第二回合同調査へ!
城下の宿舎に戻ると、すでに第二回調査隊の編成表が壁に貼り出されていた。
俺とサーシャの名前は、当然のように一番上に書かれている。
「……もう逃げられないな」
「最初からそのつもりはないでしょう?」とサーシャ。
いや、あるんだけどな俺は。
廊下の先ではユーリが兵士たちに荷をまとめさせながら、片手で胃を押さえていた。
「菓子は……もう見たくもない……」
「そりゃあれだけ食べればな」
思わず苦笑したが、次の瞬間、窓の外をかすめた冷たい突風に鳥肌が立った。
翌朝。
重装備の兵士、測量機材を抱える学者、魔力測定具を運ぶ魔術士たち――数十名規模の隊列が王城を出発する。
俺は馬の手綱を握りながら、昨日レオニードに言われた言葉を思い出していた。
(“橋渡し役”……そんな大層なもんじゃないはずなのに)
進むにつれ空は曇り、地平線の向こうに薄く光の筋が立ち上るのが見えた。
まだ遠いのに、門の周囲に吹く風の音が耳を震わせる。
サーシャが低く呟く。
「……あれは、前回よりも強くなっていますね」
「だよな。なんか、嫌な予感しかしない」
ーーーー
海沿いの台地に到着した瞬間、空気の質が変わった。
肌を刺すような冷気が風に混じり、遠くの地平線で陽炎のような揺らめきが走る。
「全員、測定器の準備を!」アルディナの指揮官が声を張る。
ヴォルグラード側の兵士たちも黙々と計器を展開し始めるが、突如として突風が吹き荒れ、立っているのもやっとの状態になった。
「風速……四十二……!」測量士の声がかき消されそうになる。
砂利が顔に叩きつけられ、視界の端で若い兵士が膝をつく。木造小屋なら一瞬で吹き飛ぶ勢いだ。
「レンシス殿、下がって!」サーシャが俺の腕を引く。
しかし、その瞬間――
金属探知機が一斉に高音を発し、方位磁針がぐるぐると回転を始めた。
「磁場が……狂ってる!」学者が顔色を変える。
風に混じって、低く唸るような音が地面の奥から響き、足元の土が微かに振動していた。
目を凝らすと、“門”の周囲の空間がまた歪み始めている。
光が収束し、カメラのフラッシュのように一瞬だけ視界が真っ白になる――が、完全に消えることはなく、形を保ったまま脈動していた。
「……これ、前回よりも明らかに活性化してる」
息を詰める俺の背で、ユーリが唸った。
「なあ……この音、心臓の鼓動みたいに聞こえねえか……?」
誰も答えられなかった。
異常現象はまだ始まったばかり――そんな直感だけが、耳鳴りと一緒に頭にこびりついて離れなかった。




