父?
突風がさらに勢いを増し、門の脈動が低く大地を震わせる。
「……やっぱり、これ……何かの目覚めだ……」
そう呟いた瞬間、門の中心から強烈な吸引力が発生した。
「――っ!」
足元の砂利がふわりと宙に浮き、全身が一気に前へ引き寄せられる。
必死で踏ん張るが、靴底がズルズルと滑っていく。
「若殿!」
サーシャが後ろから抱きかかえるように掴み、必死で引き戻そうとする。
だが次の瞬間、彼女ごと吸い込まれかけた。
「……させるかッ!」
低く唸る声とともに、将軍が片手を突き出す。
周囲の空気が一変し、熱を帯びた衝撃波のような魔力が荒れ狂った。
その奔流が吸引の力を断ち切り、俺とサーシャは地面へと転がり込む。
「ふ、ぅ……」
助かったと安堵し、顔を上げた俺は思わず二度見した。
そこに立っていたのは、見慣れた屈強な男――のはずだった。
だが今や頬はシャープに削げ、精悍な輪郭を持つ“別人級イケメン”がそこにいた。
「父上……なんですか、その顔」
「魔力を使いすぎた副作用だ」
ぽかんとする俺たちの前で、ユーリが小声で「……誰?」と呟く。
サーシャも目を瞬かせ、「いや……これはこれで……」と言いかけるのを、
俺は慌てて手で制した。
周囲の兵も学者も、戦場の緊迫感を忘れて一瞬言葉を失っていた。




