まるで台風
軍とアルディナの合同調査隊は、潮風に吹かれながら門の立つ海岸へと進んだ。
遠くにそびえる光の柱は、間近で見ると海面から突き抜ける巨大な針のようで、脈打つたびに空気が震えている。
「……近づくほどに風が強まっているな」
父の低い声が背後から響いた。
その直後、轟音が耳を裂いた。
海から吹き上がる風が一気に牙を剥き、全員の体を押し倒そうとする。
「くっ……! 立っていられません!」ユーリが足を踏ん張り、声を張り上げた。
砂が顔に叩きつけられ、視界は白く霞む。台風の暴風域にも匹敵する風――木造家屋なら容易く壊れるだろう。
「隊列を崩すな!伏せろ!」
ヴォルグラード兵とアルディナ兵が同時に声を上げ、互いの兵を引き寄せ庇う。
レオニードはマントを翻し、レンシスの前に立って風を受け止めた。
「無事か!」
「……はい、なんとか!」
やがて風が急に止む――と思った瞬間、腰に下げた金属器具がカチカチと震え出した。
「……磁場が乱れている」測量班の声が震える。
羅針盤の針が狂ったように回り、船上の無線機からはノイズが途切れなく流れた。
「撤退しますか?」アルディナの副官が問う。
父は首を横に振る。
「いや……記録を続けろ。ただし安全確保を最優先だ」
レオニードも頷き、避難経路の確保を命じる。
突風と磁場の乱れが収まるまでの数分間、兵士たちは自然と背中を合わせ、互いを支えて立ち続けていた。
この異常が何を意味するのかはまだ分からない。ただ一つ、ここは人の領域ではないということだけは、誰もが感じ取っていた。




