話し合い
城の一室。重厚な扉が閉じられる音が響く。
父とレオニードが卓を挟み、レンシスとサーシャが向かいに座っていた。
レオニードは静かに切り出す。
「……レンシス殿。あなたが門に近づくたび、明らかに何かが呼応している。
観測を強化する以上、あなたの内面――記憶や夢もまた、記録の対象に加えるべきでしょう」
父も頷く。
「お前にとっては負担になるかもしれんが……隠して済む話ではなくなった」
レンシスは逡巡し、サーシャの視線を受けてようやく決意する。
「……実は、最近繰り返し同じ夢を見るんです。
見知らぬ大地に、巨石が浮かび上がり……光と音の波で積み上がっていく。
その向こうに、必ず門のような影が揺れている」
レオニードは目を細め、低く呟く。
「……《パンゲラス年代記》にある“巨石を浮かせて築かれた建造物”。寓話と思っていたが……まさか夢として甦るとは」
父は黙って腕を組み、レンシスをまっすぐ見つめる。
「つまり……前世の記憶とやらが、いよいよ我らの観測対象に食い込んできたわけだな」
サーシャは無言でレンシスの手を握る。
その感触に背を押され、レンシスは深く息をつき、口を開いた。
「前世の記憶がどこまで役立つのかは分かりません。でも……もし必要なら、夢や記憶の断片をすべて話します」
レオニードは満足げに頷いた。
「それで十分です。あなたの記憶そのものが、我らにとって最も価値ある観測記録となるでしょう」
父は一瞬だけ目を細め、息子を見据えた。
「……ならば、徹底的に見届けさせてもらうぞ。レンシス」




