私も記録を助けます。言葉にしづらいことは、私が代わりに言語化して差し上げます」
父とレオニードは顔を見合わせ、重々しく結論を下す。
「次の調査は――夢に現れた巨石群と門との関連を追う。これを“第三回合同調査”の主題とする」
重苦しい空気の中に、確かな決意だけが灯った。




