かぎ?
王城の会議室は、夕陽が差し込む大きな窓から金色の光が流れ込み、長机の上の地図や報告書を淡く照らしていた。
両国の軍人、学者、記録官が席につき、低いざわめきが空気を揺らす。
レオニード王太子が軽く手を叩く。
「――それでは、第3回合同調査の報告を始めます」
測量士が立ち上がり、書類を整えて口を開く。
「現場で記録された異常の中でも、最も特筆すべきは…門付近で発生した“光の紋様”です」
その瞬間、会議室の空気が変わった。
学者が机の上にスケッチを広げる。そこには、門の脈動と同期するように浮かび上がった、複雑な幾何学模様が描かれていた。
「これを…どなたが?」と学者が尋ねる。
全員の視線が一斉にこちらに集まる。
俺は小さく肩をすくめた。
「……たぶん、俺です」
ざわめきが広がる中、学者はページをめくり、古びた羊皮紙を示す。
そこには、同じ形の模様が精緻に描かれていた。
「《パンゲラス年代記》に記されている“天使の鍵”と呼ばれる紋様です。光や音の共鳴によって門を開き、あるいは閉じるために使われたとされています」
父ヴァルディミールの眉がわずかに動く。
「つまり、この紋様は…」
「はい。門を制御できる唯一の力である可能性が高い」
レオニードが俺を見つめ、ゆっくりと口元に笑みを浮かべる。
「やはり――あなたは橋渡し役なのかもしれませんね、レンシス殿」
「いや、そんな…俺はただの……」
否定しかけた言葉は、胸の奥でひっかかって出てこなかった。
脈打つ門の映像と、自分の体からあふれた光の感触が、まだ指先に残っている。
その横でユーリがひそひそとサーシャに囁いた。
「若殿の立場がどんどんヤバくなっておりませんか?」
「今さら気づいたのですか…」とサーシャが小さくため息をついた。
レオニードは椅子から立ち上がり、場を見渡す。
「次回調査は、この“紋様”を鍵として活用します。そのためにも――レンシス殿には必ず参加していただきます」
逃げ道を完全に塞がれたことを悟り、俺は深く息を吐いた。




