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伝承

沈黙を破ったのは、一人の学者だった。

震える指で分厚い書を開きながら叫ぶ。


「……ま、まさか……! 伝承にある“光をまとい石を浮かせる者”……!」


ざわめきが一気に広がる。

別の学者が声を重ねる。

「我々は長らく比喩や寓話だと考えてきた……“天使の末裔は大地を揺らし、空を歩く”と――だが、これは……そのままの現象ではないか!」


レオニードの視線が鋭く俺に突き刺さった。

「……やはり、ただの偶然ではなかったか」


息を乱し、地面に膝をついたままの俺は答えることもできず、ただ心臓の異様な鼓動を押さえ込むしかなかった。


兵士たちの怒号と学者たちの歓声が入り乱れる。

「これが……伝承の力だ!」

「戦場で用いれば無敵ではないか!」

ヴォルグラードの兵士たちの目は、もはや戦利品を前にした猛獣のようにギラついていた。


その中で、俺は膝をつき、呼吸を荒げていた。胸の鼓動がまだ門と共鳴している。

次の瞬間、背後から細い腕が強く回された。

「若殿……!」

サーシャが無表情のまま俺を抱き締め、体ごと庇うように覆いかぶさってきた。

その仕草には恐怖よりも、絶対に離さないという固い意志だけがあった。


一部始終を見ていた父――ヴァルディミールは、低く短く告げた。

「――静まれ」


その声は、荒れ狂う場の空気を一瞬で凍り付かせた。

兵も学者も口をつぐむ。

父はゆるやかに視線を巡らせ、冷ややかな眼差しを全員に注ぐ。


「この件、王の許しなく口外を禁ずる。……我が息子を戦の道具にしたい者は、今ここで己の剣を抜け」


場を覆ったのは重い沈黙だった。

ギラついていた兵たちも押し黙り、誰もその言葉に逆らえない。


サーシャはまだ俺を抱き締めたまま離さず、父はただ静観していた。

だがその瞳の奥に、戦場の将ではなく父親としての決意の色がかすかに滲んでいた。

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