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第4回合同調査にて

海風が重く湿っている。

岩肌を削る波音の奥で、低い鼓動のような響きが混じっていた。

それが門の脈動だと気づくのに、時間はかからなかった。


「……前回より強い」

将軍の短い言葉に、調査隊全員が無言で頷く。

俺は息を整えながら、一歩ずつ門に近づいた。


その瞬間――視界の端に、あの幾何学模様が浮かび上がる。

ぼやけた光の線が空間をなぞり、門の中心に吸い込まれていく。

胸の奥で何かが熱く膨らみ、呼吸が合わなくなる。


「レンシス殿!」

レオニードの声が遠くに響いた。

耳鳴りの中で、足元から突き上げるような感覚――門と自分の心臓が同じリズムで脈打っている。


気づけば、両手が勝手に前に上がっていた。

指先から淡い光が走り、空気が波紋のように揺れる。

「……っ、止まらない!」


サーシャが駆け寄る。

「若殿、離れて!」

だが次の瞬間、地面が低く唸り、門の中心から吸い込むような力が発生した。

砂利が舞い上がり、サーシャもろとも前へ引き寄せられそうになる。


視界が真白に塗りつぶされた。

耳元で風が咆哮し、同時に心臓が門の鼓動と完全に重なった。


――流れ込んでくる。

光と、音と、形のない“圧”が俺の中へ押し寄せてくる。

息が詰まり、頭の奥が焼け付くように熱い。


「レンシス殿ッ!」

誰かの声が届くより先に、身体の芯から何かが弾けた。

指先から奔った光が、周囲に波紋のように広がり、舞い上がった砂利や岩を一斉に宙へと浮かせた。


「……っ!? 石が……!」

測量士の叫び。

だがそれを止める術は俺にはなかった。


胸の奥で、もう一つの心臓が打ち始めたかのようだ。

門の脈動と完全に同調し、周囲の世界が震えて見える。

岩肌の振動、空気の波立ち、人々の声――すべてが鮮明に“揺れ”として突き刺さってくる。


「若殿!」

サーシャが駆け寄り、俺の腕を掴む。

その瞬間、暴走しかけた光が少しだけ収束した。

彼女の手が“現実”に繋ぎ止めてくれている。


「……はぁっ、はぁっ……」

膝が折れ、地面に手をついた。

浮かんでいた石が次々に落ち、光は淡く消えていく。


沈黙。

全員の視線が俺に注がれている。


「……今のは……?」

レオニードが目を細める。

だが問いに答える余裕は俺にはなかった。

胸の鼓動はいまだ門と同じリズムを刻んでいる。

――そしてそのたびに、目に見えない“波”が周囲の空間を走るのがわかる。


自分の中で眠っていた何かが、確かに“目を覚ました”のだ。

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