至近距離
海沿いの断崖を越えた瞬間、全員の足が止まった。
そこにあったのは――空を縫い合わせるように立つ、一本の光の柱。
直径は人の背丈ほどだが、眩しさは太陽の直視に近い。海面に触れる根元は白く泡立ち、波が常に外へと押し返されている。
近づくほど、耳鳴りのような低い唸りが胸の奥に響く。
風はないのに、髪が逆立つ感覚。金属の匂いが鼻腔を刺す。
「……これが、“門”」
レオニードが呟く声は、波音にかき消されそうだった。
父も無言のまま、じっと光を見据えている。
一歩踏み出した瞬間――
突風が爆ぜたように吹き荒れ、砂と海水が全身を叩いた。
咄嗟に目を閉じるが、視界の裏で閃光が走る。まるでカメラのフラッシュを浴びたみたいに、真っ白な残像が脳裏を焼いた。
「立て!」父の声に必死で踏ん張る。
風は暴力のように全員を押し倒そうとし、鎧の継ぎ目から塩水が入り込む。
木造の見張り櫓が悲鳴を上げ、柱が軋みをあげた。
そして、突風が止むや否や――
磁針を持っていた測量士が叫んだ。
「磁場が……乱れている!方位が定まらない!」
俺は息を荒げながら光を見た。
柱は確かに細くなっている。だが、消えるどころか、以前よりも鋭く、深く海と空を貫いていた。
胸の奥がざわめく。
これはただの現象じゃない――何かが、向こうで待っている。




