いうべきか悩む
会議が終わり、自室に戻った俺は椅子に深く腰を下ろした。
長い会議の余韻がまだ耳に残っている。
「天使の末裔」だなんて、勝手に持ち上げられて……気づけば心臓の鼓動まで重く感じる。
サーシャが静かに湯を差し出す。
「若殿、また考え込んでおられますね」
「……そりゃそうだろ。伝承の証拠扱いされた挙句、戦力として期待されるなんてな」
湯気を見つめていると、自然と口が開いた。
「なぁ、サーシャ。……俺の“前世の記憶”のこと、父上や殿下に打ち明けた方がいいと思うか?」
サーシャは少し目を伏せ、考え込むようにしてから答えた。
「危険はあります。兵や学者に知られれば、若殿は“人”ではなく“鍵”として扱われるでしょう」
「……そうだよな」
俺がため息をつくと、彼女は小さく首を振った。
「ですが、父上と殿下ならば違います。二人だけなら、真実を告げる価値があります。お二人は若殿を守ろうとするでしょう」
言葉に押されるように、胸の迷いが少しほどけた。
父は戦場で俺を守り続けた人。殿下は利害を超えてまっすぐに俺を見ている人。確かに、この二人なら――。
「……わかった。次の機会に、二人だけに話す」
決意を口にした瞬間、胸の奥のざわめきが静まっていく。
サーシャは真っ直ぐに俺を見て言った。
「どんな答えを返されても、私は若殿の傍にいます」
その声音に、不思議と背中を押された。




