撤収
強風が収まり、門の脈動も次第に静まっていった。
現場の安全を確認すると、俺たちは急ぎ撤収。アルディナ王城へ戻る道中、兵士や学者たちはそれぞれ記録や測定器の確認に追われていたが――誰もが時折チラッと将軍を見ては目を逸らしていた。
(まあ……そりゃあの変わりっぷりは驚くよな)
城門をくぐり、石畳の中庭を抜けて会議室へ向かうと、既に両国の代表団が集まっていた。
ーーー
再び会議室へ
王城の会議室は昼間よりも重々しい空気に包まれていた。
長机の上には新たな地図と記録用紙、そして先ほど現場で得たデータが広げられている。
父ヴァルディミールが椅子に腰を下ろし、硬い声で切り出した。
「……今の現象は偶発的な突風や磁場異常ではない。明確に“門”から発生していた」
アルディナ側の学者が頷き、記録簿をめくる。
「観測した振動波形は、過去の“門”発現時のものと一致します。しかも今回は持続時間が長い。これは……完全な開放の前兆かもしれません」
場が一瞬ざわめいた。
その中でレオニードが落ち着いた口調で続ける。
「つまり、次に同じ規模の脈動があれば、内部へ踏み込める可能性がある……と」
「危険すぎます」ヴォルグラード側の将校が即座に反論する。
「未知の空間に突入するなど――」
「だが、我々は手をこまねいていられない」父が静かに言った。
「次回の脈動に備え、両国で常時観測隊を置くべきだ」
ーーーー
議題が一段落したところで、レオニードがふと俺を見る。
その視線はどこか探るようで、昼間の言葉を思い出させた。
(……やっぱり、俺が“橋渡し”ってやつだと思ってるんだな)
「レンシス殿」
「……なんでしょう」
「今回のような異常事態で、あなたの“感覚”がどれほど役立つかは証明されました。次回は観測隊の中核として動いていただきたい」
断る隙を与えない言い方に、俺はただ深く息を吐くしかなかった。
横でサーシャが、まだ少し腕に残る震えを押さえながら小さく笑った。
「大丈夫です。お守りしますよ」




