表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/39

退避

調査隊は海岸から一時撤退し、アルディナが用意した臨時の指揮天幕へと戻った。

外ではまだ強風が吹き荒れているが、分厚い布と木骨の天幕の中は驚くほど静かだ。

机の上には潮で湿った地図と、乱れた磁場の観測記録が並んでいる。


「――以上が現時点での状況だ」

測量班の報告を受け、父が低く頷く。

「予測より規模が大きいな。これ以上の単独調査は危険だ」


レオニードも腕を組み、ゆっくりと視線を巡らせる。

「我が国でも同じ現象を観測している。となれば、この“裂け目”は双方にとっての脅威だ」

「……脅威、か」俺は思わず呟く。

口の中が乾く。あの光と暴風は、まるで世界が拒絶しているようだった。


「ならば――」父の声が鋭くなる。

「次は共同での接近作戦を行う。兵の選抜、装備の統一、連絡手段の確保……すべて速やかに調えろ」


「了解」ヴォルグラードとアルディナ双方の副官が同時に敬礼する。

その横で、ユーリが胃のあたりを押さえて小さく呻いた。

「……殿下、申し訳ありません。先ほどの宴での果物が……」

「だから言ったのに……」

「いえ、任務には支障ございません!」と強がって立ち上がるが、顔色はどう見ても支障だらけだった。


「若殿」レオニードがふと俺に目を向ける。

「あなたには、現場での判断役も担っていただきたい。今日の観察力――偶然とは思えません」

「えっ……いや、あれは本当に偶然で――」

父の視線が刺さり、言葉が喉で止まる。

「……わかりました」


こうして、俺は次回の“門”接近作戦に、完全に外せないメンバーとして組み込まれてしまった。

外では相変わらず光の柱が、雲間に脈打ち続けている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ