訓練
アルディナ王城・中庭。
夕暮れの光に染まる石畳の上で、俺は両手を前にかざしていた。
「もっと集中しろ、若殿。門で見えた光の感覚を思い出せ」
将軍が腕を組み、低い声で促す。
横ではサーシャが、まるで護衛任務の一環のように腕を組みながら見守っている。
頭の中で、あの日の光景を反芻する。
脈打つ門、低く唸る大地、そして視界いっぱいに広がった幾何学模様。
だが――
「……っ、やっぱり出ない」
両手の先には何の変化もなく、ただ冷たい風が吹き抜けるだけだった。
将軍がため息をつく。
「門との共鳴がなければ発現しないのかもしれん」
「それなら、次の調査まで意味ないじゃないですか」
「意味はある」将軍はきっぱりと言う。「力は出せずとも、その形を思い出すことはできる」
サーシャが一歩前に出た。
「……若殿、門に引き込まれそうになった時の感覚を、怖がってませんか?」
ドキリとして、思わず視線を逸らす。
「……まあ、そりゃあ、ちょっとは」
「それを乗り越えないと、次は私も守れませんよ」
真っ直ぐな眼差しに、返す言葉を失った。
その時、レオニードがゆったりと中庭に姿を現す。
「調子はどうです?」
「ダメです。全然」
「焦らずともよい。――あなたは、門が目覚める時に必ず反応する」
「……それ、あんまり安心できないんですけど」
レオニードは微笑んだまま背を向けた。
「準備だけは怠らないことです。次は…何が起きてもおかしくない」
夕暮れの中庭に、再び静寂が落ちた。
次の調査――第4回目で、俺は嫌でも門と向き合わされることになる。




