会議にて
王城の会議室。高い天井から吊るされた燭台が揺れ、夕暮れの光と炎が白大理石の壁に反射していた。
長机には、両国の将軍・兵士・学者が並び、緊張に押し黙っている。
最初に口を開いたのは、アルディナの王太子レオニードだった。
「――今回の事象を目の当たりにし、もはや疑いようがない。門は目覚めつつあり、それに応じるように“彼”が呼応した」
視線が自然とレンシスに集まる。
学者のひとりが興奮気味に立ち上がった。
「伝承にあった“光を纏う者”……我々はただの隠喩とばかり考えてきました。しかし、まさかそのままの形で現れるとは!」
周囲からざわめきが広がる。
ヴォルグラードの兵士たちは押し殺した声で囁き合い、戦力として計算を始めているのが見て取れた。
「もしやあの力を軍事に応用できるのでは……」
「いや、それ以上に……」
目はギラギラと光り、興奮を隠そうとしない。
その空気を、ヴァルディミール将軍が一喝した。
「――静まれ」
一言で場が凍りつく。
「軽々しく駒扱いするな。これは王国の存亡に関わる事象だ」
重苦しい沈黙の中、レオニードが再び口を開いた。
「アルディナには、ヴォルグラードには伝わらぬ古い伝承があります」
机の上に古文書を置き、ゆっくりとページをめくる。
「お伽話と笑われてきたものですが……“天使の末裔は、門と共に脈動し、大陸の均衡を繋ぐ”――そう記されています」
視線がレンシスに集中する。
レオニードは真っ直ぐ彼を見据え、宣言するように言った。
「レンシス殿。あなたは“天使”と呼ばれた存在の末裔で、まず間違いないでしょう。これを前提に、我々は今後の調査を進めるべきです」
「……勝手に決めないでください」
レンシスの声は震えていた。
「俺はただの……」
その肩に、そっとサーシャの手が添えられる。彼女は無表情のまま、しかし強く抱きとめるように支えていた。
兵士たちの視線、学者の熱、王族の期待――すべてがレンシスを中心に渦巻く。
逃げ場は、もうなかった。




